218話―絆の試練
なんだかんだで、無事大部屋まで逃げ切ったアゼルたち。休憩を挟んだ後、七階を目指して歩みを再開する。
……が、流石に体力の消耗が激しく一様にみな足取りが重い。お通夜のような重苦しい雰囲気のなか、曲がりくねった通路を進む。
「足が重い……疲れが……ひどい……」
「アゼルくん、だいじょーぶ? おっぱ……お菓子食べる?」
「メレェーナ。貴様今不埒な発言をしようとしたな? ん?」
「シテナイヨー。リリンノキノセイダヨー。ソウニチガイナイヨー」
「どうだかな……。疲れが溜まるとマトモにツッコむ気力も湧かん」
バラエティ豊かで苛烈な罠の数々に翻弄された一行は、完全に気力が抜けきってしまっていた。もはや、罠をチェックする余裕すらもない。
誰かが死ぬ度にアゼルの手で蘇生してもらう……という、もはやゴリ押しと呼ぶのも憚られるトンデモ戦術で無理矢理先へ進むほどに。
「はぁー……まだ七階への階段に着かねえのか。いい加減嫌んなってき……お? またなんか入り口が見えるな」
「そろそろ終わってもらいたいものだな。何度でも生き返れるとはいえ、死ぬのは面倒だ」
床や壁、天井から不規則に槍が突き出てくる通路を突破したアゼルたちは、小さめの部屋にたどり着く。奥の壁には、矢印型のボタンがあった。
矢印は上を指しており、自分の存在を知らせるように淡い水色の光を放っている。それを見たアゼルは、ためらいなくボタンを押した。
「もうどうにでもなーれ! それっ!」
「む、扉が閉まった……むおっ! この浮遊感は……?」
「どうやら、部屋自体が上に動いてるようだな、ソルディオ。この部屋そのものが、エレベーターだったってことか」
扉が閉ざされた直後、部屋が物凄い勢いで上へと移動していく。しばらくして扉が開くと、光が差し込んでくる。
どうやら、再び城の外へ出ることになるようだ。アゼルたちが扉から出ると、長い橋が一行を出迎える。橋の先には、広い円形の舞台があった。
眼下には山嶺の雪景色が広がり、上にはもう山肌は見えない。アゼルたちは、ゾビア大山脈の頂上まで到達したらしい。
「いかにも、といった雰囲気の橋だな。アゼル、どうする?」
「ここまで来て落下! 死亡! 終わり! は嫌なので……まずは偵察ですね。サモン・スケルトン!」
アーシアに問われ、アゼルは罠が仕掛けられていないか確かめるべくスケルトンを呼び出す。慎重に橋を渡らせ、舞台の方へ向かわせる。
行きは特に何もなく、アゼルはスケルトンを引き返させる。帰りも無事に戻ってきたため、罠は特に仕掛けられていないと判断した。
「問題なし、ですね。行きましょう。これで最後だといいんですけど」
「だな。とりあえず、行こうぜ」
カイルに促され、アゼルはスケルトンを消して歩き出す。風が強いため、吹き飛ばされないよう手すりを掴み舞台へ向かう。
橋を渡り切り、舞台に足を踏み入れようとしたその時。またしても謎の声がアゼルたちの元に届いた。
『王の意思を継がんとする者よ、剛力と知恵の試練を越えよくぞここまでたどり着いた』
「ええ、大変でしたよ。ここに来るまでいろいろと」
『勇者よ、汝に最後の試練……絆の試練を与えよう。さあ、前へ。汝が最も信頼する者と共に、舞台へと上がるのだ』
「ぼくが、一番信頼する人……」
謎の声は、アゼルにそう告げた。アゼルは後ろへ振り向き、仲間たちを順番に見つめる。リリン、シャスティ、アンジェリカ、カイル、メレェーナ、ソルディオ、アーシア、リジール。
この中から誰か一人を選び、共に最後の試練を潜り抜けなければならない。悩みに悩んだ後、アゼルが選んだのは……。
「――リリンお姉ちゃん。ぼくに、力を貸してくれますか?」
「ああ、喜んで。このリリン、封印の巫女として……そして、アゼルの最初の仲間という誇りにかけて。勝利のために身を捧げよう」
