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245話―囚われし者たちの決意

 ヴァールの記憶を見終えたアゼルの意識が、再び闇に呑まれる。気が付くと、元の部屋にいた。フラフィは起き上がったアゼルに近付き、コップを渡す。


「お目覚めになりましたね。どうぞ、お水です。冷えていますよ」


「ありがとうございます。……フラフィさん。今ぼくが見たのは……」


「はい。千年前にヴァール様が体験なされた出来事……その一部です」


 アゼルの問いにフラフィはそう答える。ギャリオンと別れてからのヴァールの想いが、今のアゼルには痛いほど理解することが出来た。


 そして、永い時の中で彼女が狂気に蝕まれていった理由も。


「あのお方は、……炎片を守るために、己を犠牲にし続けた。炎が消えぬよう、己の鱗をむしり(たきぎ)とし。ありとあらゆる研究を重ね、どうすれば炎を存続させ続けられるかを模索してきました」


「……その代償を、彼女は支払った。そうですね?」


「はい。あのお方は、いくつもの禁術に手を出しました。時には、闇の眷属たちですら忌憚するおぞましい魔術をも用いて……使命を、果たそうとしたのです」


 ――執念、妄執、狂信。それらの言葉で、ヴァールの行いを片付けるのは簡単だ。だが、アゼルは違った。


「ヴァール様の抱いた愛と使命感は、いつしか狂気へと変わり……かつての王としてあり方を、奪ってしまいました。あまりにも痛々しいお姿に……皆、心を痛めています」


「なら、救わなきゃ。純然なる悪意からの行動でない以上、彼女も救われないといけない。たった今、理解しました。ぼくは、ヴァールさんを救うためにここにいるのだと」


 うつむくフラフィに、アゼルはそう答える。一息に水を飲み干し、ベッドから立ち上がった。両の目には、強い決意が宿っている。


「無理、ですよ。あのお方を蝕む狂気は、並み大抵の方法では……」


「出来ますよ。ルーンマジックの一つ、イビルクリーナーを用いれば……ヴァールさんを蝕む狂気を、打ち消すことが出来る。そのための、力なのですから」


 力強く宣言し、アゼルはヘイルブリンガーを呼び出す。斧刃に刻まれたルーン文字が白く明滅し、期待に応えるように煙を吹き出した。


 堂々と宣言してみせたアゼルに、フラフィは小さな希望を抱く。彼ならば、自分たちの主を永年の狂気から解放してくれるかもしれない、と。


「……アゼル様。虫のいい話だとは承知しています。ですが……お願いです。ヴァール様を……お救い、ください……!」


「任せてください。このぼくにね! ……ところで、アンジェリカさんたちは今どこに?」


 決意を固めたところで、アゼルはふと仲間の安否が気になり問う。目尻に浮かんだ涙を拭い、フラフィは答えた。


「ああ、そのお二人でしたら……焦熱の監獄塔というエリアで監禁されています」



◇―――――――――――――――――――――◇



 遥か空の彼方、雲の上に存在する五つの浮島の一つ、ザムダ。ヴァールの住まう城のある浮島からやや離れたその島に、大きな塔があった。


 活火山と一体化するように建てられた、罪人たちの終の住み処。その最下層に、アンジェリカとアーシアが囚われていた。


「しっかし、こいつら全く動きませんねぇ。しばらくキョロキョロしてたかと思えば、目ぇ瞑っちまってますもん」


「クリスタルの中に封印してあるからな。動こうにも動けぬだろう。寝る以外にすることなどないさ」


 何重にも張り巡らされた鉄格子の奥に、二人の看守がいる。会話をしている彼らのさらに奥に、天井から垂れ下がる巨大な結晶があった。


 その内部に、アンジェリカたちは封じ込められていた。焦熱の監獄塔を脱獄し、アゼルを助けに行くことが出来ないように。


「しっかしまぁ。生きたままにしとけ、死なないように見張れだなんて、ヴァール様も無茶なこと言ってくれますねぇ。いくら俺らが竜人だからって、この暑さはねぇ……」


「あと六日の辛抱だ。六日後の新月の夜に、()()()()を執り行うそうだ。それまでは、こいつらを生かし続けろとの厳命が下されている」


「へぇーへ。面倒なこって。あー、早く交代の時間にならねえかなぁ。すぐ下にマグマがあるせいであっついんだよな……」


 二人組みの看守は、マグマの熱に耐えながら見張りを続ける。一方のアーシアたちは、ただ囚われているわけではない。


 身動きこそ出来ないものの、自分たちにやれることを行っていた。それは……。


『へぶっ!』


