214話―天国への門
「……えーと、ソルディオさんがここにいるってことはつまりそういうことですよね? あなたがイスタリアを代表して調査に来た、と」
「うむ! 流石アゼル殿、話が早いな! ハーッハッハッハッ!!」
押し売りたちから買わされた商品がたっぷり入った袋を床に置き、ソルディオは心底愉快そうに大笑いする。相変わらずのテンションに、女性陣は若干引いているようだ。
「お待たせしました~。あら、もう皆さんお揃いのようですね~。わたくし、レンタックギルドのマスターをしているキャスリーンと申します~。以後お見知りおきを~」
そのちょうどすぐ後、ゆったりした黄色いローブを着た女性が入ってきた。服装と同じく、ゆったりした口調で自己紹介を行う。
ギルドマスター、キャスリーンはペコッと一礼し、ダンジョンの調査についての話を切り出した。
「それでは~、早速ですが本題をお話させていただきます~。今回、ゾビア大山脈で見つかった新しいダンジョンなのですが~、かなり手強いようで皆苦戦しているんですよ~」
「苦戦、とはどの程度なのだ?」
「……最初に調査に行ったパーティーは、ギルドの調査員を含め全滅。未だ遺体の回収も出来ていません~。その後に調査に行った人たちも、大怪我が相次ぎまして~」
リリンに問われ、キャスリーンは困ったようにそう口にする。どうやら、アゼルたちが思っていたより厄介なダンジョンのようだ。
「ん? ちょっと待て。どうやって最初の連中が全滅したってのを知ったんだ?」
「調査員に連絡用の魔法石を持たせて、常時やり取りをしていたんですよ~。ダンジョンの六階辺りまでは、なんとか攻略出来ていたようなのですが~……」
「つまり、その先で全滅してしまうほどの何かが起こったということですわね? 一体、何があるのでしょう」
ふと疑問を抱いたシャスティの質問に、キャスリーンは心を痛めた様子で答える。彼女の返答を聞いたアンジェリカは、そう呟き考え込む。
が、そんな中お気楽な者が約二名ほどいた。メレェーナとソルディオである。
「えー、おもしろそー! きっと、奥にはすんごいお宝がいっぱいあるよそれ!」
「ハッハッハッハッ! どんな罠があろうとも、このソルディオがいる限り問題はないな!」
「お前らはちょっと黙ろうな?」
「……はい」
カイルに凄まれ、二人は大人しくなった。とにもかくにも、ダンジョン攻略にあたり気を引き締めた方がよさそうだ。
「実はですね~、調査に失敗して戻ってきた冒険者さんが気になることを言っていたんですよ~。何でも、途中で山脈の向こう側に出る場所があるそうなのですが……」
「なのですが?」
「……見えたそうです。太陽王ギャリオンの紋章が描かれた旗を戴く、大きな都市が」
キャスリーンの言葉を聞き、アゼルとソルディオに激震が走る。もっとも、それぞれ全く違う理由ではあるが。
「な、ななななんと!? それは本当ですかな!? だとすれば……ふおおおお、我が積年の夢がついに、ついに叶うぞ!」
「アゼル、こやつの夢とはなんだ?」
「ギャリオン様のような偉大な太陽になりたいそうです、アーシアさん。ぼくとしては応援していますよ」
「……ふむ。時々、大地の民のことがよく分からなくなるな、余は」
大興奮するソルディオを横目に、アーシアはやれやれとかぶりを振る。後ろに控えるリジールも、困り顔をしていた。
「ダンジョンはかなり階層が多いのですが~、幸い三階までの地図は完成しています~。罠の位置などもあらかた判明しているので、途中までは安全に進めますよ~」
「なるほど、となると……調査を進める上で鬼門になるのは、六階以降ということですね」
アゼルはそう呟き、どうダンジョンを攻略したものかと考え込む。生き残った冒険者の証言が真実なら、このダンジョンを越えねばならない。
山脈の向こう側にある、ギャリオンの都。そこにはほぼ確実に、次の炎片の持ち主がいるはずなのだ。
「多重遭難を避けるため~、皆さんには明日ダンジョンに行ってもらいます~。調査員は……」
「不要だ。ここにコレを置いていく。余計な者を同行させたくないのでね」
「アーシアさん、これは?」
キャスリーンの言葉を遮り、アーシアは懐から小さな水晶玉を取り出し机に置く。アゼルが尋ねると、得意げに話し出した。
