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244話―ある竜の記憶

「う……ここは、一体……? あれ? 身体が、戻ってる?」


 ヴァールに連れ去られたアゼルが目を覚ますと、豪華な調度品が多数置かれた部屋の中にいた。どうやら、何者かにベッドで寝かされていたらしい。


 さらに、赤ちゃんから元の姿に戻っており、高級な絹の服を着せられていた。わけが分からず疑問符を浮かべていると、部屋の扉が開く。


「お目覚めになりましたか、アゼル様。私の名はフラフィ、あなた方様のお世話係を務めさせていただく者です。以後お見知りおきを」


「あ、はい、どうも……って、いやいや! 一体何がどうなってるんですか! アンジェリカさんたちはどこに……むぐ」


「一つずつ質問にお答えします。まずは落ち着いてくださいませ」


 藍色のメイド服を着た竜人の女性――フラフィは、アゼルの唇に指をそっと当てて黙らせる。クスッと笑った後、彼の疑問に答え始めた。


「じゃあ……どうしてぼくは元の姿に戻っているんですか?」


「この城に戻った後、ヴァール様が自らの血をあなたに与えたのですよ。竜の血には、あらゆる病や怪我を癒し、呪いを解く力がありますから」


「なるほど。では次の質問です。アンジェリカさんたちはどこにいるんですか?」


「そのお二人は、別棟にて大人しくしてもらっております。ヴァール様からすれば、招かれざる客ですからね」


 フラフィの言い方から、アゼルはアンジェリカたちがまだ生きていることを確信する。少し考えた後、三つ目の質問をぶつけた。


「あの竜……ヴァールは一体、何をしようとしているのですか?」


「あのお方の目的はただ一つ。あなた様の身体に宿る四つの炎片を抜き取り、その全てを手中に収め……永遠なる炎の守り人になること」


「どうして、そんなことを?」


 ヴァールの目的を知り、アゼルは問う。彼はすでにジェリドやエルダ、エイルリークたちに認められ炎片を継いだのだ。


 ヴァールのやろうとしていることは、彼らの意思を踏みにじる行い。よほどの理由があるのだろうと、アゼルは考えていた。


「……ヴァール様は今、とても強く激しい狂気に呑まれてしまっています。今回の事も、あのお方が正気であれば起こらなかったでしょう」


「では何故、ヴァールは狂気に?」


「それは、私が説明するより……あなた様自身が()()方が早いでしょう。さあ、目を閉じて。あなたの中に流れる、ヴァール様の血を感じるのです」


「血を、感じる? 分かりました、やってみます」


 フラフィにそう言われ、アゼルは目を閉じる。深呼吸をすると、己の体内に流れる異質な魔力を感じとることが出来た。


(これが、ヴァールの血……。あれ、なんだろう、意識が……遠、のく……)


 すると、凄まじい眠気がアゼルを襲う。ベッドに倒れ、アゼルの意識は闇の中へ消えていった。



◇―――――――――――――――――――――◇



『……父上、母上。兄者、姉者。何故だ。何故……出来損ないの妾ではなく、みなが死ななければならなかったのだ。どうして……』


(あれは……ヴァール? 向こうにあるのは、お墓……なのかな?)


 目が覚めると、アゼルは霊体のような半透明の姿となって宙に浮いていた。青空が広がる草原に、一体の竜が佇んでいる。


 四肢のない六翼の容姿から、ヴァールであるとアゼルは気付いた。アゼルのことは見えていないようで、無数に建てられた墓標の前で涙を流している。


『ラ・グーめ……! 許さぬ、決して……許しはせぬ。我が一族を根絶やしにした怨み、必ず晴らして』


『やあ、こんにちは。君がヴァールだね? お悔やみをあげに来たよ』


『!? 貴様、何者だ? 妾は貴様など知らぬ。早々に立ち去れ!』


 愛する者たちを奪われ、憎悪の炎を燃やしているヴァールの元に一人の青年が現れた。鮮やかなオレンジ色の鎧を着た青年は、竜に声をかける。


 拒絶の言葉をかけられても気にしていないようで、困ったように微笑んだあと、並べられた墓へ近付き黙祷を捧げた。


『……私はね、君の父君には大きな恩があるんだ。反乱軍のために、物資や竜の血を提供してくれていたからね。だから、冥福を祈らせてほしい』


『反乱軍? ということは貴様は……()()ギャリオンか?』


『ああ。……今回のこと、心から残念に思う。デューダだけでなく、一族もろともとは……』


『貴様……いや、汝が気に病む必要はない。全てはラ・グーが元凶なのだ。奴に目を付けられ、父上たちは……!』


(……そうか。ヴァールのお父さんがギャリオン王に力を貸していたことがラ・グーにバレて、報復を受けたんだ……。ぼくがこの時代にいれば、皆生き返らせてあげられるのに)


