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235話―騎士たちに輝かしい明日を

 息の根を止められたズールの身体が分離し、ショウホウとズイホウの亡骸に変化する。それと同時に幻惑の煙が晴れ、歪んでいた空間も元に戻った。


 フェムゴーチェは影の穴を呼び出し、二体の竜の亡骸を影の世界に落として後始末を行う。その後、避難させていたアゼルたちを呼び戻す。


「終わったぞ、皆。あのクソドラゴンどもは……ん? 何故距離を取るのだ少年」


「いや、そりゃそうだろ。全部聞こえてたぞ、全部」


 なんとも言えない生暖かい笑みを浮かべて距離を取るアゼルを不思議そうに見ているフェムゴーチェに、ガルガラッドはそう声をかける。


「む、心外な。ワタシはジークへの愛を主張していただけ……う、ぐっ」


「フェムゴーチェさん、大丈夫ですか?」


「どうやら、エネルギー切れのようだ。自己修復機能をフルパワーで起動させたからな。済まないが、これ以上は戦えそうもない……」


 ピー、ピーというアラームが鳴り響き、フェムゴーチェは座り込んでしまう。アゼルに助けられるまで、凄惨な拷問を受けていたのだ。


 いくら傷が治ったとはいえ、体力まで完全に元通りとはいかないようだ。その時、窓の外から風を切る音が聞こえてくる。


 直後、窓をブチ割ってレミアノールが飛び込んできた。


「ここにいたか。魔力を探知して追ってきたが、全員揃っているようで手間が省けた」


「うお、ビックリした! なんだ、まだ撤退してなさったのか?」


「戻ってきた騎士たちから事情を聞いてな。一緒に退却しようと迎えに来たんだ」


 レミアノールはそう言うと、窓の外に身を乗り出して何やら合図を送る。すると、背中に一対の翼を生やしたルスタファがひょっこり顔を覗かせた。


「わ、どうしたんですかその翼! すっごくかっこいいです!」


「ふふ、驚いたか? わらわたち霊獣はこうやって空を飛ぶことも出来るのだよ。嵐が消えたおかげで、ここまで入り込めた。アゼルよ、感謝する」


「いえいえ。さあ、ガルガラッドさんもフェムゴーチェさんも撤退してください。ここからは、ぼくとリジールさんに任せて、ね?」


「いや、そういうわけにはいかねえよ。オレたちの目的はズィヴノを討伐することだからな」


 アゼルは三人の騎士に撤退してもらおうとするも、ガルガラッドは首を横に振った。しかし、三人とも多かれ少なかれ体力を消耗している。


 せっかく救った命を、再び散らしてしまえばこれまでの苦労が水の泡となってしまう。アゼルの目的は、彼らの死を防ぐことなのだから。


「まあ、それはそうだがなガルガラッド。お前もだいぶ疲れているだろう? さっきから、足が震えているぞ。そんな状態で戦っても、足手まといにしかなるまい」


「そうだ。ジークの手紙にも、ワタシたちが生きて戻ることを望む旨が書かれている。次に命を落とした時に、また蘇生してもらえるとは限らない。ここは退くべきだ」


 フェムゴーチェとレミアノールは、そう言って仲間を説得する。ガルガラッドは難しい顔をして考え込んでいたが、やがて意を決してアゼルに話しかけた。


「……仕方ねえ。半ばで任務を放り出すのは気が引けるが、騎士団もほぼ全滅しちまったしな。アゼル、ズィヴノの討伐……任せてもいいか?」


「任せてください、ガルガラッドさん。あなたたちを助け、ズィヴノを討ち歴史を変える。それが、ぼくとリジールさんがここに来た目的ですから」


「……そっか、ありがとよ。お前のおかげで、オレたちは生きて帰れる。いやー、よかったぜ。実を言うとよぉ、婚約してるツレによ。帰ったらプロポーズする約束してたんだ」


「おもいっきりフラグ立ててきちゃったわけだね……」


 ガハハと笑うガルガラッドに、リジールはやれやれとため息をつく。何はともあれ、アゼルたちの活躍により運命は変わった。


 悲惨な死を迎えるはずだった暗滅の騎士たちは、無事故郷へと帰還出来ることだろう。そうすれば、炎片も現代まで守られることになる。


「さあ、全員わらわの背に乗るがいい。安全な場所まで送ってやろう。……アゼル。ヌシには本当に世話になったな」


「気にしないでください、ルスタファさん。一族を救えてよかったです」


「……この者たちを送り届けたら、わらわは一族を連れて北の山脈の向こうへ行くつもりだ。霊獣の力をもってしても、あの森は浄化出来ぬ。新たな住処を探さねばならぬでな」


