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216話―知恵の試練・前編

 剛力の試練をクリアしたアゼルたちは、二階へ上がり先へ進む。罠の種類と配置が詳細に書き込まれた地図のおかげで、難なく超えることが出来た。


 三階も順調に進み、四階へ続く階段の前まで到達した。問題なのは、ここから先。この先のエリアは、地図が完成していない危険地帯なのだ。


「ここまでは無事来られましたね。でも、油断は禁物ですよ。ここからはいっそう、注意深く用心しながら進みましょう」


「だ、そうだ。アンジェリカ」


「わ、分かっていますわ! 流石のわたくしも、同じ過ちは二度も繰り返しませんことよ!」


「どうだかな。ま、いい。行こうか、アゼル」


 アンジェリカをからかった後、リリンは弾除けとして先頭に立ち階段に足をかける。最初の方は、特に罠はないらしい。


「ふむ、今のところは特に何も――くっ!」


 が、そこから少し登ったところで、リリンが踏んだ足場が僅かに沈み込む。直後、嫌な予感を覚えたリリンは咄嗟にしゃがんだ。


 すると、彼女の頭があった位置を矢が通過し、反対側の壁の中へと消えた。少しして、壁の中から何かを巻き取る音がきこえてくる。


「危なかった……もう少し反応が遅れていたら、駄嬢の二の舞になるところだった」


「ふむ、どうやら壁のあちこちに高度な隠蔽の魔法が施されているようだな。アゼル、望みとあらば余が暴くが……どうする?」


「お願いします、アーシアさん。おちおち階段も登れないのは困るので」


 アーシアは頷いたあと、壁に手を触れ魔力を流す。すると、隠蔽魔法が剥がれ、仕掛けられていた矢の罠が暴かれた。


「嫌なトコだな、ホント。こんなのがうじゃうじゃあっちゃあ、おちおち探索も出来やしねえ」


「ふーむ、ここの罠も実に嫌らしい。ある程度規則的に矢の発射口が並んでいるかと思えば、突然位置がズレている……厄介極まりないものだ」


 カイルとソルディオは、数々の罠に嫌気がさしてきたようだ。しかし、ここまで来た以上諦めることは出来ない。幸い、罠は丸見え。


 罠が起動する段さえ踏まなければ、矢は飛んでこない。アーシアがいたことに感謝しつつ、アゼルたちは階段を登り……その先で、一旦外に出た。


「ん、こっからは外が見えるのか。おー、いい景色だな!」


「シャスティお姉ちゃん、あっち! もしかして、あそこに見えるのは……」


「おおおお、まさに! あれこそがギャリオン王の築いた都! この目で見られる日が来るとは……ふおおおおおお!!!」


 山脈の外にあるテラスに出たアゼルたちは、絶景を眺め身体を休める。その時、遥か遠くの方に城郭に囲まれた街が見えた。


 おそらく、あれが太陽王の都なのだろう。ソルディオのテンションも絶頂を迎えている。そんななか、メレェーナはあることを思い付いたようだ。


「ひーらめーいた! こっから飛んでけば、わざわざダンジョン進まなくていいじゃん!」


「いや、そう上手くは行かないだろう……」


「だいじょぶだいじょぶ、ものためアバーッ!!」


「……言わんこっちゃない」


 リリンの警告も聞かず、翼をパタパタさせメレェーナは空から街へ向かおうと試みる。が、バッチリ対策がされていた。


 テラスの縁辺りに近付いた瞬間、それまで見えなかったバリアが出現したのだ。バリアは電気を帯びているようで、情けない悲鳴と共にメレェーナが弾かれる。


「うえぇ……からだビリビリ……あたまぴよぴよ……あたしはどこ? ここはだぁれ?」


「メレェーナが壊れたか。誰か治してやれ」


「よっし、アタシに任せな! オラッ食らえ、アストレア様直伝……斜め四十五度チョップ!」


「アバッ! ……ふひぇー、酷い目にあったぁ。アゼルくーん、なぐさめ……ぐえっ!」


「さっさと行くぞ駄女神!」


 アゼルに抱き着こうとしたメレェーナだったが、あっさりとリリンに捕獲され引きずられていった。苦笑いしつつ、一行は先へ進む。


 山脈の内部へ戻り、再び階段を登る。またしても仕掛けられている矢の罠に辟易しつつも、ようやく四階の入り口にある大広間にたどり着いた。


「着きましたね、四階に。さて、ここからはどうす」


『よくぞここまでたどり着いた、王の意思を継ぐ者とその仲間たちよ。汝らに第二の試練……知恵の試練を与えよう』


「いきなり来やがったな……」


 どう進もうか考えようとした矢先、もはや恒例となった謎の声が聞こえてきた。直後、アゼルたちが登ってきた階段への出入り口が閉ざされる。


 そして、天井が開き穴が現れる。少しして、穴の中から鎖でぐるぐる巻きにされた六つの胸像が降ってきた。


