表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

245/311

238話―さようなら、リジール

 死闘の末に、グリニオを撃破したアゼルたち。あとは暗域と繋がる門を封じれば、全てが終わる。そう思っていた次の瞬間、玉座の間が揺れ始めた。


「うわっ! な、なんですかこの揺れは!」


「感じる……ずっと下の方で、強大な闇の力が暴走し始めてるのを」


 キョロキョロと周囲を見渡すアゼルに、リジールは緊迫した表情でそう告げる。その時、横たわっていたズィヴノが、僅かに頭を動かす。


「……そう、だ。暗域の門は、我の魔力で繋ぎ止め、安定させている。我が死ねば……制御を欠いた門が暴走し、大陸の半分が吹き飛ぶことになるだろう」


「そんな! ズィヴノ、どうにかして門を閉じることは出来ないんですか!?」


 余命幾ばくもない邪竜に、アゼルは問う。このまま門の暴走を許せば、本来の歴史よりも悲惨な未来が訪れることが確定してしまう。


 何としてでも、門の暴走を止めなければならない。ズィヴノはしばし考え込んだ後、アゼルとリジールを交互に見ながら話し出す。


「……方法はある。お前たちのどちらかが我と融合し、制御を引き継げばよい。そうすれば、時間こそかかるが門を安定させ、ひいては閉じることも可能だ」


「それ以外に、方法はないんだね?」


「ああ。だが安心しろ。融合するのは肉体だけだ。我が魂が滅びれば、融合した者の人格だけが残る。……もう、時間がない。どうするか急いで決めろ」


 ズィヴノが死ぬまで、もう時間はほとんど残されていない。アゼルの額に浮かぶ魔眼も、もうほぼ消えてしまっている。


 選べる手段はただ一つ。そして、それを実行出来るのは二人のどちらか片方のみ。リジールはしばし考え込んだ後、何かを決意し頷く。


「……決めた。ダークメタモルフォーゼ、スティンガー・ビー。アゼル……ごめんね」


「リジールさん? 何を……!?」


 蜂娘へ姿を変えたリジールは、素早くアゼルに近寄り麻痺毒を撃ち込む。身体が痺れ倒れ込むアゼルに、自分の時空間移動装置を装着させる。


 リジールは、自分が過去に残り――全てを、終わらせるつもりなのだ。


「な、んで……」


「ごめんね、アゼル。でも、約束したから。何があっても、アゼルを未来へ帰すって。……ん、これでよし。壊れちゃってる方の装置は、あたしが貰うから」


「ダメ、です。リジール、さんも……一緒、に」


「それは……出来ない。ズィヴノの言った方法は、アゼルにはさせられない。やれるのは……アーシア様に力を貰った、あたししかいないもの」


 そう言いながら、リジールは装置を作動させる。元いた時間へ、アゼルを帰すために。何かを言いたそうに自分を見上げるアゼルに、リジールは微笑む。


「大丈夫、約束するよアゼル。三百八十年、あたしはずっと生き続ける。暗域の門を閉じて……必ず、再会するから。だから――未来で、待っててね」


「リジールさん……!」


『時空間移動装置、起動。システムオールグリーン。これよりタイムジャンプを開始します』


 装置が作動し、無機質な音声が流れた後アゼルの身体が光に包まれる。少しして光が消えると、そこにアゼルの姿はなかった。


 彼は帰ったのだ。仲間たちが待つ、未来へと。リジールはズィヴノに近付き、身体に触れる。竜の命の灯火が、消えようとしていた。


「ズィヴノ、もう時間がない。融合のやり方を教えて」


「……お前が、残ったのか。てっきり、あの小僧を置き去りにして帰るものかと思っていたが」


「しないよ、そんなこと。あたしはね、アゼルに償いをするためにここに残ったんだよ。あたしにしか出来ないことをするために」


「何があったかは聞かぬ。だが、お前の決意は理解した。そのままじっとしていろ。我の全てを受け入れるのだ」


 リジールの身体の中に、ズィヴノの魔力が流れ込んでいく。それに合わせて、リジールの身体が少しずつ変化する。


 アンコウのように互いの身体が融合し、一つに混ざりあう。一人と一体は、新たな生命体へと生まれ変わろうとしていた。


「これが、アンタの魔力……。これだけあれば、きっと門も閉じられる!」


「だが……それで、終わりではない。闇の瘴気に汚染された大地を……浄化するのに、は……途方もない、年月がかかる。果たして……たった三百年と少しで、終えられるのか……あの世で、見せて……もら、う……」


