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221話―女王の願い

「あなたが……」


「勇者たちよ、まずは疲れを癒してください。長く辛い試練を越えたのから、さぞお疲れでしょう。騎士たちよ、彼らを案内してあげなさい」


 立ち上がろうとするアゼルを制止し、エイルリークは微笑みながらそう告げる。実際、数々の試練を課せられたアゼルたちの疲労は限界を迎えていた。


 謁見の間にいた警護の騎士たちに連れられ、アゼルたちはそれぞれ客室に案内される。疲れを癒した翌日、再び謁見の間に集う。


「ごきげんよう、勇者たち。昨日はよく眠れましたか?」


「はい、おかげさまですっかり疲れが取れました。ありがとうございます、エイルリークさん」


「ふふ、礼には及びませんわ。……さて、早速ですが本題に入りましょう。貴方が求めているのは……コレですね?」


 そう言うと、エイルリークは手のひらをかざし金色の炎を呼び起こす。父、ギャリオンから託された生命の炎の欠片の一つ……『月光の炎片』だ。


「はい。ぼくたちは、炎片を継承するためにここまで来ました」


「その言葉に、偽りはなさそうですね。なら、少し話をしましょう。貴方たちの目的にも関わる、大事な話を。ジークベルト、例のモノをここへ」


「ハッ。かしこまりました」


「え!? ジークベルトさんって、まさか」


 アゼルが驚いていると、年老いた竜人が謁見の間に入ってくる。シワだらけではあったが、間違いなく……最後の試練で戦った、騎士であった。


 ジークベルトはアゼルの方を見ると、フッと笑う。よく見ると、小さなショルダーバックのようなものを二つ持っている。


「ようこそ。かつてのワシとの戦いはどうだったかな?」


「え、どうして知って……」


「フフフ、試練の門で何度も君たちに語りかけていたのはワシだったのだよ」


「マジか……。確かに、言われてみると声が似てるな」


 驚きの真実を知らされ、アゼルたちは目を丸くする。シャスティの呟きに、皆合点がいったようで頷いていた。


 そんな彼らを見ながら、ジークベルトは主君の元へ歩く。手に持っていた謎の小物を渡すと、一歩後ろへ下がる。


「ご苦労、ジークベルト。さて……アゼルさん。わたくしは貴方に残念な事実を伝えねばならないのです。お父様が生み出した欠片の一つ……『暗滅の炎片』はもう、この世にはありません」


「えええええ!?」


 エイルリークの爆弾発言に、アゼルは飛び上がらんばかりに驚く。彼だけでなく、リリンやシャスティたちも一様に驚愕の表情を浮かべている。


 暗滅の炎片がもう、この世に存在しない。一体どういうことなのか、アゼルは食い気味に尋ねる。


「そ、それはどういうことなんですか!? 炎片がなくなったって……」


「……事の起こりは、今から三百八十年前。当時……わたくしたちはとある者たちと戦いを繰り広げていました」


「とある者たち? それって……」


「ええ。かつて貴方たちが崩壊させた組織、ガルファランの牙です」


 エイルリークの言葉に、アゼルたちはやっぱりそうかと心の中で頷く。歴史の裏で、彼女たちもまたガルファランの牙と戦っていたのだ。


「当時の牙は、ラ・グーの遺児たる六体の邪竜を旗頭としてこの国を滅ぼそうとしていました。わたくしたちはそのうち、五体を滅ぼしたのですが……」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ。あのクソ蛇のガキって、アタシらが倒したガズィーゴだけじゃなかったのか!?」