「闇の眷属がよく用いる、地図作成のお供アイテムでな。対となる水晶玉を通して、自動で地図を作成してくれる」
「へえ、便利ですねぇ」
「本来は、危険地帯にゴーレムを送り込み安全に地図を作るために用いるのだが……今回は、余たちがその役割をするというわけだ」
「あら、そんな凄いものがあるんですね~」
「まあな。役に立たぬ可能性がある者を連れていくのは、今回ばかりは避けたいのだよ」
アーシアとしては、ムダに同行者を増やしたくはなかった。何が起こるか分からない以上、酷な言い方ではあるが力量を把握していない者は連れていけないのだ。
「本来なら、そこのバケツ頭も同行させたくはないのだが……見たところ、かなり腕が立つようだ。故に、同行を認める」
「ハッハハハ! このソルディオ、足手まといにはならぬ故安心めされい! 俺としても、是非行ってみたいのだ。太陽王が築いた都に」
「行きましょう、皆で。ぼくも、行かなければならない理由がありますから」
ソルディオの言葉に頷き、アゼルはそう口にする。理由は違えど、目指す場所は同じ。ならば、共に力を合わせ道を切り開くのが筋というものだろう。
キャスリーンと別れ、アゼルたちは使節団の者たちに案内され宿へ向かう。翌日のダンジョン攻略に向けて、英気を養うため早めに床に着いた。
◇―――――――――――――――――――――◇
翌日の早朝。アゼルたちは、レンタックギルドの職員が操作する砂上スキー船に乗りゾビア大山脈へと向かう。
一時間ほどかけて、山脈のふもとにある新たなダンジョン……通称『天国への門』の門がある場所へ到着した。
「ここが……。随分と物々しい雰囲気ですね」
「アゼルさん、地図を渡しておきます。私はこれ以上同行出来ませんが、町で無事を祈っています」
「ありがとうございます、職員さん。無事、ダンジョンを踏破してみせますね!」
「皆様、ご武運を!」
職員に見送られ、一行は門へと近付く。古びた石造りの門は開け放たれ、来る者全てを受け入れんと鎮座している。
パーティーを代表して、アゼルが一歩近付いたその時。どこからともなく、物々しい声が聞こえてきた。
『よくぞ来た、王に認められし勇者よ。これより先に待つは、王の都へと至る試練の道。汝、太陽を拝まんとするならば覚悟を示せ』
「!? な、なんだこの声! こんな声がするとか聞いてねえぞ!?」
「試練の道……? もしかして、ぼくが炎片を継いだことを……誰かが、知ってる?」
突然のことに、アゼルたちは困惑してしまう。そんな彼らを他所に、声はさらに続く。
『試練を越えしその先に、汝の望むモノはある。進めよ、今門は開かれたり』
その言葉を最後に、声は途絶えた。静寂が戻り、静まり返るなか改めてアゼルは一歩を踏み出す。門の敷居を跨ぎ、内部へと入る。
「お邪魔しまーす……って、誰もいませんよねきっと」
「よせ、アゼル。そんなことを言って、もし何か来たらどうす」
「ギャギャァーオ!!」
「わ、ホントに来ちゃった!?」
アゼルとリリンがしょうもないやり取りをしていると、薄暗い通路の向こうから雄叫びをあげつつ何かが走ってくる。
近づいてくるにつれ、外の光に照らされて相手の姿があらわになる。叫び声の正体は全身が石で出来た大きな狼であった。
「いきなりお出ましってわけですね。なら! 出でよ、ヘイルブリンガー! てやっ!」
「キャーン!」
意外にもあまり頑丈ではないようで、石の狼は頭をカチ割られ動かなくなった。ホッと一息つくアゼルだが、油断は出来ない。
この程度、挨拶代わりでしかないのだ。通路の先に進めば、さらに厄介な魔物や罠が行く手を阻むことだろう。
「慎重に進みましょう。また不意打ちで敵が出てこないとも限りませんし。いいですね? メレェーナさん」
「はーい!」
「ちゃんと分かってんのかなこいつ……」
元気いっぱいに返事をするメレェーナを見て、シャスティは心配そうにしている。そんなこんなで先に進む一行を、天井の隅に張り付いた石のクモが見ていた。
「……ついに来ましたよ、ジークベルト。彼らが試練を越えられるか……見物させてもらいましょうか」
クモの目を通し、アゼルたちを見ている女王は小さな声で呟く。太陽の都へ至るための試練が、始まりの時を迎えた。