 融合が完了したすぐあと、役目を果たしたとばかりにズィヴノは息絶えた。直後、暴走した門の影響で城の崩壊が始まる。


 竜の肉体を得たリジールは床を踏み砕き、一気に城の地下へ降りていく。その途中、死にかけのグリニオの悲鳴が聞こえてきた。


「いや、だ……オレが、こんなところで死ぬなん……げはっ!」


「瓦礫に潰されちゃったか、ざまーみろ。さて……着いたね。これが暗域の門か」


 城の地下に、禍々しい門が開いていた。大量の闇の瘴気が暗域から流れ込み、大地を汚さんと外へ溢れ出してある。


 リジールは門に手を当て、魔力を流し込む。アゼルとの約束を果たすために、全力を発揮する。


「……最後までやりきったら、アーシア様に誉めてもらえるかな。アゼルにも、許してもらえるかな。もし、そうなったら……嬉しいなぁ」


 そう呟くリジールの頬を、一筋の涙が流れて落ちていった。



◇―――――――――――――――――――――◇



「……ゼル。アゼル、大丈夫か?」


「う……。あれ、ここは……」


「よかった、やっと目が覚めたか。いきなり大広間に出てきた時は驚いたぞ。無事そうでなによりだ」


 何者かに声をかけられ、アゼルはゆっくりとまぶたを開く。目の前にいたのは、リリンだった。どうやら、彼女に膝枕されているようだ。


「リリン、お姉ちゃん……? 他の、みんなは?」


「シャスティたちか? 奴らは後片付けをしてるよ。ラ・グーの部下どもが攻めてきて、かなりの激戦になってな。ま、安心しろ。皆無事だ」


「そっか、ならよか……! そうだ、リジールさんを探しに行かないと!」


「おい、どうしたアゼル? どこに行くんだ!?」


 完全に意識が戻ったアゼルは、大慌てで広間を飛び出して城の外に出る。城下町では、騎士たちが瓦礫の撤去作業を行っていた。


「サモン・ボーンバード! 急いで南に……」


「どうしたんだアゼル、そんなに慌てて。私も同行するから、何があったのか聞かせてくれ」


「分かりました、とりあえず急ぎましょう!」


 アゼルはリリンと共にボーンバードに乗り、都を出て遥か南を目指す。その途中で、二人は情報交換をする。


 暗滅の騎士を全員救い、歴史を変えたこと。暗域の門を閉じるため、リジールがただ一人過去へ残ったことをアゼルは話す。


「そうだったのか……。奴め、そんな選択をしたのか」


「はい。リジールさんは……たった、一人で……」


「実はな、アゼルが戻ってくる前に、すでに歴史は変わったんだ。ほら、前を見てみるといい。王国領の先にも、平野が広がっているだろう?」


「本当だ……じゃあ、ぼくたちは」


「ああ。歴史を変えたんだ。アゼルたちは、やり遂げたんだよ」


 リリンの言葉に、アゼルは安堵の息を漏らす。過去の世界で見た、禍々しく変容した大地はもうない。三百八十年の時をかけて、リジールが全てを元に戻したのだ。


「戦いの後、書庫に行って歴史がどれほど変わったか確認してきた。旧公国領全域が禁足地に指定されて、三百年以上誰も立ち入っていないらしい」


「じゃあ、誰もリジールさんの消息を知らないってことですね?」


「ああ。生きていればいいのだがな」


 一刻も早くリジールの無事を確かめたいと、アゼルはボーンバードを駆る。人の手が入っていないせいで、鬱蒼とした森が大地を覆っていた。


 かつての都は跡形もなく森に呑まれ、ズィヴノの城があった場所も分からない。どうやって探そうがアゼルが考えていると、脳裏に声が響く。


――アゼル。あたしは、ここだよ。こっちに来て――


「この声は……よし!」


 声に導かれ、アゼルは高度を下げる。森の中へと踏み入り、ゆっくりと南へ進む。


「アゼル、この先にリジールがいるのか?」


「ええ。聞こえたんです、声が。きっと、この先にリジールさんが……! あ、あれは!」


 しばらく森の中を進むと、急に二人の視界が開け光が射し込む。大きな広場の中央に、赤茶けた鱗を持つ巨大なドラゴンが鎮座していた。


 目を瞑り座するドラゴンの鼻先に、女性の上半身が生えている。祈りを捧げるように手を組み、うつむいているせいで顔が分かりにくかったが……。


 アゼルには、その女性がリジールであることが一目で分かった。


「リジール、さん……?」


「……その、声。アゼル……なんだね。あたし……頑張ったよ。ちゃんと……約束、守ったよ」


 ドラゴンに近寄り、アゼルは声をかける。祈りを捧げていたリジールは、閉じていたまぶたを開け――柔らかな微笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この展開事態は前々から予想できていたが本当にやってのけるとは(ʘᗩʘ’) まさかズィヴノと融合して封印と浄化の人柱になるとは(-_-メ) やってる事はあの栄光の劇場版モ○ラ3の最強形態ヨロイ…
[一言] ズィヴノの奴、ボグリスと比べたらマシな奴かもな。 リジール……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