『どうした、アンジェリカ。動きが鈍いぞ。そんな体たらくでは、この先やっていけないな』


『ぐぐ……もう、一度ですわ。次こそ……避けてみせます』


 二人は、アーシアが作り出した精神世界に魂を移して修行を行っていた。クリスタルに囚われ、アンジェリカは覇骸装を没収された。


 仮に脱出出来ても、看守たちが襲ってくるなか、マグマが流れる塔を上に登らねばならない。そのため、二人は来る時に向け己を鍛えていたのだ。


『安心しろ、アンジェリカ。ここで怪我をしても、余たちの肉体には何の影響もない。思う存分修行が出来る』


『ええ。ちょうどいい場所ですわ。アゼルさまの魔力がわたくしの中に残っているうちに……新しい奥義を編み出してみせます!』


『ふふ、その意気やよし、だ。幸い、余たちの安全は六日後まで保証されている。期日ギリギリまで存分に! 鍛練を積もうではないか!』


『望むところですわ! わたくしの中にあるアイデアを、必ず形にし……モノにしてみせますわぁぁぁ!!』


 精神世界に居ても、外の様子はアーシアに伝わる。ペラペラよく喋る看守たちのおかげで、時間がたっぷりあることが分かった二人は止まらない。


 アゼルを助け出し、ヴァールにリベンジを果たすため……鍛練を積み続ける。アンジェリカは、これまで持たなかった遠距離攻撃の手段を編み出すために。


 アーシアは、ヴァールの持つ強力な再生能力と竜魔法を打ち破るための新たな奥義を会得するために……過酷な修行に身を投じるのだった。



◇―――――――――――――――――――――◇



「……これは由々しき事態よ。マイダーリンがヴァール様に拐われるとは……不覚ね」


「おまけに、あのビシャスとかいうクソトカゲには散々翻弄されて同士討ち。無傷で取り逃がした……封印の巫女として恥ずべき失態だ」


 その頃、リリンたちは緊急会議を行っていた。街の住民や騎士の証言、そして崩落した四階のテラスからアゼルのローブが見つかったことで、彼が誘拐されたことが分かったからだ。


「なぁ、こんなまどろっこしい会議なんてする必要ねぇだろ? さっさとヴァールのとこに乗り込んで、アゼルを助けりゃいいだろよ」


「そう簡単にはいかねえよ、シャスティ。騎士たちの証言じゃ、アーシアとアンジェリカも一緒に拐われたらしい。あの二人をとっ捕まえるようなのが相手だ、闇雲に乗り込んでもやられる」


 はやるシャスティを、カイルが諌める。彼の言う通り、何の策もなしに乗り込んだところで勝算はない。何しろ、相手は聖戦の四王なのだから。


「ヴァール公の居場所は、僕が知っている。遥か空の彼方にある五つの浮島、フライハイト。おそらく、アゼルくんたちはそこにいる」


「おお、頼りになるねー! じゃあ皆で助けに行こうよ!」


「ダメだ。大人数でぞろぞろ行けば、あっという間に見つかって消し炭になるのがオチだ。最高でも、五人が限度だ。ワタシの隠密を完璧に維持出来るのは」


 メレェーナが挙手するも、即座にフェムゴーチェが却下した。自分たちの恩人ということもあり、アゼル救出に乗り気なようだ。


「そうね、フェムなら潜入任務なんてお茶の子サイサイだもの。ジークと一緒に行ってもらうわ」


「となると、同行出来るのはあと三人だな! よし、なら俺が」


「ダメだ、ガルは連れて行かん。貴様の図体では、ワタシでもフォロー出来ない。おまけに、貴様は声がデカいし体臭も強い。相手は竜人、すぐバレる」


「……はい」


 いの一番にガルガラッドが名乗りをあげるも、即座に却下された上でメタメタに貶されしゅんとしてしまう。次に名乗りをあげたのは、レミアノールだ。


「私ならどうだ? ガルほどは大きくないから、隠密行動に支障はない。それに、私の得物は弓矢。敵の認識範囲の外から、一方的に()れる」


「まあ、いいだろう。お前はジークを愛する者同士(ソウルフルメイト)だからな。ということで、残りの二人はキミたちの中から選ぶ。さあ、誰が行く?」


 救出任務に同行出来るのは、あと二人。リリン、シャスティ、メレェーナ、カイル、ソルディオ。この五人の中から、誰かを選ばねばならない。


 最初に、名乗りをあげたのは――。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど誰かに色々弄られて狂ったかと思ったが全てを捧げ全てを掛けて炎を守ったのか(ーー;) 数百年の狂念、只で消せるか(#゜Д゜)y-~~
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