215話―剛力の試練
「さて、無事中に入れたはいいが。アゼル、ここからはどう進む?」
「そうですね、地図によりますと……わ、一階からもう罠だらけですね。とりあえず、まずは……みんなに蘇生の炎を! そやっ!」
通路を進み、開けた部屋に出たアゼルたち。ギルドの職員から渡された地図を読むと、一階から罠のオンパレードであった。
そこで、アゼルは仲間全員に蘇生の炎を与える。こうしておけば、少なくとも一回は罠にハマってしまっても問題ない。
「ありがとうございますわ、アゼルさま。これでひとまず安心ですわね! さあ、先に進みましてよ! とりあえずはこちらの通路に行きますわ!」
アゼルたちがいる部屋からは、正面と左右の三方向に通路が伸びている。地図によれば、どれを選んでも二階へ行けるようだが……。
「あ、待ってくださいアンジェリカさん! そっちの方は……」
「ホホホホ! 問題ありませんわ、わたくしの洞察力にかかれば罠こウ゛ォ゛ッ゛」
「スライドする刃の罠が……って、ああ、早速やられてる……」
意気揚々と左の通路へ歩き出したアンジェリカは、早速罠の餌食となった。床に敷かれた石畳のうち、白色のモノを踏んだ瞬間足が沈み込む。
直後、通路の左右の壁から互い違いに大きな刃が出現し、アンジェリカの身体を真っ二つに両断してしまった。初手から苛烈極まりない。
「うわ……オレ、始めて見たぜ。前後に真っ二つにされてるやつ」
「アホめ……やはり、駄嬢は駄嬢だったか。人の話は最後まで聞けというに」
役目を果たした刃が引っ込んでいくのを見ながら、カイルはそんな感想を漏らし、とリリンはやれやれとため息をつく。
マヌケ面で絶命したアンジェリカは、蘇生の炎によって復活した後慌てて後ろへ飛び退く。流石に、二回も同じく目には合いたくないようだ。
「ふえぇ……ア゛セ゛ル゛さ゛ま゛ぁ゛~」
「まったくもう、迂闊に足を踏み入れるからですよ。そっちの通路は、ところどころに混ざってる白い床石を踏むと罠が作動するんです。次からは気を付けてくださいね?」
「面目ありませんわ……」
しょんぼりしてしまったアンジェリカに再度蘇生の炎を与えつつ、アゼルは地図を眺める。左の通路は、スライド刃の罠。
右の通路は魔法センサーによる振り子ギロチンの罠がある。一方、正面の通路はところどころ落とし穴があるだけで他の通路よりは通りやすそうだ。
……通路の先の部屋に、大きな字で『デンジャー』と書き殴られていたが。
「さて、どこを通りましょうか……。どこも面倒くさそうですね」
「アタシとしてはよ、左がいいと思うぜアゼル」
「左ですか?」
「おう。今しがた、アンジェリカがやられたおかげでタネが割れてるしな」
「それもそうですね。じゃあ、左の通路で」
シャスティのアドバイスで、一行は左の通路を通ることにした。白い床石を踏まないように注意しつつ、慎重に進んでいく。
「みんなは大変だねぇ。歩いていかないといけないんだもん」
「ほう、貴公は空が飛べるのですか! いやはや、俺も空を飛んでみたいものだなぁ! そうすれば、偉大な太陽の近くに……」
「ムダ口を叩くと、罠を見落とすぞ。そこ、白い床石がある。メレェーナ、貴殿は空を飛べるのだから偵察でもしてきたらどうだ?」
「はぁーい」
唯一空が飛べるメレェーナは、アーシアに促され先頭に移動する。地図によれば、通路の先には特に罠はない。
だが、地図に記されていない石の魔物がいる可能性があるため、念には念を入れて偵察してきてもらうことにしたのだ。
「ふう、結構長い通路ですね。もう十分くらいは進んでいるはずなんですが……」
「おーい、アゼルくーん。この先の部屋、誰もいなかったよー。凄い静かだった!」
「よかった、魔物の襲撃はなさそうですね。ありがとうございます、メレェーナさ……あ、ようやく通路も終わりのようですね。長かった」
罠を作動させてしまわないよう神経を張り詰めていたアゼルたちは、通路を抜け一息つく。少し休憩した後、地図を確認する。
この先にある短い通路と螺旋階段を通れば、二階へたどり着けるようだ。
「もうちょっとで二階ですね。さ、そろそろしゅっぱ」
