220話―唇が繋ぐ絆
「ぐうっ……」
「ああっ!」
フリージング・ボルテックスが弾け、ジークベルトとレミアノールを吹き飛ばす。二人はお互いを庇い合うように転がり、地面に何度も身体を叩き付けられる。
「あの様子では、かなりダメージを受けたようだな。アゼル! 一気に畳み掛けるぞ!」
「はい、お姉ちゃ……!? 身体が、動かない……!」
さらに追撃を放つため走りだそうとしたアゼルたちだったが、ジークベルトの手から離れ落ちた大剣から発せられた熱波により動きを封じられる。
身動きが取れないアゼルたちを尻目に、ジークベルトはレミアノールを助け起こそうとしていた。だが、彼女の方が体格が大きい分、傷も深いようだ。
「レミー、こんなに……傷が。済まない、僕のせいで」
「気に……しないで、ジーク。貴方を守れて……悔いは、ないから」
「……ありがとう、レミー。君の献身をムダにはしないよ。ゆっくり休んで。ここからは……」
ジークベルトは横たわるレミアノールの身体に右手を置く。すると、相棒の持つ魔力が流れ込んできた。全ての力を受け取った騎士は、己の左肩に手を当てる。
「――君の分まで、僕が戦う」
「!? あれは……義腕、か?」
「凄く……でかい!」
レミアノールから受け取った魔力を用い、ジークベルトは巨大な義腕を作り出す。手首には、矢を発射する四つの装置が装備されている。
これでもう、ジークベルトは隻腕ではなくなった。動かなくなった相棒を見下ろした後、アゼルたちの方へ向き直り大剣を手元に呼び寄せる。
「ここからが本当の勝負だ。暗滅の四騎士が筆頭ジークベルト……全力を以て、君たちを倒す」
「くっ……まずいぞ、アゼル。身体は動くようになったが……あやつ、私たちが与えた傷が治癒している。どうやら、振り出しに戻ったようだな」
「いいえ、完全な振り出しではありませんよ、お姉ちゃん。こっちは二人、向こうは一人。厄介な連携は封じたも同然……あとは、油断せず戦うだけです」
「それもそうだな。よし、後半戦を始めるぞ!」
「はい!」
アゼルとリリンは、相手を挟み撃ちにしようと左右に分かれて走り出す。それを見たジークベルトは、翼を広げ宙へ飛ぶ。
「戦技、アローマシンガン!」
「来る! ジオフリーズ!」
空から地上を見下ろし、ジークベルトは義腕のリングベルトを回転させて大量の矢を射ち出す。アゼルは吹雪を起こし、降り注ぐ矢を弾く。
だが……。
「はあ、はあ……まずい、魔力がもう……」
「無理もない。これだけの規模と勢いのある吹雪を何度も起こしていれば、どれほど膨大な魔力があろうとも燃料切れになるというものさ」
幾度にも渡ってジオフリーズを使った結果、アゼルの魔力残量が危険水域に落ちてきた。このまま魔力を消費し続けると、魔力欠乏症になってしまう。
そうなれば、ジークベルトを倒すどころの話ではなくなる。今の魔力残量では、蘇生の炎を生成することが出来ない。
今アゼルが死ねば、ここで全てが終わる。
「くっ、このままでは……。ええい、こうなった以上ためらってはいられん! 覚悟を決めろ、私! ……よし!」
アゼルの危機に、リリンは何かを決意したようだ。体内で魔力を練りつつ、吹雪の中に突っ込んでいく。
「あの女、何を……? まあいい、二人同時に仕留めるのみ! アローマシンガン、パワー全開!」
「くっ、勢いが強く……このままじゃ、倒れちゃう……」
「アゼル! 私の魔力を受け取れ!」
さらに数と勢いを増す矢の雨に、アゼルの魔力は限界寸前だった。今にも倒れそうな身体に鞭打ち、踏ん張って耐える。
そこに、リリンが現れた。まだ有り余っている自身の魔力を渡すために。アゼルは声がした方に振り向くが……。
「ありがとうございます、リリンおね……!?」
「ん、む……」
「……おい、何やってんだあいつ。何でこんな時にアゼルにちゅーしてんだ!?」
なんと、リリンはアゼルと唇を重ねたのだ。突然の行動に、アゼルやジークベルトだけでなく、結界の外にいるシャスティたちも驚いてしまう。
「ななななな、なんてうらやま……けふん、突拍子もないことを! フケツですわ! ジェラシー全開ですわ!」
