228話―嵐が去りて来る者
「嵐が消えたか。これで、皆安らかに……う、ぐっ!」
「レミアノールさん、大丈夫ですか!?」
「く……どうやら、ここまでのようだな。完全に力を使い果たしてしまったよ」
務めを果たしたレミアノールの身体から力が抜け、その場に崩れ落ちる。アゼルは慌てて駆け寄り、助け起こしながら安否を問う。
ソウリュウを討ち倒すのに全ての力を放出し、ダウンしてしまったようだ。病み上がりの身体では、むりもないことだろう。
「命に別状はなさそうですね。よかった」
「ああ。二度も手間をかけさせるわけにはいかないからね、気合いで持ちこたえたよ。……ソウリュウは死んだ。今なら、ズィヴノの城へ入れるだろう」
「ええ、ぼくたちはこれから城に乗り込みます。レミアノールさんは」
「アゼル! こっち、こっち来て! 誰か倒れてる! まだ息があるよ!」
変身を解き、一足先に城の方へ向かっていたリジールが叫び声をあげた。アゼルはレミアノールをおんぶし、声のした方へ走る。
崩れた民家の下に、誰が埋もれているようだ。その人物を見たレミアノールは、思わず叫ぶ。
「あんた……ガルガラッド!? 何でこんなところで下敷きに?」
「んお……? その声、レミーか? おお、毒はなんとか出来たんだな。よかったよかった」
瓦礫の下敷きになっていたのは、熊のような姿をした獣人の男だった。どうやら、レミアノールとは面識があるらしい。
「レミアノールさん、お知り合いですか?」
「知り合いも何も、こいつは私の仲間……暗滅の四騎士の一人だ。ガルガラッド、『天下無双』の異名を持つ男……って、それより早く出してやらないと!」
「はい! リジールさん、手伝います!」
アゼルはレミアノールを降ろし、二人で瓦礫の撤去を行う。ガルガラッドの姿があらわになるにつれ、痛々しさが判明してきた。
右腕は根元から切られており、左足は膝から下が食いちぎられてしまっている。さらには、脇腹も抉られかなりの量の血が失われていた。
何故生きていられるのか不思議なほどの大怪我だ。
「こんな、酷い……。一体、誰にこんなことを? というか、どうしてこの怪我で死んでないんです?」
「ああ、ソウリュウの相棒……ヒリュウとドンパチしてる時に、な。派手にやられたが、奴はオレが始末してやった……ぐ、いてて……」
「ガルは昔からとんでもなくタフだからな。この程度の傷、昔はしょっちゅう食らっていたよ。この特攻バカめ、少しは自分の身体をいたわれ!」
「おごああーーー!? 待てレミー、矢を刺すのは反則だろ!? 死ぬって、それ死ぬって!」
「安心しろ、お前に限ってはそうそう死なん」
レミアノールたちのやり取りを見て、アゼルとリジールは困惑気味に互いの顔を見合わせる。何はともあれ、二人目の暗滅の騎士と無事会えたことは幸運と言えよう。
「そういえば、フェム……フェムゴーチェはどこだ? 奴も瓦礫の下か?」
「いや、あいつはもうとっくに部下を率いて城ン中に入ったぜ。ここに残ったお前の部下と、オレの部隊がソウリュウとヒリュウの相手をしてる間にな」
そう言うと、ガルガラッドは城の方を指差す。ソウリュウのいた位置から見えない場所に、穴が開けられていた。
彼の言う通り、二体の竜の気を逸らしている間に開けられたものなのだろう。一刻も早く先に進みたいところだが、まだアゼルにはやることがある。
「……レミアノールさん。この人の傷、治せますか?」
「あいにく、私は治癒の魔法はさっぱりダメでな。もう一人の暗滅の騎士、フェムゴーチェがいればなんとか……といったとこだ」
「じゃあ、リジールさんは? 確か、治癒の魔法が使えましたよね?」
「ごめんねアゼル。アーシア様と契約した時に、それまで覚えてた魔法が使えなくなっちゃったの」
このままガルガラッドを放置していくわけにはいかない。アゼルの目的は、暗滅の騎士を全員救うことなのだ。
……が、アゼルは治癒の魔法が使えない。そのため、リジールたちを頼るつもりでいたがアテが外れてしまったようだ。
「逆に聞こう、アゼル。君の例の力では、失った肉体は戻せないのか?」
