227話―暗黒を滅ぼす者
時間嵐気流が吹き荒れるなか、アゼルたちは襲い来る数字を退けつつ先へ進む。その途中、方々に捨て置かれている騎士や住民の亡骸を見つけた。
時の流れが乱れているせいで、亡骸は風化した灰と死にたての状態を行き来している。死してなお、遺体を弄ばれる彼らにアゼルたちは心を痛める。
「酷い……。この嵐さえやめば、皆安らかに眠れるのに」
「ぼくたちの手で、止めましょうリジールさん。この嵐を。そのためには……ソウリュウを倒さないと、ですね! はあっ!」
そう口にした後、アゼルは頭上から降ってきた巨大な数字の8をヘイルブリンガーで両断する。追撃が来ないうちに進もうと、一歩踏み出したその時。
「この嵐の中、よくぞここまで来た。歓迎してやろう。天にも昇るエレクトリックな刺激を味わえ! ライトニングブレス!」
「二人とも危ない!」
ソウリュウの声が響き、直後突風を切り裂き雷撃のブレスが放たれる。巨体を躍らせ、リジールは素早く前に出て攻撃を受け止めた。
多少表皮が焦げたものの、特段ダメージはないようだ。攻撃が止まったのを確認したアゼルは前に飛び出し、レミアノールは大弓を呼び出す。
「ほう、無傷で耐えたか。まあ、そうでなくては面白くないからな」
「面白いかなんてどうでもいいです。ソウリュウ、覚悟しなさい! お前を倒して、門を開かせてもらいます!」
「やってみろ、小僧。ズィヴノ様に暗域の加護を与えられたワシを倒せるというのならば、な!」
雷鳴がとどろいた後、空間が歪みアゼルたちの身体を浮遊感が包む。気が付くと、巨大な城門の前にある広場に立っていた。
十数メートルほど先に、ズィヴノが住まう城へ入るための門がある。そして……その上に、蛇のような長い身体と細い四肢を持つ竜がいた。
「お前が、ソウリュウ……」
「いかにも。わざわざ歩いてここまで来る手間を省いてやったのだ、ありがたく思え。そして……そのまま、あの世に旅立つがいい! ナンバーズ・トラップ、ジャベリン・ワン!」
ソウリュウが魔力を放出すると、無数の数字の1が上空に出現する。先端が尖ったソレが、勢いよく降り注ぐ。
「同じ手は何度も食らわんぞ、ソウリュウ。戦技、エイトホール・ショット!」
「わ、凄い! 八本の矢を同時に……しかも、正確に狙い落としちゃった」
レミアノールは矢を放ち、たった八本の矢で全ての攻撃を射ち落としてみせた。次の攻撃が来る前にと、アゼルは飛び上がる。
「今度はこっちの番です! 戦技、アックスドライブ……!?」
「ん? なんだ、何かしたか? 蚊に刺されたほどにも感じぬわ」
「そんな!?」
アゼルの放った攻撃は、ソウリュウにクリーンヒットした。だが、黒いオーラのようなモノが邪竜の身体を覆い、攻撃を受け止め無効化してしまったのだ。
「クハハハハ! 残念だったな、これこそが暗域の加護! このオーラがある限り、貴様も仲間の小娘もワシを傷付けることは不可能よ!」
「くっ、そんなことあるわけが……なら! パワールーン、シールドブレイカー!」
「あたしだって! メタルウィップブレード!」
普通の攻撃がダメならばと、アゼルはルーンマジックを発動する。そこにリジールも加わり、二人の必殺技が炸裂した、が……。
ソウリュウを守る暗域の加護によって、完全に無効化されてしまった。シールドブレイカーですら、暗黒の守りを突破出来なかったのだ。
「これでもダメなんですか……!」
「ムダなことよ。暗域の門が開き、かの地と繋がっているおかげでさらに強化されているのだ。貴様らごときの攻撃で……チッ!」
「生憎、私には関係のないことだ。お前を射抜くことなど造作もない」
絶望しかけたその時、一本の矢が放たれる。ソウリュウは舌打ちし、身体をよじって矢を避けた。
「アゼル、リジール。時間を稼いでくれないか? 病み上がりの身体では、奴を一撃で仕留める威力のある矢を射つのに時間がかかるからな」
「分かりました。ぼくたちの攻撃が効かない以上、頼れるのはレミアノールさんだけ。命に替えてでも、時間を稼ぎます!」
「済まない。約束しよう。最大の一矢をもって……ソウリュウを、仕留める」
