219話―隻腕と弓聖
「……ジーク、どう? 彼らは」
「強い。ここまでたどり着いた者たちだ、これまでに現れた者たちよりも気骨がある」
「!? 奴ら、喋ることも出来るのか。不思議なものだな」
「ええ。一体、どうやって話しているんでしょうね」
それぞれが睨み合うなか、二体の像が口を開く。アゼルとリリンは驚きながらも、決して視線を相手から放さない。
何しろ、最後の試練の相手は聖戦の四王の筆頭、ギャリオンに仕えた伝説の騎士たちだ。僅かな隙が、一瞬で自分たちを殺す。
二人は、本能でそれを理解していた。
「ジーク、次の手はどうする?」
「もう少し力を見定めたい。レミー、ナイツタクティクス・パート1を」
「了解。ハッ!」
「どうやら次の攻撃が来るようです、気を付けて!」
二人の騎士は、アゼルたちの実力を測るべくさらなる攻撃を行う。レミアノールが弓を天に向け、八本の矢を曲射する。
勢いよく天へ昇った矢は、頂点へ達した後反転しそのまま静止する。そこへジークベルトが飛び上がり、大剣で矢を両断した。
「なんだ、何をムダな……なにっ!?」
「矢が増え……まずい! ガードルーン、イジスガーディアン!」
両断された矢が分裂を繰り返し、総数が二十本を越えた。レミアノールが親指を下に向けると、全ての矢が降り注ぐ。
矢の豪雨が襲い来るなか、アゼルはバリアを展開し攻撃から自身とリリンを守る。しかし、敵の攻撃はこれで終わらない。
「矢は防げても、これはどうかな? ナイツタクティクス・パート1! アロースケイル・ブレイカー!」
「来る……ぐっ!」
滞空したジークベルトが剣を前に突き出すと、バリアに弾かれた矢が鱗のように刃にへばりつき巨大な鈍器へ変わる。
猛スピードで急降下し、ジークベルトは右腕に力を込め大剣を振り下ろす。アゼルは持てる魔力をバリアに注ぎ込み、攻撃を耐えようとするが……。
「破ァッ!」
「うわああっ!」
「アゼル! ぐあっ!」
竜人独特の凄まじい膂力に耐えきれず、バリアが砕けてしまう。直撃こそしなかったが、アゼルは風圧で吹き飛ばされる。
リリンが受け止めたものの勢いは殺せず、二人仲良く結界に叩き付けられダウンしてしまった。騎士たちは、そこへ容赦なく追撃を放つ。
「スケイル解除。戦技、ドラヴゲルストライク!」
「戦技、アトロシスアロー!」
「うう……なんのこれしき! ジオフリーズ!」
鋭い突きと心臓を穿つ一矢が、アゼルたちを襲う。根性で立ち上がったアゼルは、猛吹雪を巻き起こしてギリギリのところで攻撃を跳ね返す。
「くっ……やはり、相変わらず強いな奴らは。幻影とはいえ、易々と勝たせてはくれぬな」
「特に厄介なのは……あの二人、連携が完璧なところですね。一心同体、阿吽の呼吸……そんな言葉じゃ言い表せないくらいに」
吹雪の壁で相手の攻撃を遮りながら、アゼルたちは体勢を整える。これまで戦ってきた敵は、ほとんどが一対一、あるいは一対多での戦闘だった。
故に、仲間との連携と数の有利で勝利を掴み取ることが出来た。だが、今回は違う。圧倒的な格上の敵が二人もいるのだ。
「まだ立てる、か。ま、そうでないと面白くない。ジーク、もっと私たちの強さを見せつけてやった方がよいな」
「そうだね、レミー。それじゃあ……次は、ナイツタクティクス・パート2だ。それっ!」
「……? 剣を、放り投げた?」
突如、ジークベルトが得物を空に放り投げる。突拍子もない行動に、アゼルは大剣へ視線を向ける。否、視線を向けてしまった。
「アゼル、危ない! サンダラル・ウォール!」
「もう遅い! ナイツタクティクス・パート2! 赫炎の一矢!」
アゼルの視線が外れた瞬間、レミアノールが音もなく矢をつがえ放った。それに気付いたリリンは、雷の壁を作り矢を防ごうとする。
が、ジークベルトが矢に炎のブレスを吐き付け、火炎による加速を付けた。矢は勢いを増し、リリンを貫く……かに思われたその時。
「矢の扱いなど慣れている! はあっ! アゼル、獲ったぞ!」
「ありがとうございます、リリンお姉ちゃん! バインドルーン、キャプチャーハンド!」
リリンは魔力の鞭を素早く呼び出し、猛吹雪と雷の壁を突き抜けてきた矢を絡め取った。アゼルもヘイルブリンガーから手を伸ばし、矢を掴む。
「いいぞ、そのままやっちまえー!」
「アゼルさま、反撃の時ですわ!」
「はい! リリンお姉ちゃん、行きますよ! こっちも合体攻撃で反撃です!」
「任せろ!」
シャスティたちの声援に応えつつ、アゼルとリリンは矢の推進力を利用して進行方向を変える。狙いはもちろん、ジークベルトたちだ。