 次々と明かされる驚きの真実に、想わずシャスティがツッコミを入れる。かつて、アゼルたちはラ・グーの末裔たる悪食の竜ガズィーゴと死闘を繰り広げた経験があった。


 てっきり、ガズィーゴしか子孫がいないものだと思っていたが……どうやら、実際にはさらに多くの邪竜がいたようだ。


「ええ。当時、七体目の竜は存在が確認されておらずわたくしたちはまだ生まれていないのだろうと結論付けていました」


「牙の者どもが卵を秘匿していたのでしょう。そのせいで、この時代になるまでラ・グーの末裔を根絶することが出来なかった。故に、我らは感謝しているのだよ」


「そうだったんですね……今になって知るなんて、驚きで頭がいっぱいですよ」


 何はともあれ、アゼルたちの活躍でラ・グーの子孫は全て滅び、悪の血は絶えた。だが、問題はそこではない。


 本当に重要なのは、三百八十年前に起こった一連の出来事……歴史の闇へと葬られた、忌まわしき事件の方なのだ。


「話を戻しましょう。三百八十年前、当時確認されていたラ・グーの子孫最後の一体……愛獄の竜ズィヴノという者がいました」


「かの竜は、我らの王国の南にあった魔法大国、ファルガシール公国を襲い……恐るべき儀式を敢行した。暗域へ繋がる門を開き、公国全域を闇の世界へと変えたのだ」


「なんと、酷いことを……」


 ジークベルトの言葉に、アーシアは拳を握りながらそう呟く。闇の眷属たる彼女だからこそ、ズィヴノのしたことの恐ろしさが分かったのだ。


「公国の首都は一夜にして滅び、多くの民が犠牲になりました。わたくしたちはズィヴノを討ち、闇を打ち消すため……暗滅の四騎士のうち三人を派遣することに決めたのです」


「それが、ジークベルトさん以外の三人だったということですか?」


「そうだ。当時のワシは、レミーたちに暗滅の炎片を託し旅立ちを見送った。強大な敵を倒すには、炎片の力が不可欠だったから。だが……」


 その先の言葉を、ジークベルトが口にすることはなかった。しかし、アゼルたちは彼の様子から理解する。彼の仲間は、帰ってこなかったのだと。


「レミアノールたちを送り出してから数週間後……暗滅の炎片の気配が消失しました。何があったのかは定かではありませんが……あの子たちが敗れたということだけは、分かりました」


「ズィヴノはさらに力を増し、暗域の力はいよいよこの国をも呑み込まんとしていた。……だから、ワシらは最後の手段を用いざるを得なかったのだ……」


「お待ちくださいませ。最後の手段とは、何なんですの?」


「王国と公国の国境から南の陸地全てを、消滅させたのです。父が残した、破壊兵器を用いて」


 そう言うと、エイルリークは魔法を使い空中にとある映像を投影する。映し出されたのは、アゼルたちが住まう大陸全域の地図。


 王国の都がある地点から百数十キロほど南に行ったところで、陸地が不自然に途切れていた。かつては、この先に公国があったのだろう。


「暗滅の炎片が失われたことで、ワシはゆっくりと年老い……今では、こんな老体に成り果てた。あの時、ワシも共に行っていればと……今もずっと後悔している」


「ジークベルトさん……」


「ですが、わたくしたちは諦めませんでした。この三百年と少し、役目を果たし機能を喪失した父の兵器を改造し続け……()()()()を完成させました」


「あるもの、ですか?」


「はい。時を渡り、遠い過去へと舞い戻るための時空間移動装置。歴史を塗り替え、炎片を取り戻すための切り札です」


 エイルリークは、先ほどジークベルトから受け取った二つのショルダーバック型の装置をアゼルたちに見せる。


「数百年に渡って実験を繰り返し、我々は過去と現在を移動するすべを手に入れました。しかし……ジークベルトは老い、もはや剣を振ることもままなりません。そこで……」


「なるほど、ぼくたちに悲願を達成してほしいということですね? そういうことなら……喜んで引き受けましょう!」


 アゼルは頷いた後、自信満々に胸を叩く。志半ばで旅を諦めるわけにはいかない。失われた全てを取り戻さねばならないのだ。


 自分たちのために。そして、エイルリークやジークベルトのためにも。熱意に燃えるアゼル、だが……。


「余としても、異論はない。だが、アゼル。残念だが余とリリン、メレェーナの三人は同行出来ない」


「えっ!? ど、どうしてですか!?」


「……時間軸を移動する際、厄介な問題が生じるのだ。同魂相殺、という厄介極まる問題がな」


 突然、アーシアがそんなことを言い出した。動揺するアゼルに、何故過去へ行けないのか説明を行う。


「平たく言うと、三百八十年前には当時を生きる余やリリンたちがいる。つまり、全く同じ存在が二人在ることになるわけだ」


「それが何か問題になる、ということですかな?」


「そうだ、ソルディオ。同一の存在が出会った時……両者共に、対消滅を引き起こすのだ」


 そう口にするアーシアの表情は、真剣だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 過去も過去でかなりの悲劇が巻き起こっていたのか(ʘᗩʘ’) そして長生きしてるだけに当時もピンピンしてるだろうしな(◡ ω ◡) でもリリンも前回に引き続き決闘でアゼルにブッチュ〜までした…
[一言] リリンとメレェーナはお留守番か(過去に行ったら、過去の自分と出くわしちゃうし。 …………やっぱリリンって雷オババじゃないkしびれびれッッ!?
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