232話―人形の騎士は涙を流さない
「これでよし、と。全員助けたな」
「ありがとうございます、ガルガラッド様! そちらのお二方も、本当にありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして。皆無事でよかったです」
ショウカクとズイカクを倒したアゼルたちは、人質にされていた騎士たちを助け出すことに成功した。命が助かったことに、皆安堵している。
「ところでだ、フェムゴーチェはどこにいるんだ? あいつがくたばるとは思えねえンが」
「は、はい。フェムゴーチェ様とは途中まで一緒だったのですが……罠が作動して離ればなれになってしまって、今どこにいるのか分からないのです」
「んー、そりゃちっとまずいな。よし、お前らは一旦城から脱出しろ。外にレミーがいるから、合流して霊樹の森まで退却しな。お前らなら、外の怪物程度はステゴロでもノせるだろ?」
「かしこまりました。ですが、ガルガラッド様は……」
「オレはこいつらと一緒にフェムを探す。あいつだけ置いてくわけにはいかねえからな」
命が助かったとはいえ、騎士たちは武具を奪われ丸腰の状態だ。このままでは、一緒にいても危険に晒してしまう。
故に、ガルガラッドは退却を指示する。レミアノールと合流出来れば、安全は保証されたも同然だと考えたのだ。
「あ、ならちょっと待ってください。間に合わせですけど、これを」
「ほー、骨の胸当てと剣か。こんなもんまで作れるのか?」
「ええ、一応は。不恰好だし、あんまり強度もないので普段は使いませんが……丸腰で送り出すわけにもいきませんから」
流石に丸腰では危険だろうと判断したアゼルは、スケルトンを呼び出し武具に変化させる。その場しのぎの急ごしらえではあるが、退却の役には立つだろう。
「ありがとう、少年。ありがたく使わせてもらうよ」
「気を付けてくださいね。雑魚ドラゴンたちはあらかた倒しましたが、生き残りがいないとも限りませんから。さ、ぼくたちは先に進みましょう、ガルガラッドさん」
「ああ。急いでフェムを捜さねーとな。オレの鼻で、匂いを探るとするか」
騎士たちと別れ、アゼルたちは上の階へ進む。ガルガラッドの鼻を頼りに、暗滅の騎士最後の一人を捜索する。
その途中、リジールはガルガラッドにとある質問を投げ掛けた。
「ねえ、そのフェムゴーチェって人はどんな人なの?」
「あいつはなぁ……そうだな、いつもクールで滅多に感情を見せねえ。ま、暗殺が主な任務だから引け目を感じてるんだろな。……ジーク以外の奴には」
「へえ、ジークベルトさんとは仲がいいんですか?」
「仲がいいなんてモンじゃねえ。あいつぁもうよ、ジークにオネツあげてンのよ。両手に花たぁ羨ましい限りだぜ。……あ、ジークのやつ隻腕だったわ。ワッハハハハハ!!」
廊下を進みながら、ガルガラッドは大笑いする。とう反応していいか分からなかったので、とりあえずアゼルたちは愛想笑いを返した。
その時、廊下の奥から怪しげな香りが漂ってくる。匂いを嗅ぎ取ったガルガラッドは顔をしかめ、即座に鼻を手で覆い匂いを遮断する。
「二人とも、気を付けろ。こいつぁ幻惑の香だ。深く吸っちまったら、幻影の中に囚われるぞ」
「それなら……クリアルーン、イビルクリーナー!」
アゼルも鼻をつまみ、ヘイルブリンガーを呼び出して頭上に掲げる。白い光と共に冷たい風が巻き起こり、幻影の香を掻き消してみせた。
「ありがとう、アゼル。それにしても、どこからあの香りが……?」
「廊下の奥だろうな。あの香は、よく拷問に使われるんだよ。幻影を見せて苦しめるためのな。つまり……この先に、フェムがいる可能性が高い」
リジールが首を傾げると、ガルガラッドが答えた。もし彼の推測が正しければ、急いで助け出す必要がある。
罠に警戒しつつ、アゼルたちは先へ進む。廊下の奥へ向かうたび、匂いがより強くなる。都度イビルクリーナーで打ち消しつつ、最奥部へ急ぐ。
「止まれ、二人とも。ここが終点だ。この扉の中から匂いが漏れてるな。この中に……」
「しっ、ちょっと静かに。中から声が聞こえてくるよ」
行き止まりにたどり着いたアゼルたちは、突き当たりにある扉の中から何者かの声が聞こえてくることに気付き声量を落とす。
