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217話―知恵の試練・後編

「ふむ……。少なくとも二人、誰が嘘つきなのか余は見抜いた」


「えっ、本当ですかアーシアさん」


 床に座り込み、うんうん唸りながら考え込んでいたアゼルは、アーシアの言葉に顔を上げる。自身ありげに頷いた後、アーシアは緑と茶の賢者を指差す。


「あの二人は、他の賢者が正直者だから信用しろ、と言ったな?」


「ええ、そうですね」


「それだと、試練の声の言っていた内容と矛盾するだろう? 真実を告げているのは一人。だが……」


 そこまで言ったところで、アゼルは何かに気付きパンと手を叩く。アーシアの言わんとしていることが分かったようだ。


「なるほど、あの二人どちらかが正しかったとしても正直者が複数になっちゃいますね」


「うむ、そういうことだ。貴殿は理解が早いな。えらいえらい」


「えへへ……」


 誉められたアゼルは、嬉しそうに笑う。それを見たリリンたちは、何故か分からないがやる気が出てきたようだ。


 頭脳をフル回転させ、さらなる考察を続けようとしたその時。嘘つきだと見抜かれた緑の茶の賢者に、異変が起こる。


『バーレちゃった、バレちゃった! これはもう、さよならだー!』


『若人よ、頑張るのじゃぞ……』


「わあっ! け、賢者さんが……」


 緑と茶の賢者を吊るしていた鎖が、用済みとばかりに途中で千切れてしまった。床に落ちた胸像は粉々に砕け、塵となって消えていく。


 若干の罪悪感を抱きながらも、アゼルたちは知恵の試練を突破するため頭を働かせる。しばらくして、メレェーナが手を上げた。


「はいはいはーい! あたし誰が嘘つきなのか分かったー!」


「ほー、んじゃ聞いてみるか。メレェーナ、誰が嘘つきなんだ?」


「ふっふーん、そーれーはーズバリ! 黄の賢者さんだー!」


 カイルに問われたメレェーナは、自信満々に黄の賢者を指差す。吊り下げられた賢者たちは、何も言わず沈黙を保っている。


「理由をお聞かせ願いますわ、メレェーナ」


「いーよ。さっき死んじゃった茶の賢者さんは、黄の賢者さんが正しいって言ってたでしょ? でも、それが嘘ってことは……逆に言えば、黄の賢者さんが言ってることも嘘ってことになるんだよ!」