 胸像は赤、青、緑、黄、紫、茶、の六色に塗り別けられている。おそらく、知恵の試練とやらに関係があるのだろう。


『今現れたるは、汝らに助言を与える六人の賢者なり。されど、六人のうち真実を告げるは一人のみ。残る五人は平然と嘘をつく』


 謎の声が語っている間、階段と反対側にある壁に六つの扉が現れる。扉の中央には各胸像の色と対応した色の宝石が嵌め込まれ、封印の役割を果たしていた。


『正しき道へ進みたくば、賢者たちの声を聞け。知恵を絞り、真実を見抜け』


「……聞こえなくなったな。アゼルよ、またしても試練なわけだが」


「そうですね、とりあえずは賢者さんに話を聞いてみましょうか」


 アーシアの言葉に頷き、アゼルは吊り下げられている胸像に近寄る。とりあえず、正解の扉を推理するべく話を聞くことにしたのだ。


 いちいちアゼルが聞くのも面倒なため、それぞれが別々の賢者の元へ向かう。


「こんにちは、赤色の賢者さ」


『ボウズ、よく聞け! 青の賢者は嘘つきだ、奴の話は信用するな!』


「び、びっくりした……。声が大きい……」


 左端にいる赤色の胸像は、だいぶ乱暴な口調でそう告げる。近くに寄っていたアゼルは、耳がキーンとなった。


「お前が賢者か。済まないが、話を聞かせてくれないか?」


『……ふむ、いいだろう。正解は紫の宝石が嵌め込まれた扉だ。それ以外の扉を開ければ、全員死ぬ。気を付けることだ』


「青いのは結構紳士なんだな」


 左から二番目、青色の胸像に話しかけたリリンとシャスティは、難なく情報を得た。賢者ごとに、性格もバラバラなようだ。


「賢者と言ったな、余にも情報を話せ」


『いーよー。あのねー、赤の賢者は正直者だよー。だから信用した方がいいよー。うん、間違いなし! あはははは!!』


「……この方は本当に賢者なのでしょうか、アーシア様」


「知らん。情報さえ話してもらえればどうでもよいことだ」


 左から三番目に吊り下げられている緑色の胸像は、何が愉快なのか大笑いしながら話をする。その様を見たリジールは、困惑してしまう。


 その隣には黄色の胸像がぶら下がっており、アンジェリカが話を聞こうとしていた、が。


『……』


「あの、もし」


『……』


「賢者さま、なのですわよね?」


『……』


「キィィィィ!! 黙っていないで、何か言ってくださいませぇぇぇ!!」


 黄色の胸像は、かなり寡黙なようだ。


『……赤』


「へ?」


『……赤の扉が正解だ』


 そう言ったきり、賢者は沈黙してしまった。ムダに地団駄を踏んだアンジェリカは、疲れてその場に座り込んでしまう。


「……貧乏くじを引きましたわ」


「まあまあ、そうがっかりなされるな。こちらの方は話を聞けましたぞ!」


「紫の賢者曰く、『正解の扉は青』だってさ」


 右から二番目、紫色の胸像から話を聞き出したカイルとソルディオはアゼルにそう報告する。後は、右端にいる茶色の胸像から話を聞くだけだ。


「ねーねー賢者さん。正解の扉教えて?」


『ホッホッ、それは無理じゃがヒントはやれるぞ。よいか? 黄の賢者は本当のことを言っておる。あやつの言うことを聞けば間違いはないぞよ』


「そっかー、ありがと!」


 メレェーナはぺこっとお辞儀をした後、アゼルの元に戻る。これにて、情報は出揃った。アゼルはそれぞれの賢者の言葉を地図の裏にメモする。


「えーと、賢者さんたちの話を纏めるとこうなりますね。青の賢者さんは嘘つきで、正解の扉は紫、赤、青のどれか。それと、赤と黄の賢者さんは正しいってこと……あれ?」


「んあー、アタシこういうのからっきしなんだよなぁもう。誰が正しいのか分かりゃしねえ」


 アゼルは首を傾げ、シャスティは困ったように頭を掻く。かなりこんがらがってしまっているようだ。


「なに、問題はありますまい。制限時間があるでもなし、俺たちが総出で知恵を絞れば必ず正解が分かる! ……はず!」


「はず、では困るのだがな……」


 楽観的なソルディオの言葉に、アーシアがため息をつく。知恵の試練を突破するため、頭脳をフル回転させる必要があるようだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] この試練の門罠多すぎないか?(・o・;) 昔の王墓等は罠だらけが基本だがコレだけ多いんじゃ昔は盗賊の類が大量にいたのか?(⊙_◎) 剛力、知恵と来たのなら次は勇気かな(~‾▿‾)~
[一言] >「だいじょぶだいじょぶ、ものためアバーッ!!」 メレェーナ、お前もかw >「アバッ! ……ふひぇー、酷い目にあったぁ。アゼルくーん、なぐさめ……ぐえっ!」 >「さっさと行くぞ駄女神!」…
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