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230話―禁忌の鎧を纏う竜

「どけどけどけどけぇ! ガルガラッドサマの大暴れの時間だぁぁぁ!!」


「奴を止めろ! これ以上進ませるなあ!」


「ムダだぜ、一度走り出したオレは止まらねえ。天下無双の暴れ熊のパワーを舐めるなよ!」


 ズィヴノの城……一階の各所は、まるで嵐が過ぎ去ったかのようにめちゃくちゃに破壊されていた。鬱憤晴らしにと、ガルガラッドが暴れ回ったのだ。


 絶大な膂力と鉄壁の鱗、そして種々様々なブレスを持つ竜たちですら、たった一人の騎士を止めることも叶わない。文字通りの、天下無双っぷりだった。


「ひゃー、凄いですね。あんな重そうな竜が枯れ葉みたいに吹っ飛んでってますよ。これなら、魔力の回復タイムが取れますね。らくちんらくちん」


「いいのかな、こんなにお城壊して……。ま、いいか。元の住民は皆死んじゃってるだろうし」


 下手に側にいるととばっちりを食う恐れがあったため、アゼルたちは少し距離を取って後ろからガルガラッドの後を着いていく。


 幸運にも息があった竜にトドメを刺しつつ、城の奥へ進む。しばらく進むと、流石に敵も打ち止めになったようで迎撃の手が止まった。


「お? なんだ、もう終わりか。案外たいしたことなかったな。拍子抜けだぜ、ったく」


「いえ、ガルガラッドさんが強すぎるんですよ……。普通に戦えば、かなり苦戦してるはずなんですけど」


「ワッハハハハハ! なら、オレがいたことを感謝するんだな。ここまで何事もなく……ん? この匂い……」


 静まり返った廊下を、警戒など全くせずにガルガラッドはのしのし歩く。その途中、とある部屋の扉の方へ顔を向ける。


「どうしました? ガルガラッドさん」


「この扉の向こうから、見知った匂いがした。多分、この中に生き残りの騎士がいるかもしれねえ。様子を見てきていいか?」


「なら全員でいきましょう。バラバラで行動するのは危険ですから」


「あたしも、そう思う」


「よし、んじゃ行くぞ。よっ!」


 もしかしたら、部屋の中に仲間がいるのかもしれない。そう考えたガルガラッドは、アゼルたちを連れ扉を開ける。……が。


「はーい残念、引っ掛かったな!」


「特別ゲストの登場だ! ステキなパーティー会場に案内してやるぜ!」


「チッ、罠か! お前ら、退け――」


 部屋の中には、大きな二体の竜がいた。騎士たちから奪った鎧や剣を身体に張り付け、匂いをカモフラージュしていたのだ。


 アゼルたちは退却しようとするもすでに遅く、足元に発生した転移用の魔法陣に呑まれてしまう。


「う……。二人とも、大丈夫ですか?」


「あたしは、大丈夫。ここは……大広間? だいぶ広いとこに飛ばされちゃったね」


 三人が転移させられたのは、城の大広間だった。扉も窓も魔法陣によって封鎖されており、仕掛けをどうにかしない限りは出られそうにない。


「さっきのコンビの竜どもめ。こんなところにおれたちを飛ばしてどうするつもりだ?」


「決まってるだろぉ? お前らをぶっ殺して、ズィヴノ様からたんまりご褒美を貰うためよ! なぁ、ズイカク!」


「おうともよ、ショウカク! ここからは俺たち二体のオン・ステージだぜぇ!」


「チッ、早速きや……!? あいつら、何やってやがる……あれは……!」


 やかましい声と共に、天井付近のステンドグラスをブチ破って二体の竜が飛び込んできた。現れたのは、翼を持たない地竜のコンビ。


 相手の姿を見たガルガラッドは、怒りで目を見開く。竜たち――ショウカクとズイカクは、身体のあちこちに()()()()()()()()()()()()()()のだ。


「ひゃっひゃっひゃっ、見てわかんねえのか? 戦利品だよ、戦利品。さっきお前をおびき寄せた鎧やらなんやらも、こいつらから奪ったんだぜ?」


「いいもんだろぉ? ニンゲンのネックレスだぜ! ヒャーハハハハハ!!」


「この……外道どもが!」


 騎士たちは手足を鱗の隙間に挟まれ、ショウカクたちを守る『肉の盾』にされていた。全員息はあるが、これまでの戦いで負った傷が癒えていない。


 このままでは、じきに力尽きて死んでしまう。どうにかして、ショウカクとズイカクから解放しなければならない。


「許せねえ……! お前ら、聞こえるか! このガルガラッドサマが来たからにはもう安心だ! 全員助けてやるからな!」


「う……あれは、ガルガラッド様! よかった……助けが、来てくれた……」