『試練の道へ来る者よ、第一の洗礼を受けよ。汝、その身に宿る剛力を我に示せ』
その時、門を通る時に聞こえた声が再び響く。その直後、床が動きアゼルの足が固定されてしまう。リリンたちが助ける間もなく、部屋の中央に移動させられてしまった。
「わわわ!? 一体なにが!?」
「アゼル、今助け……ぐおっ! くっ、これは……魔法障壁か! いつの間に……」
『王の意思を継ぐ者よ、相応しき剛力を見せよ。迫り来る壁を退け、道を切り開くのだ』
アゼルとリリンたちの間に頑丈な障壁が出現し、救出を阻む。声が途絶えた直後、障壁の向こう側の壁がゆっくりとせり出してきた。
このままでは、アゼルが左右から迫る壁に潰されてしまう。切り抜ける方法はただ一つ。己が剛力をもって、壁を押し返すしかない。
「し、試練っていきなりそんな……。もう、分かりましたよ! こうなったら、やってやります! ふんやあっ!」
固定されていた足が自由になったアゼルは、とりあえず右から来る壁を押し返すべくをつける。かなり重いが、何とか動かせた。
「いいぞアゼル! そのまま押し返……待てよ、もう片方の壁が来るから意味ねえんじゃねえのかこれ」
「……いや、そうでもない。この部屋の魔力の巡りを観察してみたが、左右の壁の中に大きな魔力の塊があるのが分かった」
アゼルを応援していたシャスティだが、ふと問題に気付いた。片方の壁を押し返しても、反対側の壁がそのままでは意味がない。
……と思われたが、アーシアの言葉にリリンが興味を示す。
「ほう、それで?」
「おそらく、壁を押し込んで塊に触れるなり潰すなりすれば仕掛けは止まるはずだ。左右の壁でそれを達成すれば、試練クリアとなるのだろう」
「なるほど。だとしても、急がねばなるまい。もう片方の壁、こころなしか少し動きが速くなったようにも見えるぞ」
「いや、速くなってる! アゼルくん、急いで! このままだと潰されちゃう!」
左から来る壁の速度が少しずつ上がっていることに気付き、リジールは叫ぶ。片方の壁を押し返すと、それに反応して加速する仕掛けになっているようだ。
「もう、忙しいなぁ! こうなったら……ソウルルーン、ベルセルクモード! あーんど、サモン・ブラック隊長!」
「私をお呼びですかな、マスター」
「詳しい話は後! そっちの壁を押し留めといて!」
「……ふむ、かしこまりました」
片方の壁を完全に押し込むまでの時間を稼がないと不味いと判断し、アゼルはブラック隊長を呼び出す。
左の壁を押し留めてもらっている間、ルーンマジックで身体能力を補強し右の壁を片付ける作戦に出た。
「ふぬぬ……おりゃあー!」
「よし、いいぞアゼル! どんどん壁が押し込まれてる! これならいけるぞ!」
「アゼルさま、ファイトですわ!」
隊長を呼んだ時点ですでに左の壁が部屋の中心まで到達してしまっていたが、同時に右の壁はかなり奥まで押し込まれている。
力を込めて押していると、カチッという小さな音が響く。同時に、アゼルを押し返そうとしていた圧力が消え去った。
これで、右の壁は問題なくなったようだ。
「よし、次! 隊長、時間を稼いでくれてありがとうございます!」
「マスターのお役に立てたようで何より……それにしても、この壁は重い……!」
「大丈夫、二人で力を合わせれば……ふんぬっ!」
すでに左の壁は部屋の三分の二を越え、今にもアゼルを押し潰さんとしていた。ブラック隊長に加勢し、アゼルは壁を押し返す。
仲間たちの声援を受け、アゼルたちは少しずつ壁を押していく。右の壁に比べかなり重くなっていたため、全力を込める。
「ぬうりゃあっ! はあ、はあ……やっと、押し戻せたぞ……」
『見事であった。汝の剛力、見届けたり。先へ進まれよ』
十分ほどかけて、ようやくアゼルは左右の壁をあるべき位置へ戻すことが出来た。すると、再び声が部屋に響き、障壁が消える。
「ふいー……疲れて、動けない……」
「ふむ。ならば余が背負ってやろう。リジール、代わりに地図を読め。いいな?」
「は、はい!」
疲労困憊なアゼルを背負い、アーシアはリジールたちを連れ先へ進む。次に待ち構える試練へ向けて。




