225話―騎士たちの行方
怪物の群れを全滅させたアゼルたちは、レミアノールたちを連れ谷底の隠れ家に戻る。幸い、こちらの方には怪物は来ておらず平和だった。
「さあ、安全な場所に着きましたよ。ゆっくり休んでください」
「済まない、助かったよ。これも全て、ギャリオン様のお導きか……。水でも飲んで、ゆっくりしよう」
「ええ、そうしてくだ……ひっ!?」
「どうしたんだい? そんなに驚いて」
レミアノールを木の葉のベッドに横たわらせた後、残りの騎士たちは座り込みフルフェイスの兜を脱ぐ。あらわになった騎士の顔を見たアゼルたちは、凍り付く。
――騎士たちはすでに、白骨化していたのだ。だが、本人たちは己の異変に全く気が付いていないようだ。絶句するアゼルらを見て、不思議そうにしている。
『お前たち、気付かないのか? 自分たちが、どんな姿をしているのかを』
「へ? それはどうい……お、おい! なんだよお前らその顔は!」
「お、お前だって! 俺たち……一体どうなっちまったんだ? 何が……あっ……た……」
「き、騎士さんたちが……崩れて……」
互いの顔を見たことで、騎士たちはようやく異変に気が付いたようだ。狼狽していた彼らの身体が、砂のように崩れ落ちる。
一体、彼らに何が起きたのか。アゼルやリジール、ルスタファたちはまるで理解出来ず立ち尽くすことしか出来ない。
「う、うう……」
「……ハッ! そうだ、急いでレミアノールさんを治療してあげないと。ジークベルトさんから貰った薬、効けばいいんですけど……」
その時、寝かされていたレミアノールが小さな呻き声を漏らす。我に返ったアゼルは、懐から霊薬の小ビンを取り出した。
「レミアノールさん、聞こえますか? 今から、お薬を飲ませますね。口を開けてください」
「こう、か?」
苦しそうに顔を歪めながらも、レミアノールは口を開ける。アゼルは中身をこぼさないようビンを傾け、霊薬を飲ませた。
少しして、レミアノールの様子が変わる。苦しそうだった表情がやわらぎ、息も穏やかになってきた。濁っていた瞳にも、光が戻りはじめている。
この分なら、すぐによくなるだろう。
「う、ふう……。身体が、楽になってきた。目も、かなりぼやけているが見えるようになった。ありがとう、どこの誰かは分からぬが礼を言うよ」
「いえ、無事治りそうでよかったです。……それにしても、さっきの騎士さんたちはどうして……」
「……ところどころ、話は聞こえていた。何があったか知りたいのだろう? なら、聞かせてあげよう」
容態が落ち着いてきたようで、レミアノールは横になったまま話し出す。何故騎士たちが白骨化していたのか。
ズィヴノ討伐に赴いた彼女たちの身に、何が起こったのかを。
「……二十日ほど前のことだ。私たちは公国で起こった異変を察知し、女王陛下の勅命により愛獄の竜ズィヴノ討伐に乗り出した」
『ズィヴノ、か。わらわも名は聞いたことがある。かの単眼の蛇竜、ラ・グーの末裔……その最後の一体だと』
「ああ。大規模な戦いになるだろうと、王国の守りに専念しているジークを残し私と残り二人の暗滅の騎士たちで、精鋭を連れて出発した……だが」
そこまで話すと、レミアノールは何回か咳き込む。峠は越えたとはいえど、まだ全快とは程遠い状態。無理は出来ない。
「霊樹の森を越え、その先へ向かった私たちが見たのは……闇の瘴気に蝕まれ、異形へ変わり果てた大地と人々だった」
「さっきの、怪物たちですね?」
「ああ。心苦しかったが、一度変異してしまえばもう元に戻すすべはない。せめて苦しまぬようにと、怪物たちを仕留めながら……私たちは、公国の首都エルザールに到着した」
レミアノールの声には並々ならぬ苦悩が滲んでいた。彼女とて、出来れば怪物に成り果てた人々を救いたかったのだろう。