「出来ますけど……そのためだけに死んでもらうというのは……良心が痛むというか……」
「は? レミー、お前ら物騒なこと何言ってんだよおい」
「仕方ない。一番確実で安上がりな方法を取るべきだろう。というわけだ、ガル。一回死ね」
「はあ!? お前なに言ぎゃぶふ!」
治癒の魔法が使えないなら、蘇生のついでに肉体を再生させればいいじゃないとばかりに、レミアノールはガルガラッドの頭に矢をぶっ刺した。
一切の迷いなく、綺麗に脳天へ。あまりの躊躇の無さに、リジールはドン引きしているようだ。勿論、アゼルも例外ではない。
「レミアノールさん……いくらなんでもあんまりなのでは……」
「これが一番早いだろう? なに、衰弱して死ぬか仲間に介錯されるかの違いでしかないさ」
「だいぶむちゃくちゃ言いますね……まあいいや。さっさと済ませちゃいましょう。ターン・ライフ!」
あっけらかんと言い放つレミアノールにため息をつきながら、アゼルはガルガラッドに蘇生の炎を与える。失われた手足や脇腹、血が戻っていく。
「うおおっ!? レミーてめえ、いきなり何す……あれ? なんでオレ生きてんだ? さっき死んだぞ? 手足も生えてるし……何がどうなってんだ?」
「ガルガラッドさん、ちょっと長くなりますがぼくの話を聞いてもらえますか? 実は……」
混乱しているガルガラッドに、アゼルはこれまでのことを説明する。その横で、レミアノールは呑気に弓の手入れをしていた。
◇―――――――――――――――――――――◇
「第二軍、接近! 大砲を放て!」
「イエスサー、ファイア!」
その頃、現代のソル・デル・イスカの首都フレイディーアでは、襲来したラ・グーの軍勢との激しい戦いが行われていた。
数百を越える闇の眷属と暗域の魔物、そして将たる魔の貴族たちが上空より飛来する。地上では、都を守る騎士やリリンたちが戦っていた。
「奥義、夜空流星落としーッ!」
「ぐああああ!」
「ふう、こちらは片付きましたわね。それにしても、何故このタイミングでラ・グーの攻撃が……」
「さあな、そんなことはどうでもいい。次は向こうだ、行くぞアンジェリカ!」
「かしこまりましたわ、リリン先輩!」
担当エリアを決め、いくつかのグループに別れてリリンたちは敵を迎撃する。都の各地で、一進一退の攻防が繰り広げられていた。
「ぬおおおおおお!! 闇の眷属どもめ、太陽の力を受けてみよ! 戦技、サンシャインストライクぅぅぅぅぅ!!」
「ったく、うるせえ奴だな。張り切りすぎ……だっつーの!」
別の地区では、やる気満々のソルディオとカイルが闇の眷属たちを殲滅していた。ソルディオのテンションに辟易しながら、カイルは空を見上げる。
「……どうにも、嫌な予感がしやがるぜ。アゼルの身に危険が迫ってるような……クソッ、無事でいてくれりゃいいんだが」
そう呟きながら、降下してくるワイバーンの群れに弾丸の嵐を叩き込む。……だが、この時カイルはまだ知らなかった。
己の予想が的中し、アゼルの身に危機が訪れようとしていることを。
◇―――――――――――――――――――――◇
「……へっ、ようやく着いたか。ここが過去のギール=セレンドラクねぇ。ラ・グーの奴め、場所を間違えてねえだろうな」
アゼルたちが現れたのとはちょうど反対側、大陸の南端にある岬に一人の男が現れた。筋骨隆々の上半身と、大木のような太さの右腕を剥き出しにしている。
「だが、感じるぜ。確実に、アゼルの野郎がここにいる。ククク、奴をぶっ殺せるのが嬉しくって仕方ねえぜ。生まれ変わったオレの力、見せてやるよ」
邪悪な笑みを浮かべながら、男は後ろへ振り向き右腕を振り上げる。背後にあった海に衝撃波が走り、海面が真っ二つに割れた。
水飛沫が降りかかるのにも構わず、男は狂ったように笑う。その瞳に宿っているのは、おぞましき復讐の炎だ。
「――待ってやがれ。このグリニオ様が、てめぇの息の根を止めてやるよ」
そう呟き、男――グリニオは北の方へ歩き出す。アゼルを殺し、怨みを晴らすために。
アゼルとリジール、そしてグリニオ。かつての仲間たちが、一堂に会しようとしていた。