アゼルが選んだのは、リリンだった。その選択に異を唱える者は、誰もいなかった。皆、リリンが選ばれるべきだと考えていたのだ。
「ま、これが順当だよな。リリン、アゼルじきじきのご指名なんだ。恥晒すんじゃねえぞ?」
「先輩にならば、安心してアゼルさまを託せますわ! 最後の試練、無事乗り越えてくださいませ!」
「頑張ってね、リリンちゃん! あたし、応援してるよ!」
シャスティにアンジェリカ、メレェーナはリリンにエールを送る。共に数々の死線を潜り抜けてきた戦友への、力強い励ましはリリンに勇気を与えた。
「オレが色々言えた義理じゃねえけどよ。頑張れ、リリン」
「やはり、こういう時は付き合いの長さがモノを言うか。では、余は貴殿たちの勝利を祈るとしよう。もちろん、リジールもな」
「はい、アーシア様!」
「選ばれなかったのは少々悔しくはあるが! このソルディオ、全力で応援するぞ!」
「任せろ。アゼルと私が力を合わせれば……誰が相手でも勝てるさ!」
カイルやアーシアたちも、応援の言葉をかける。リリンは力強く答えた後、アゼルの手を握り共に前へと進む。
「ありがとう、アゼル。私を選んでくれて。必ず……勝利を掴もう」
「はい! リリンお姉ちゃんがいれば百人力……いえ、千人力ですから!」
互いに微笑み合い、二人は舞台へ上がる。すると、舞台の端に沿ってドーム状の結界が出現する。これでもう、試練が終わるまで外に出ることも中に入ることも出来ない。
『パートナーを選んだようだな。では、始めるとしよう。王の都へ至るための最後の試練……絆の試練を!』
謎の声がそう叫ぶと、舞台を囲むように四つの像がせり上がってきた。それらの像に見覚えがあったソルディオは、大声で叫ぶ。
「おお、この像は! 間違いない、ギャリオン王の側近……暗滅の四騎士!」
「暗滅の、四騎士……! イスタリアの博物館で見た、あの人たちですね!」
以前、とある依頼でイスタリア王国へ行ったアゼルたちは王たちの歴史について触れた。その時に、ギャリオンに仕えた騎士たちのことを知ったのだ。
『その通り。ここに現れたるは、太陽に仕え闇を滅した四人の騎士の像なり。最後の試練……それは!』
「!? なんだ、像が震えて……」
「リリンお姉ちゃん、像が……像が動いてます!」
四つの像のうち、二つが震え始める。大剣を担いだ隻腕の竜人の少年の像と、大きな弓を構えたオーガの女性の像だ。
『かつての四騎士……【隻腕】ジークベルト、そして【弓聖】レミアノールの幻影を打ち破ることなり!』
叫び声と同時に、二つの像が台座を蹴って舞い上がり、結界をすり抜け舞台へと入り込む。青銅製とは思えない、滑らかな動きで。
「なるほど。いにしえの都へ至るための最後の番人には相応しい相手だ。そうだろう? アゼル」
「ええ。偉大な騎士さんたちが相手だというのなら、受けて立つまでですよ」
『幻影とはいえ、実力は本人と相違はない。汝らが築いてきた絆を以て、最後の試練を越えてみせよ!』
「来ますよ、お姉ちゃん!」
「任せろ、アゼル! サンダラル・アロー!」
レミアノールの像は、弓に五本の矢を一気につがえ射ち出した。変幻自在の軌道で迫り来る矢を、リリンが撃ち落としていく。
相殺された矢は爆発し、地面に落ちる。が、発生した煙に紛れてもう一人の騎士……ジークベルトの像が音もなく接近してきた。
「お姉ちゃん、危ない! 出でよ、ヘイルブリンガー!」
「……!」
「済まない、助かった!」
リリンの心臓を狙って放たれた突きを、間一髪でアゼルが弾く。ジークベルトは翼を広げ、素早くパートナーの元へ戻っていった。
「僅かに攻撃を交えただけだが……私には分かる。奴らは、これまで戦ってきた者たちよりも強い。遥かにな」
「そのようですね。でも、ぼくたちの方がもっと強い。そうでしょ?」
「ああ、そうだな」
互いに顔を見合せ、アゼルとリリンは不敵な笑みを浮かべる。最後の試練が今、幕を開けた。