だが、彼女らが与えられる救いは、死を置いて他にない。アゼルやリジールは、彼女の無念を汲み取り心を痛める。
「すでに、エルザールはズィヴノの居城と化していた。奴は、配下の竜たちに暗域の加護を与え我らを迎え撃った。何体かは倒せたが……厄介な相手がいてな」
「厄介な相手?」
「……ズィヴノの部下の中でも指折りの実力者。暗域にて用いられる空中戦艦の名を与えられた邪竜……ソウリュウ。奴は、暗域の加護を用い、時間の流れを乱す嵐を作り出した」
そこまでレミアノールが語ったところで、アゼルは事の顛末を理解した。時間嵐気流の影響をモロに受け、騎士たちは白骨化してしまったのだろう。
「あれ? でも、なんでレミアノールは骨になっていないの?」
「我々暗滅の騎士は、ギャリオン様より下賜された暗滅の炎片によって守られている。時間嵐気流の影響など受けはしない」
『では、何故そこまで衰弱していた? 暗滅の騎士ともあれば、そう簡単には倒れぬものだと聞いたが』
「……ソウリュウの相棒に、猛毒を操るヒリュウという邪竜がいてな。そやつの猛毒のブレスから部下を庇った結果、こうして身体を蝕まれてしまったわけだ」
リジールやルスタファの質問に、レミアノールは丁寧に答える。少し楽になったのか、身体を起こしアゼルの方を見る。
猛毒のせいで落ちていた視力もかなり回復してきたようで、ここにきてようやくアゼルの顔を視認出来るようになったらしい。
「さて、今度はこちらから質問させてもらってもいいかな? 君たちは何者だ? ソル・デル・イスカやファルガシールの民ではあるまい」
「ぼくはアゼル。こちらはリジール。ぼくたちは、歴史を変えるために未来から来たんです。長くなりますが、詳しくお聞かせしますね」
そう言うと、アゼルは自分たちの目的をレミアノールに話して聞かせる。本来の歴史では、レミアノールたちは死に、暗滅の炎片は失われてしまうこと。
ギャリオンの残した兵器によってズィヴノは討たれるが、代償に公国は大陸ごと消え去ってしまうこと。そんな未来を変えるため、自分たちが来たということを。
「未来のジークベルトさんが書いた手紙を預かってきています。これを読んでもらえれば、レミアノールさんたちに信じてもらえるだろう、って」
「! ジークから!? その手紙、見せてはくれないか?」
アゼルから手紙を受け取り、レミアノールは乱暴に封を破る。中の便箋を取り出すと、ほっこりしたような笑みを浮かべた。
「……ふふ。このリヴァイアサンがのたくったようなへったくそな字、間違いなくジークのものだ。ああ……愛しいジーク。私たちのために、並々ならぬ苦労をしているのだな……」
「わお……熱烈」
「あ、あはは……」
手紙の内容を読んだ後、レミアノールは愛しそうに手紙に口づけをする。……たっぷり五分くらい。二人は恋人同士なのだろうか?
その様子を見ていたリジールは、どこか羨ましそうにそう呟く。一方、アゼルはというと……困ったように苦笑いしていた。
「アゼルと言ったね。私は君の言葉を信じるよ。助けてもらった礼だ、微力ながら協力しよう。すでに、ヒリュウは倒されているはず。ソウリュウの討伐に同行させてもらうよ」
『わらわも力を貸そう。一族を救ってもらった礼をせねばならぬ。エルザールまでの近道をいくつか知っている。案内しよう』
救われた礼にと、レミアノールとルスタファはアゼルたちと同行することを決めた。アゼルからしても、二人の申し出は嬉しいものだ。
残る二人の暗滅の騎士の捜索や、ズィヴノの配下との戦いで頼りになるだろう。
「二人とも、ありがとうございます!」
『なに、気にするな。一族の戦士たちよ、留守を任せるぞ』
『お任せを、長。いってらっしゃいませ』
『うむ。では行くとしようぞ。公国の首都、エルザールへ!』
頼もしい仲間を加え、アゼルたちは南へと旅立っていった。