「ほう、これはこれは! なかなか大胆なことはしますな、あの御仁は! ハッハッハッハッ!!」
リリンの行動を見て、アンジェリカは嫉妬に狂い、ソルディオは爆笑する。一方、アーシアは感心しながら顎に指を添えた。
「ほう……あの者、最も効率のいい魔力の受け渡し方法を選んだか。まあ、この局面ではアレ以外の方法では間に合わんだろう」
「どういうことだ、アーシア」
「簡単な話だ、カイル。アゼルは今、魔力欠乏症に陥りかけている。それを救うには、極短時間で膨大な魔力を与えねばならん」
首を傾げるカイルに、アーシアのリリンの意図を話して聞かせる。リジールも気になるのか、こっそり聞き耳を立てていた。
「一番手っ取り早いのが、体内で凝縮した魔力を口移しで渡す方法だ。親鳥が雛に餌を与えるように……な」
「えー、それでも納得いかなーい! あたしだってアゼルくんとちゅーしたーい! したーい!」
「うるっせーぞメレェーナァ!」
外野がぎゃあぎゃあ騒いでいるなか、静かに魔力の受け渡しが完了した。リリンの作り出した魔力の塊が、アゼルの体内に移動する。
「ん……これが、精一杯だ。アゼル、あとは……任せたぞ」
「ありがとうございます、お姉ちゃん。二人分の魔力があれば……はあっ!」
「く……うわっ!」
次の瞬間、欠乏症寸前の状態から脱したアゼルは吹雪の威力を強めジークベルトを吹き飛ばす。翼を凍らせ、飛行を封じた。
これでもう、空から一方的に攻撃されることはない。魔力を渡しダウンしてしまったリリンを、アゼルはキャプチャーハンドで安全な場所に移動させる。
「これで一対一ですね、ジークベルトさん。そろそろ……決着をつけましょうか」
「そうだね、勇者くん。泣いても笑っても……これで最後だ!」
そう叫ぶと、ジークベルトはしっぽを伸ばし床に落ちていたレミアノールの弓を拾う。大剣を矢のように弓につがえ、力一杯弦を引き絞る。
「ナイツタクティクス・パート3! 戦技、プロミネンスミサイル!」
ジークベルトは右手を放し、大剣をアゼル目掛けて放つ。その場から一歩も動かず、アゼルはヘイルブリンガーを構える。
自身の放つ冷気と、リリンから託された魔力に由来する雷を纏い……一気に振り下ろした。冷気と雷の波動が、二重螺旋を描きながら放たれる。
「戦技、コキュートス・リヴォルト!」
大剣と波動が、互いを破壊せんとぶつかり合う。シャスティたちが固唾を飲んで見守るなか、大剣の刃に亀裂が走る。
次の瞬間、大剣が粉々に砕け散り……螺旋の波動が、ジークベルトに襲いかかる。打ち勝ったのは、アゼルの方だった。
「いっけえええぇぇぇ!!」
「……僕の、負けか。ふふ、強いんだね君は。暗滅の四騎士筆頭、ジークベルトの名において認めよう。君たちは……絆の試練を、乗り越えた」
攻撃が迫り来るなか、ジークベルトは微笑みを浮かべる。そして……アゼルとリリンにそう告げた後、波動に呑まれ消滅した。
ジークベルトの消滅と同時に、横たわっていたレミアノールもまた砕け消え去った。結界の外に佇む残りの像は、再び下へ降りていく。
『……素晴らしい戦いであった。よくぞ、最後の試練を越えた。汝ら……いや、君たちを歓迎しよう。太陽の王国……ソル・デル・イスカへ!』
「わっ、か、身体が……」
直後、謎の声が舞台に響き渡る。アゼルたちを讃えながら、一行の身体を浮かび上がらせる。どこからともなく現れた目映い光に包まれ、アゼルたちの意識は途切れた。
◇―――――――――――――――――――――◇
「……てください。起きてください、我らの希望よ。さあ、まぶたを開いて……」
「うー……ん。あれ、ここは……」
しばらくして、何者かの呼び掛けによりアゼルたちは目を覚ます。いつの間にか、どこかの城の中にある謁見の間に移動していたようだ。
ぼーっとしているアゼルたちの元に、一人の女性が歩み寄ってくる。優雅に一礼した後、女性は己の名を告げた。
「ようこそ、炎の欠片を継ぐ者とその仲間たちよ。わたくしはエイルリーク。太陽王ギャリオンの娘にして、生命の炎の欠片が一つ……『月光の炎片』を託されし者です」
太陽の都に到達したアゼルたちの冒険が、次なるステージへ進もうとしていた。




