231話―剛と柔は邪悪を征す
「全員助けるだとぉ~? やれるもんならやってみな、小僧! オラッ!」
「よっと! リジールさん、一旦こっちに!」
「分かった!」
ショウカクの踏みつけ攻撃を避けたアゼルは、一旦リジールを呼び戻し作戦を伝える。話を聞き終えたリジールは、やる気満々な様子を見せた。
「……ちょっと難しそうだけど、やってみる! 毒の調合が終わるまでの間、足止めは任せるね」
「はい、任せてくださいリジールさん。さあ、早速始めましょう!」
「りょーかい!」
二手に別れ、アゼルたちは行動を開始する。リジールは上空に飛び上がり、ショウカクの攻撃が届かない場所で体内の毒素の調合を行う。
一方のアゼルは、地上でショウカクの相手をする。攻撃を捌きつつ、魔力の塊を投げつけていた。
「なんだぁ、これは? こんなもんで俺を倒せるとでも思ってるのか?」
「ふふ、どうしようがぼくたちの勝手ですよ。それより、いいんですか? 相方の方、結構苦戦してるようですけど」
ショウカクが激しく動くせいで、魔力の塊のほとんどが騎士たちにぶつかる。殺傷力はないようで、割れた塊が薄い膜となって騎士に張り付く。
ニヤニヤ笑いながら挑発してくるショウカクに、アゼルは言葉を返す。大広間の奥の方では、ガルガラッドとズイカクが戦っている。
「踏み潰してやるゥゥゥゥゥ!!」
「バカが、こうしてやるよ!」
「ぎゃあっ、足の裏があっ! てめえ、よくもやりやがったな!」
「へっ、ガキんちょどもは何かコソコソやってるみてぇだが、オレは小細工が嫌いでね。真正面からてめえをぶっ潰して、部下たちを救わせてもらうぜ!」
ガルガラッドは人質が張り付けられていない足の裏を斧で攻撃し、ズイカクを後退させる。ニヤリと笑いながら、ジリジリと距離を詰めていく。
「こんのぉぉ……! もう怒った! バラバラにしてやる!」
「やれるもンならやってみな、バカドラゴン! ちっぽけな脳ミソで、せいぜいアホな作戦でもひねり出してな!」
「ウガアアアアア!!」
ズイカクの相手は、このままガルガラッドに任せても大丈夫だろう。そう判断したアゼルは、反撃のための仕込みを続ける。
覇骸装を射骸装モードへ変化させ、魔力の塊を発射していく。振り下ろされるしっぽや、冷気のブレスを避けつつひたすら同じ行動を繰り返す。
「むむう……あのガキ、ずっと魔力の塊を飛ばしてばかりだな。あっちの小娘は降りてこねえし……飽きたな。ズイカク、俺と代われ!」
「まずい! まだ途中なのに……逃がすもんか! サモン・スケルトンポール!」
「んおっ!? なんだこりゃ、邪魔すんなこのっ!」
交代を阻止するべく、アゼルは骨で出来たトーテムポールを六体ほど呼び出し壁にする。くねくね動くポールに阻まれ、ショウカクは退路を絶たれた。
「この野郎ォォォォォ!! おとなしくやられろォォォ!!」
「へっ、お断りだな。てめぇみてえな三下ドラゴンなんぞにくれてやるほど、安い命じゃないんでね!」
一方、怒りに我を忘れたズイカクは、めちゃくちゃに暴れ回りガルガラッドへ猛攻撃する。対するガルガラッドは、人質が張り付けられていない顔や脚をチマチマ攻める。
持ち前の頑丈さにモノを言わせ、ズイカクはひたすらに突進を繰り返す。鼻先に縦に並んだ二本のツノで、相手を串刺しにするつもりだ。
「逃げるんじゃねええええ!! バーニングブレス!」
「おっと、逃げ場がなくなっちまったな。こりゃー大変だ」
「死ぃねええぇぇぇ!!」
ズイカクは炎のブレスを吐き、ガルガラッドの周囲を囲んで逃げ場を奪う。炎で視界を遮り、どこから突進するか悟らせない小細工も同時に仕掛ける。
ある程度ぐるぐる回り、相手を撹乱したズイカクは真っ直ぐ突進して炎を突っ切る。ちょうど、ガルガラッドの真後ろに出たようだ。
「このまま串刺しだぁぁぁぁ!!」
「へえ、やってみろよ。このシャガールの大盾を貫けるンならなぁ! シャガールの大盾、モード怒!」
「フン、所詮はただの金属の塊! どれだけ分厚かろうと、お前の身体ごと貫いてや……なにぃ!?」
後ろへ振り向きつつ、ガルガラッドは左腕に装備した大盾を構える。すると、表面に刻まれていた顔の表面が変化し、大きく口が開く。
そして、ズイカクのツノに噛みついて動きを封じてみせた。慌てて後ろに下がろうとするも、ガルガラッドの怪力の前には全くの無意味だった。
「ムダだぜ? オレの腕力は暗滅の四騎士でも最強だからな。力比べなら誰にも負けねえ!」
「むぐぐぐ……! な、なんつーパワーだ!」
「すげえもんだろ? この盾にも秘密があってな。オレの感情が昂れば昂るほど、こいつがオレにさらなる力を与えてくれる。こんな風になぁ!」
「う、お、お……」