「僕たちの攻撃を逆利用、か。なかなかやるね。でも」
「!? 矢が消えちゃった……!」
「自分たちの攻撃で敗れるような間抜けではない。さあ、かかってきなさい」
レミアノールが指を鳴らすと、矢は虚空に呑まれ消滅してしまう。安易な逆利用はさせない。そんな強い意思を見せた。
二人に勝つには、正真正銘自分たちの実力でなければならないようだ。せっかくの反撃を潰されたというのに、アゼルたちは不敵な笑みを見せる。
「ま、そう簡単に倒させてはくれないことなど分かりきっていたさ。こっちももう、出し惜しみはしない。全力で行かせてもらう!」
「一人で突っ込んでくるとはね。策があるのか、ただの蛮勇か。どちらにせよ、返り討ちにするのはたやす」
「待って、ジーク。もう一人がいない!」
「!? バカな、一体どこに……! 上か!」
大量の矢をスパークさせ、ジークベルトたちの視界を遮りつつリリンが突っ込む。再び手に取った大剣を構える相棒に、レミアノールが慌てた様子でそう告げる。
弾ける電撃に紛れ、アゼルは天高く跳躍していたのだ。先ほどのジークベルトたちのように、天と地の二段構えでの攻撃だ。
(弓持ちの方は、懐に潜り込めば何とかなるだろう。もう一人の方は隻腕。単独で処理可能な攻撃にも限度があるはず。なら!)
「素早くシミュレートを終えたリリンは、片手を背中に回し空中のアゼルにハンドサインを送る。小さく頷いたアゼルは、小規模な吹雪を起こす。
「それっ! パワールーン、シールドブレイカー!」
「氷の雨、か。なら、溶かすまで!」
目の前に氷の塊を作り出し、それを砕いて地上に降らせる。ジークベルトはレミアノールを守るため、息を吸い込み炎のブレスを上へ吐く。
だが、その行動をさせることがアゼルとリリンの狙いだった。頭上への攻撃に対処している間は、前方からの攻撃の防御に手が回らない。
「この……ハッ!」
「この本数ならば……全て避けきれる! てやっ!」
「なっ……うぐっ!」
ジークベルトが氷の雨の対処に追われている間に、リリンはレミアノールに接近する。放たれた五本の矢全てを気合いでかわし、低空タックルで吹き飛ばす。
「レミ……うわっ!」
「バインドルーン、キャプチャーハンド! あなたの相手は、ぼくがさせてもらいます!」
「順調だな! いいぞ、アゼル!」
リリンはレミアノールの懐に潜り込み、反撃の隙を与えず鞭の猛攻を加える。アゼルは落下しつつ斧から手を伸ばし、ジークベルトを捕まえ放り投げた。
これで二人を分断し、一対一の状況へ持ち込むことが出来た。だが、二人の策はこれで終わりではない。さらに畳み掛けるための策があった。
「一対一なら、余裕で勝てると?」
「いいえ、そんなことはありませんよ。だからこれは……」
「私とアゼルの、絆の大技への布石だ!」
距離こそ離れているが、背中合わせの状態になっているアゼルとリリンは自分たちの背後……舞台の中央付近に吹雪と雷の渦を作り出す。
ジークベルトとレミアノールの攻撃を捌きながら、渦を大きく強くしていく。魔力が注がれる度に、渦の吸引力はどんどんと増す。
「これ以上はさせない! 戦技、テンペスタ・ブレイド!」
「ぐっ、あぐっ! まだ、まだ……!」
「もう少しだけ耐えてくれ、アゼル! あと少しで……ぐはっ!」
「言っておくが、素手でも私は強いぞ? 封印の巫女よ」
「なんだ、幻影のクセに私のことを覚えているのか。なら……巫女の名に恥じぬ戦いをしなければな!」
足を止め、リリンとレミアノールは激しい殴り合いを始める。一方、アゼルはジークベルトに切り刻まれながらも、渦に魔力を注ぐ。
「その耐久力、見上げたものだね。世が世であれば、我らが王の目にも留まっていただろう」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。次は……もっと驚かせてあげますよ! お姉ちゃん、準備完了です!」
「フッ。よし、やるぞ! フン……ぬあっ!」
「て……やああっ!」
「うわっ!?」
「く……まずい、吸い込まれる!」
アゼルの合図を受け、リリンはレミアノールの身体を掴み渦へブン投げる。アゼルもまた、隙を突いてジークベルトのしっぽを掴み振り回す。
そして、渾身の力を込めて背後へ放り投げた。直後、アゼルたちは渦から離れるように跳躍し……溜めに貯めた魔力を解き放つ。
「行くぞアゼル! これが私たちの合体攻撃……」
「融合魔法、フリージング・ボルテックス!」
冷気を纏う雷の渦が炸裂し、ジークベルトとレミアノールを呑み込む。アゼルたちの絆が生んだ大魔法が、反撃の狼煙となった。