「うーん……なるほど?」


 要するに、メレェーナが言いたいのはこうだ。茶の賢者は黄の賢者を信用しなさいと言ったが、それは嘘だった。


 つまり、黄の賢者を信用してはならない……彼は嘘をついている、ということになるのだ。ソルディオは頷き、彼女に同意する。


「ふむ、一理ありますな。仮に黄の賢者が正しいとすると、茶と合わせてこれまた正直者が二人になってしまう。つまり……」


「黄の賢者さんは嘘つきなのだー!」


『……無念』


 ボソッと一言呟いた後、黄の賢者もまた地に落ちて砕け散る。これで、残る賢者は三人。赤、青、紫のみとなった。


「ここまではなんとか推理出来たな。半分に減れば、もう答えも分かったようなものだろう」


「そうですね、リリンお姉ちゃん。ぼくの中では、もう答えが出ました」


 頭の中で正解を導き出したアゼルは、残る賢者たちの元へ向かう。彼が正直者だと判断した賢者は、果たして……。


「真実を話しているのは……青の賢者さん。あなたですね?」


『そう考えた理由、お聞かせ願おう』


 アゼルが声をかけたのは、青色の胸像だった。賢者は真っ直ぐアゼルを見つめ、何故そう判断したのかを問う。


 頷いた後、アゼルは考えを整理しながら自分の考えを賢者たちに述べる。


「判断の決め手は、赤の賢者さんの言葉ですよ。『青の賢者は信用するな』って。もし仮に、赤の賢者さんが正直者だとすると、矛盾が生まれるんですよ」


『ほう。矛盾とな?』


 アゼルの言葉に、青の賢者だけでなくリリンたちも耳を傾ける。複数の視線を浴び、ちょっと気恥ずかしさを覚えつつもアゼルは言葉を続けた。


「もし彼が正直者なら、あなたと紫の賢者さんは正しくないことになります。でも、そうなると……正解がどの扉なのか、教えてくれる人がいなくなるんですよ」


 どの扉が正解なのかを告げているのは、六人中三人しかいない。その全員が嘘つきだとすると、どの扉が正解なのか分からなくなってしまう。


 故に、赤の賢者は嘘つきとなる。だとするならば――必然的に、青の賢者が正直者となるのだ。アゼルの答えを聞いた賢者は……。


『……ふ。ははははは!! 見事だ、王の意思を継ぐ者よ。見事、知恵の試練を突破したな』


『ケッ、残念無念だぜ!』


『おめでとさーん!』


 見事、アゼルは真実を見抜くことが出来たようだ。赤と紫の賢者が地へと落ち、最後に青の賢者だけが残った。


 彼が示した正解の扉は、紫の宝石が嵌め込まれたものだ。その扉こそが、先へと繋がる真実の道となっているのだろう。


『正しき力と知恵を持つ者よ、進むがよい。これより先は、さらなる苛烈な罠が汝らの行く手を遮らんとするだろう。だが、汝らならば乗り越えられる。そう信じているぞ』


「ありがとうございます、賢者さん」


『さあ、進め。太陽の都までもうすぐだ!』


 そうやり取りをした後、青の賢者を縛っている鎖が上へ巻き上げられていく。天井に胸像が消えると、穴が閉ざされた。


「ふー、これで知恵の試練もクリアだな! 流石アゼル、アタシは信じてたぜ!」


「やれやれ、ずっとうんうん唸ってただけの奴が調子のいいことを言いおる。まあいい、先へ進もうかアゼル」


「はい、行きましょう! この先は五階……気を引き締めて進みましょうね!」


 知恵の試練を突破した一行は、正解である紫の扉を潜り先へ進……もうとしたが、ふと不正解の扉を開けるとどうなるのか、アゼルは気になった。


「サモン・スケルトン! ……ちょっと可哀想ですけれど、不正解の扉の先がどうなってるのか確かめてみましょうか。視界をぼくと接続して……っと」


「面白そうなことしてるな、アゼル。よし、オレも手伝うぜ。皆に接続を共有出来るようにしてやるよ」


「ありがとう、兄さん。さて、他の扉は……うわああっ!?」


 扉の先にある螺旋階段を登りつつ、アゼルは部屋に残したスケルトンを操る。手始めに、赤の宝石が嵌め込まれた扉を開けると……。


 残る五つの扉が同時に開き、強烈な酸の津波が部屋に流れ込んできた。哀れスケルトンはなすすべなく溶かされ、欠片一つ残らず消滅してしまう。


「うっわ、えぐー……。間違った扉を開けてたら、こんなことになったんだ……」


「……アタシさ、最悪一つ一つ扉を開けて確かめりゃいいやとか思ってたけどよ。やらなくてよかったわ」


 予想以上の惨事に、メレェーナとシャスティはそう呟く。その場にいた全員が、シャスティの呟きに同意したのは言うまでもない。



◇―――――――――――――――――――――◇



「……はぁー。五階も突破出来ましたね。段々、罠の殺意が上がっていくのは勘弁願いたいです……」


「そう、だね。六階への階段の前にあったアレは……もう罠じゃないよ……」


 二時間後、アゼルたちは五階に張り巡らされた罠を抜け、六階に到達することが出来た。が、あまりにも苛烈過ぎる罠の数々に皆疲弊していた。


 通路じゅうに不可視の丸ノコが大量に配置されていたり、振り子ギロチンを避けつつ幅の狭い鉄骨の上を渡らされたり……と、厄介な罠が多数あったのだ。


「ああ、酷かったなリジール。天井から爆弾が降り注ぐなか、床のトラバサミを避けながら階段に向かえなど……余たちだからよかったものの、他の者にはキツかろう」


 アーシアたちはぶつぶつ文句を垂れつつも、先へ進んでいく。不思議なことに、どれだけ進んでも罠らしい罠は出てこない。


 だが、油断することは出来ない。この階は、最初に挑んだ冒険者パーティーが全滅したエリアなのだ。何が起こるか分からない以上、警戒して損はない。


「あ、奥の方に大部屋はっけーん! アゼルくん、あそこでやすもー!」


「そうですね、安全を確認し終えたらきゅうけ」


「ガギァァアー!!」


「あー……ここで出るんですね、石の魔物たち。全然出ないなぁ、なんて思ってたら……」


「言ってる場合か! 走るぞアゼル!」


 長い長い通路を歩いていたアゼルたちの()()から、大量の石の狼が走ってきた。それと同時に、通路の先にある大部屋への出入り口の上部から隔壁が降りてくる。


「アレが降りきる前に走り抜けろってか!? めちゃくちゃ過ぎるだろこ……おおっ!? あぶね!」


「落とし穴もあるようですな! なるほど、これは全滅も致し方なし! ハッハッハッハー!!」


「笑ってる場合かー!」


 全力疾走しつつヤケクソ笑いをするソルディオに、全員がツッコミを入れる。まだまだ、休める時間は来そうもなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前にも言ったがこの迷宮作った奴は相当殺意高いぞ(─.─||) これではマトモに走破なんてまず無理だぞこれ(↼_↼) 確実に手足の2・3本持ってかれるぞ(╥﹏╥)
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