部下たちを弄ばれた怒りのパワーを用い、ガルガラッドはズイカクを片腕で持ち上げてみせた。手足をバタバタさせるズイカクだが、抵抗にすらなっていない。
「さぁて、そろそろ終わらせてやるよ。オレの部下をコケにしたんだ、報いは受けてもらうぜ」
「ま、待て! いいのか? 俺の身体にはお前の部下たちが貼り付けられてんだぞ! それなのに攻撃するつもりか!?」
「ああ、するぜ。てめえの顔面をなぁ!」
そう叫ぶと、ガルガラッドは盾ごとズイカクを真上にぶん投げた。身体を屈め、全身のバネを使って垂直に飛び上がる。
斧を両手で持ち、落ちてくるズイカク目掛けて勢いよく振り上げた。暗黒を滅する白い光が、斧の刃を包み込む。
「オレの怒り、思い知れ! 戦技、デストロイ・アッパー!」
「ぐぎゃあああああ!! しょ、ショウカクゥゥゥゥゥ!!」
顔面を粉砕され、ズイカクは息絶えた。ガルガラッドは邪竜の骸を掴み、腹から着地するようにバランスを取る。
「よし、これでいっちょ上がりっと。お前ら、待たせたな。今助けてやるから待ってろ」
「ありがとう、ございます。ガルガラッド様……」
騎士たちは安堵の笑みを浮かべ、ガルガラッドに感謝する。その直後、スケルトンポールが粉砕され、破片が散らばる。
相方を撃破されたショウカクが、怒りに任せてしっぽで薙ぎ払ったのだ。
「貴様ぁぁぁ!! よくもズイカクを殺したなぁぁぁぁ!! 許さん……殺してやるぞぉぉぉ!!」
「やべっ、これから部下を助けなきゃいけねえってのに!」
「ガルガラッドさん、こっちはぼくたちに任せて騎士さんたちを! ショウカク、お前の相手はぼくだ! バインドルーン、キャプチャーハンド!」
「うがあああ!! 離せ、邪魔者め!」
アゼルはヘイルブリンガーから伸ばした手でショウカクのしっぽを掴み、突進を妨害する。ボウガンに装備されていた矢を腰へ移し、床に突き刺し身体を固定する。
が、怒りでリミッターが外れたショウカクのパワーは凄まじく、少しずつだが前進されてしまう。このままではまずい、と思ったその時、リジールが叫ぶ。
「アゼル、お待たせ! 毒の調合、終わったよ!」
「ナイスタイミングです、リジールさん! そのまま散布してください!」
「任せて! カクテルシャワー!」
リジールはお尻の毒針をショウカクへ向け、調合した毒液を広範囲へ噴射する。ショウカクだけでなく、騎士たちにも毒液がかかってしまう。
「おい、何やってる! 部下たちにまで毒液かかっちまってるだろ!」
「いえ、いいんですよガルガラッドさん。むしろ、これがぼくの狙いですから」
「はぁ? 何言って……ん? なんだ、ショウカクの動きが遅くなってやがるぞ?」
毒液を浴びたショウカクに、異変が起こる。目に見えて動きが遅くなり、まるで重量が増えたかのようにしんどそうな顔になったのだ。
「な、なんだこりゃ……。重い、重いぞ……。一体、何がどうなって……ハッ! まさか、あのガキ!」
「気付きましたか? ぼくが何の考えもなく、闇雲に魔力の塊を投げ続けるわけないじゃないですか」
「そうだよ。あたしが撒いた毒はね、アゼルの魔力に反応して……性質を変化させる効果があるの」
「なん、だと?」
アゼルとリジールは、計画通りと言わんばかりにニヤリと笑う。ショウカクに貼り付けられた騎士たちは、不安そうにキョロキョロしていた。
「そういや、俺たちもなんか身体が重いような……」
「だよな? もしかして、これがあの子どもが言ってる変化ってやつなのか?」
「そうですよ、騎士の皆さん。リジールさんの散布した毒液は、皆さんの身体に張り付いた魔力の膜を重くする効果があるんですよ」
動揺する騎士たちに、アゼルはそう告げる。どんな鎧も、重すぎれば動きを阻害するだけのお荷物になってしまう。
人質という肉の鎧で武装し、攻撃出来ないようにしてくるならば、肝心の鎧を機能不全にしてしまえばいい。それが、アゼルの導き出した策だ。
「重くて動けないでしょう? ショウカク。お前に浴びせた魔力だけは特別でしてね、より負荷がかかるようになっているんですよ。騎士さんたちの分までね」
「ぐ、おお……。まずい、このままでは……!」
「さあ、このままトドメを刺させてもらいますよ! 相方のように、顔をカチ割ってあげます! 戦技戦技、アイスブリックハンマー!」
アゼルはキャプチャーハンドを消し、大きく跳躍してショウカクの顔の真上へ跳ぶ。ヘイルブリンガーの刃を分厚い氷で覆い、勢いよく落下する。
「ちくしょ……ぐげあああ!!」
「自分たちの所業、地獄で反省しなさい!」
氷塊に押し潰され、ショウカクもまた息絶えた。アゼルたちの活躍で、人質にされていた騎士は全員……生き延びることが出来たのだった。