「そう、ですか……。じゃあ、これでお別れになりますね。寂しいですけれど……達者で暮らしてください」


 レミアノールたちを背中に乗せつつ、ルスタファはアゼルに別れの言葉を伝える。アゼルは彼女に近付き、そっと手を伸ばして頭を撫でた。


「アゼル、我が一族の救い主よ。約束しよう。末代に至るまで、そなたより受けた恩を語り継いでいくことを。偉大なる勇者に、霊獣の加護あれ! では……さらばだ!」


「さようなら、ルスタファさん! ……あ、そうだ。フェムゴーチェさん、これを!」


「おっと! ありがとう、少年。いつか必ず、恩を返そう。我ら暗滅の騎士の名にかけて!」


 ルスタファが飛び立つ寸前、ジークベルトからの手紙を渡しそびれていたことに気付いたアゼルはフェムゴーチェに向かって封筒を投げる。


 手紙を受け取ったフェムゴーチェは、大声で感謝の言葉を叫ぶ。三人の騎士を乗せたルスタファは、あっという間に遠ざかり姿が見えなくなった。


「……これで、目的は八割がた達成しましたね、リジールさん。あとは……」


「うん。ズィヴノを倒して、暗域と繋がる門を閉じるだけ……なん、だけど」


「だけど?」


「……なんだか、嫌な予感がする。アゼル、気を引き締めて行こう」


「ええ、もちろん。さあ、先に進みましょう」


 部屋を出たアゼルたちは、城を上へ上へと進んでいく。ズィヴノの配下はもういないようで、何者にも邪魔されず最上階へたどり着いた。


 大きな観音開きの扉の向こうから、凄まじい殺気が漂ってくる。アゼルとリジールは互いに顔を見合わせ、小さく頷く。


「……これが、最後の戦いです。ズィヴノを倒して、まるっとハッピーエンドで終わらせましょう」


「うん。あたしも……アゼルへの償いのために、全力で頑張るからね!」


「ふふ。期待してますよ、リジールさん。さあ、突撃です!」


 戦闘態勢を整え、アゼルはヘイルブリンガーを呼びだし構える。扉をぶった斬り、玉座の間へと飛び込んでいく。――が。


「ズィヴノ、覚悟し……!? え!? そ、そんな……あり得ない、なんでお前がここに……」


「よぉ、やっと来たかアゼル。ずっと待ってたんだぜぇ? お前がここに来るのをよ」


「……グリニオ!」


 玉座の間の中央に、黒と桃色のグラデーションがかった鱗を持つ巨大な竜が横たわっていた。生きているのか、死んでいるのかは分からない。


 その竜の上に、一人の男が座っている。かつてのアゼルとリジールの仲間にして、今はラ・グーの忠実なるしもべ。――グリニオが。


「……ああ、なるほど。嫌な予感の正体は――これだったんだね」


「あ? リジール、なんでてめぇがアゼルと一緒にいやがる。何のつもりだ、なぁ」


「それは、こっちのセリフだよ。何で、グリニオがここにいて……その竜の上に座ってるの?」


 アゼルたちが来るまでの間に、恐らくグリニオがズィヴノを倒したのだろう。だが、その意図が掴めずリジールは問いを投げ掛ける。


「何でって? 決まってるだろ。デモンストレーションさ。アゼルをぶっ殺すためのな!」


 そう叫ぶと、グリニオは跳躍して床に降り立つ。肥大化した右腕を床に叩き付け、邪悪な笑みを浮かべながらアゼルを見据える。


 その瞳には、並々ならぬ憎悪と歓喜が宿っていた。憎き存在を、己の手でくびり殺せる。そんな歪んだ悦びを感じ取り、アゼルに鳥肌を立たせる。


「さあ、覚悟しな。アゼルもリジールも、ここで殺してやるよ。そのために……オレはここに来たんだからなァァァァァ!!」


「……ぼくはここで死ぬつもりはありません。最後の務めを果たすために……返り討ちにして差し上げますよ、グリニオ!」


 二度と交わるはずのなかった運命が交差し、今――因縁の戦いが、幕を開ける。

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― 新着の感想 ―
[一言] 三騎士無事に救出して大将首のズィヴノを討てば例の兵器も使われず大陸も消し飛ばないってのが一番ベストな歴史修整だけどそこで本来居ない筈の未来からの刺客か(ʘᗩʘ’) それも残るに残ってた出涸…
[一言] ボグリス、今ここで決着をつける時だ!
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