レミアノールは後ろに下がり、魔力を溜め始める。暗域の加護を打ち破り、ソウリュウを倒すために。アゼルとリジールは、彼女を守るように立ちはだかる。
「リジールさん、ぼくがレミアノールさんの前方と頭上を守ります。背後と左右は任せましたよ!」
「うん、任せて!」
「チッ、忌々しい奴らめ! そうはさせんぞ! ナンバーズ・トラップ、トルネイド・ファイブ!」
唯一対抗出来る存在であるレミアノールを仕留めるべく、ソウリュウは苛烈な攻撃を仕掛ける。四方から相手を囲むように、数字の5が現れた。
数字が回転し、大量のかまいたちが放たれる。リジールは巨体を活かしてレミアノールを庇い、アゼルは吹雪を起こしてかまいたちを打ち消す。
「レミアノールさん、今のうちに!」
「分かった。モードチェンジ、ギア・パウンド!」
レミアノールが大弓に魔力を流し込むと、両端に滑車が出現する。ただでさえ強く張られた弦が、滑車によって引きちぎれんばかりに絞られていく。
「邪魔者どもめ! ナンバーズ・トラップ、ディバインド・エイト&スリー! フレアヘッド・ナイン!」
「うわっ!」
「アゼル……く、あつっ!」
地中から現れた数字の8がアゼルを持ち上げ、そこに飛来した二つの数字の3が身体を挟んで身動きを封じる。
助けに動こうとしたリジールだったが、大量に現れた数字の9が焼きごてのように張り付き、痛みでその場から動けなくなってしまう。
「くうっ、離れなさい、このっ!」
「あっつぅ……これじゃ、動けない!」
「二人とも、もう少しだ! あと少しで、力を溜め終える!」
「その前に皆殺しにしてくれるわ! ライトニングブレス!」
矢をつがえ、弦を引き絞りながらレミアノールは叫ぶ。門から僅かに身体を離し、ソウリュウは敵を一網打尽にせんと雷撃のブレスを叩き込む。
「させない! ガードルーン、イジスガーディアン!」
「防いでもムダだ! そんなバリア、暗域の力が込められた一撃をもってすれば砕くなど容易いわ!」
間一髪、ルーンマジックを使いブレスを防いだアゼル。だが、続くしっぽの一撃までは完全に耐えられず、バリアに亀裂が走る。
二撃目は辛うじて耐えられるだろうが、それ以上は無理だ。何とかして事態を打開しなければ、反撃もままならず全滅してしまう。
「このおっ……てりゃあっ! メタルキャノン!」
「ほう、身を焼かれながらも攻撃してくるか。では、その努力を無に帰してやろう。ほれ」
痛みに耐えながら、リジールは口から金属の塊を発射してソウリュウを攻撃する。だが、時間嵐気流によって風化してしまい、届くことはなかった。
「うう、この嵐ウザい……!」
「安心しろ、リジール、アゼル。待たせたな……準備完了だ。今こそ、ソウリュウを射つ時!」
「! まずい、遊びが過ぎたか! なれば!」
大弓を構え、レミアノールは狙いをつける。それを見たソウリュウは、さらに嵐の勢いを強め、大量の数字を呼び出し盾として配備した。
矢を光り輝かせながら、騎士は笑う。そんなことをしても、無意味だと。
「……アゼル。よく見ておくといい。何故、私たちが暗滅の四騎士と呼ばれるのか。今から……その理由を教える。戦技……ダークエンド・アロー!」
「チィィ! させるものかああぁぁぁ!! ライトニングブレス!」
凄まじい轟音を響かせ、矢が放たれる。ソウリュウが放った雷撃のブレスを、吹き荒ぶ時の嵐を越え……真っ直ぐに、矢は飛ぶ。
狙う場所はただ一つ。ソウリュウの、心臓だ。
「防げ、防げ! 数字たちよ、あの矢を落とせぇぇぇぇぇ!!」
「ムダだ、ソウリュウ。今の私は、猛毒に身体を蝕まれてもいなければ、仲間を庇うために力を割く必要もない。貴様を滅ぼすことだけに、全力を出せる」
「おの、れ……! がああああああ!!」
守りを固める数字を貫き、矢は進む。時の嵐によって風化することもなく、ソウリュウの身体を射ち抜いた。
「我らはかつて、ギャリオン様から与えられた。あらゆる暗黒を滅ぼす、太陽の力を。故に……人々は、我ら四人を暗滅の騎士と呼ぶ」
「す、凄い。本当に一撃でソウリュウを仕留めちゃった……」
断末魔の声をあげ、ソウリュウは崩れ落ちた。時を乱していた嵐は止み、エルザールに静寂が戻る。大弓を担ぎ、偉大なる騎士は微笑みを浮かべた。