 空中から若き日のギャリオンたちのやり取りを見守りつつ、アゼルは悔しそうに心の中で呟く。そんななか、ヴァールが口を開く。


『汝の噂はいろいろ聞いている。ラ・グーを倒し、この大地を解放するため戦っていると』


『そうさ。ラ・グーの圧政で、みな苦しんでいる。罪の無い人々が、必要のない悲劇に踊らされ嘆き悲しんでいる。そんな世界を正すために、私たちは戦っているんだ』


『……ならば、一つ頼みがある。妾もその輪に加えてはもらえぬだろうか。妾は憎いのだ、全てを奪ったラ・グーが!』


 ヴァールは翼を羽ばたかせて宙に浮かび、ギャリオンの方へ向き直る。頭を下げ、反乱軍に加えてほしいと懇願した。


『見ての通り、手足のない不具の身体だが……空は飛べるし、ブレスも吐ける。荷馬車の代わりでもいい、だから頼む! 妾は、みなの仇を討ちたいのだ!』


『こちらこそ、是非とも君に加わってほしい。我々は今、空から敵を制圧出来る戦力を探していてね。竜族を束ねる一族の君なら、心強い戦力になるよ』


『……! そうか、ありがとう。ならば、他の竜たちにも働きかけ、反乱軍に加わるよう話をつける。ラ・グーめ……不具だからと妾を見逃したこと、後悔させてくれるわ』


 ギャリオンとヴァールは互いに見つめあい、笑みを浮かべる。すると、場面が変わり……今度は、どこかの城のテラスが現れた。


 テラスには一人の青年が佇み、手すりの向こうにいるヴァールと話をしている。アゼルは一目で、青年がギャリオンであると分かった。


『ヴァール……考え直す気はないのか? 転魂の儀を行えば、生前の記憶を引き継いだまま竜人へ転生出来まる。そうすれば、私との結婚も問題なく……』


『そう、だな。だがなギャリオン、転魂の儀をもってしても、我が手足は生えてこない。それに、竜魔法も使えなくなってしまう。それでは、ただの置物だ。そんな女は、汝の妻に相応しくない』


『相応しくないだと? そんなことはない! 私は、君のことが好きなんだ! 心から愛している!』


『ああ、妾もだ。汝と共に戦う中で……妾は、恋をした。汝を、愛するようになった。人と竜の種族を越えた恋をしたのだよ』


 ギャリオンたちの話から、恐らくラ・グーを倒し大地を解放した後の時系列なのだろうとアゼルは考えた。今の状態では何も出来ないため、ただ耳を傾ける。


『なら、何の問題もないだろう! 私たちの結婚に異を唱える者など』


『いる。貴族たちの中には、妾がギャリオンと結ばれるのが気に召さぬ者が大勢いるのだ。大方、自分たちの利権が脅かされるのを心配しているのだろうよ』


『……君は、それでいいのか? ヴァール』


『……もう、よいのだ。人は、大空を舞う竜の力強さに憧れ、竜は人の心の暖かさに惹かれる。されど……結ばれることは決してない。これが、定めなのだよ』


 寂しそうな笑みを浮かべながら、ヴァールはテラスから離れていく。今にも泣きそうな顔で、ギャリオンは手を伸ばす。


『待ってくれ、一体どこへ!?』


『妾は、汝より託された。生命の炎の欠片の一つ、逆鱗の炎片を。永遠に守り続けるために、旅立つのさ』


『ヴァール……行くな! 行かないでくれ!』


 ギャリオンは必死に懇願し、ヴァールを呼び止めようとする。だが……彼女の決意は固かった。首を横に振り、微笑みを浮かべた。


『すでにジェリドとエルダは、フレイディーア(この地)を離れた。妾もそうするだけのことだ。これが永遠の別れとなろう。さらばだ、ギャリオン』


(……ああ、そうか。だから、彼女はぼくを)


 そう口にした後、ヴァールは猛スピードで天へ昇っていく。両の目から大粒の涙をこぼしながら、想い人のいる地を去る。


『……さようなら、ギャリオン。妾の分まで、いつまでも……幸せに、な』


 嗚咽混じりにそう呟き、ヴァールは咆哮する。胸が張り裂けそうな、悲痛な叫びだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 叶わない恋ほど悲しい物はないさ(ーー;)でもそれでも役目を果たし続けるのも愛ゆえか( ´-ω-)y‐┛~~ それがここまで捻れるとはどこかで出刃亀したロクデナシいるなこれは(#゜Д゜)y-…
[一言] ヴァーリ、なぜ自らの幸せを捨ててまで、こんな事を……。
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