「でも、こいつらから離れるだけの体力が……」


 頼もしい声に、騎士たちは安堵の声を漏らす。が、彼らには自力で脱出するだけの余力が残っていなかった。そんな彼らなどお構い無しに、竜たちは走り出す。


「助けられるもんなら助けてみろ! 全員仲良くミンチになるだろうがなぁ!」


「アゼル、リジール! 散開しろ! オレはこっちの緑のヤツを相手する。お前らは紫の方を頼む!」


「分かりました!」


 とにもかくにも、まずは戦闘体勢を整えないことには始まらない。二手に別れ、アゼルたちはそれぞれの相手を迎撃する。


 アゼルとリジールの相手は、二体の竜のかたわれショウカクだ。額に生えた一本ツノをアゼルたちに向け、ショウカクは突進する。


「ほお、俺の相手はちび二人か! いいねえ、肉が柔らかくて旨そうだ!」


「食べられるつもりはありませんよ! とうっ!」


「あたしだって! ダークメタモルフォーゼ、スティンガー・ビー!」


 突進を避けたリジールは、別の魔物へ姿を変える。ピンポイントへの攻撃が可能な、ハチの魔物娘へと変身し戦いを優位に進めるつもりだ。


「まずは、どうにかしてあの人たちを解放しないと。じゃなきゃ、こちらからまともに攻撃出来ません!」


「うん。でも、戦いながらだと……結構、大変だよ」


「それでも、やるしかありません。彼らには死の苦しみを味わってほしくないんです。出来る限り、生きたまま助けたい」


「……分かった。やれるだけやってみる!」


 一人でも多く、騎士たちを助けたい。アゼルの願いを聞き、リジールは空へ舞い上がる。まずは、ショウカクの背中に囚われている者たちを助けるつもりだ。


「ムダだぞぉ。そんなことし……いたっ!」


「ほーら、お前の相手はこっちですよのろまドラゴン! 悔しかったら、そのツノでぼくを貫いてみなさい!」


「こンのガキィ~! そんなに死にたいなら、お望み通りにしてやる!」


 唯一人質が張り付けられていない顔面に向かって、アゼルは小さな魔力の粒を投げつける。いくら顔が無防備とはいえ、ショウカクの身体は大きい。


 ちょっと動かれれば狙いが外れ、人質を危険に晒してしまう。そのため、下手に殺傷力の高い攻撃を行うことは出来ないのだ。


 ――全ての人質を助け出すまでは。


(リジールさん、ぼくがショウカクの注意を引きます。その間に、人質の救助を!)


(おっけー、任せて!)


 二人はアイコンタクトを交わし、人質の救出を試みる。だが、そう簡単にはいかない。ガルガラッドと交戦していたズイカクが、目敏く二人のやり取りを見ていたのだ。


「ショウカク! そいつら騎士どもを助けるつもりだぞ! 上に気を付けろ!」


「おっと、ありがとよズイカク! オラッ、しっぽを食らえ! お返しだぜズイカク、その熊野郎を足止めしてやるよ。スケイルショット!」


「くうっ! 厄介だね、あの二体。お互いを守りながら戦ってる!」


「ちっ、これじゃ救助どころの話じゃねえな。さて、どうしたもんか……な!」


「なんとかして、二体を分断しないと!」


 ここにきて、アゼルとリジールは邪竜のコンビネーションに翻弄されることとなった。すでに相方を倒されていたソウリュウとは違い、二体の連携は厄介極まりない。――だが。


「……だからこそ、燃えてきますね。どんなピンチも、乗り越えてきた。今回だって、必ず越えてやる! ショウカクとズイカクを倒して、騎士さんたちを救う!」


「ワッハハハハハ!! 言うじゃないか小僧。ま、無理だがな! 俺とズイカクのコンビネーションは、容易く破れないぜぇぇ!」


「それはどうだろうね? ショウカク。アゼルは凄いんだから!」


 頭をフル回転させ、アゼルはどうすれば人質をスムーズに救出しつつショウカクとズイカクを倒せるか思案し始める。


 少しずつではあるが、逆転のためのビジョンが浮かんできた。ニッと笑いながら、アゼルはヘイルブリンガーを構える。


「さあ、ここからが本番ですよ。必ず……全員助けてみせる!」


 ちいさな決意を胸に、アゼルは身体の中で炎を燃やす。二人の王から託された、聖なる炎の欠片が――勝利をもたらすための、切り札となるだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 2体の竜を同時に相手するのはモンハン時代散々苦戦したけど竜の癖に人質取るなんて知能も低く誇りも皆無のトカゲではないか(ʘᗩʘ’)
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