扉に耳をくっつけ、耳を済ませてみると……苛立ちが混ざった二つの声が届いた。どうやら、何者かに拷問を行っているようだ。
「いつまでだんまりを決め込むつもりだ、ええ? さっさと吐いちまえ! そうすれば楽になるぞ?」
「ソル・デル・イスカとの国境に張られた結界を解く方法を、さっさと教えろ! さもないと、また電撃を流すぞ!」
「……やれば、いい。ワタシは、お前たちなんかに絶対屈しない!」
「そうかい。ズイホウ! 一発キツいのブチ込んでやりな! こいつの頭脳回路がショートしちまうくらいのを!」
「あいよ、任せなショウホウ! オラッ!」
次の瞬間、電撃がほとばしる音と共にくぐもった悲鳴が扉の向こうから漏れてくる。こうしてはいられないと、アゼルたちは助けに入ろうとするが……。
「チッ、扉が開かねえ! 中の奴らめ、何重にも結界を張ってやがるな!?」
「時間がありません、扉ごとブチ壊しましょう! 三人で力を合わせれば、壊せるはずです!」
「分かった! せーのでいくよ!」
アゼルたちが四苦八苦している間にも、部屋の中では拷問が続く。自動人形の騎士、フェムゴーチェはボロボロになっていた。
長い銀色の髪は無残に刈り取られ、全身に酷い火傷を負っている。二体の竜による、拷問のせいだ。それでも、彼女は折れない。
「強情な奴め。なら、また幻影を見せてやる。愛しのガキが処刑される幻影をな!」
「くっ……! いくらでも見せればいい。幻影だと分かっている以上、屈することはない!」
「ほー、そうかそうか。なら、今回はちょっと新しい方法をやろうか。ズイホウ、耳貸せ。ゴニョゴニョ……」
「おお、そりゃいい。よし、なら次の幻影はこれだ!」
手足を縛られ、壁に磔にされたフェムゴーチェの視界が揺らぐ。幻影の香によって、幻を見せられているのだ。
幻の舞台はソル・デル・イスカの王都、フレイディーア。廃墟同然となった都の広場に、断頭台が設置されている。
「また、同じ幻か。お前たちも飽きないな。トカゲの脳ミソで考えるネタなどたかが知れている」
「減らず口を……! フン、なら見せてやるよ。お前の仲間が処刑される光景を!」
フェムゴーチェの言葉に苛立ちながら、ズイホウは幻影を操る。広場の奥から、鎖に繋がれた若き姿のジークベルト――の、幻影が現れた。
「待て、貴様ら。ジークが抱いている赤ん坊は、一体なんだ!?」
「ケッケッケッ。言ったろ? 今回は新しい方法をやるってな。あのあかんぼは、近い将来お前とあのガキの間に生まれる子どもだよ!」
「ワタシと、ジークの……!? まさか、貴様ら……! やめろ、やめてくれ、それだけは!」
ショウホウの言葉に、フェムゴーチェは相手の目論見を悟る。悟ってしまう。二体の竜は、フェムゴーチェとジーベルトの子を殺す光景を見せて心をへし折るつもりなのだ。
「可愛いよなぁ、え? お前が心の奥で望んだ、愛する男との子どもだからなぁ。そいつを今から、専用のミキサーでぐちゃぐちゃにしてやるぜ!」
「可哀想だよなぁ、お前が口を割らないせいで罪のないあかんぼが死ぬんだものな! あ、でも罪悪感はないか。お前からすりゃ、ただの幻影だもんなぁ!」
幻影を進行させつつ、ショウホウとズイホウは口々に囃し立てる。頭では、これがただの幻影だとフェムゴーチェも理解している。
だが……彼女の良心が、耐えられなかった。
「待て、待ってくれ! 分かった、話す。結界を解く方法を話す! だから、その子だけは……」
「ヒッヒッヒッ、ざまあねぇな。お堅いキシサマも、仲間より自分の子が大切ってわけ」
「そこまでだ、邪竜ども! これ以上好き放題はさせねえぜ! アゼル、やれ!」
「はい! クリアルーン、イビルクリーナー!」
フェムゴーチェが屈服しかけた、その時。扉にかけられた結界を破壊し、アゼルたちが躍り出た。イビルクリーナーによって幻は消え、幻想の光景は霧散する。
「げえっ、てめぇはガルガラッド! ヒリュウに殺されたはずじゃねえのか!?」
「ばぁか、その情報は古いんだよ。オレぁもうとっくに助かってんだよ。こいつらのおかげでな」
「扉の隙間から見ていましたよ、お前たちの所業を。外道どもめ……絶対に許さない。地獄に叩き落としてやる!」
怒りを燃やし、アゼルはショウホウとズイホウを睨み付ける。最後の騎士を救うため、アゼルはヘイルブリンガーを振りかざし突撃していった。




