210話―みんな揃って、お祭りへ
翌日。鎖のケモノの襲撃によって中断されていた豊骨祭が再開され、里に活気が戻る。エルダや巫女たちも、祭を楽しんでいた。
「見て、オルキス。屋台がたくさんあるわ。どこから見て回るか迷ってしまうわね」
「そうね、エスリー。あら、わたあめもあるわ。とっても大きいから、はんぶんこして食べましょう?」
「どーん! ねえねえ、わたしも混ぜて混ぜてー! 一緒に回ろうよー!」
「あら、ニア。ふふ、いいわよ。私とエスリーと一緒に、いろいろ見て回りましょう」
「わーい! やったー!」
エスリーとオルキスは、屋台を回り食べ歩きを楽しむ。そこにニアが突撃し、三人で仲良く祭を堪能していた。
「ふむ……この里の文化、実に興味深い。シーラ、お前もよく勉強しておくといい」
「ちょっとちょっと、ジェルマ。こんな楽しいお祭りの最中に、そんなかたっくるしいこと言わないでくれる? ほら、あっちでショーやってるわ。見に行きましょ」
「おい、こらちょっと! 引っ張るんじゃない、まったくもう」
どんな時でも勤勉で生真面目なジェルマに呆れつつも、シーラは楽しそうに彼女を引っ張り回す。崖の一角で、アーシアとポルベレフがアートショーをしているようだ。
「さあ、お集まりのちびっこの諸君。余とポルベレフのバルーンアートショーへようこそ。存分に楽しんでいってくれたまえよ」
「んんん~、滾るクリエイティブ魂~!!! パッショ~~~ン!!!」
アーシアは膨らませた風船を器用にねじり、あっという間にケルベロスを作ってみせた。ポルベレフの方は、何かよく分からないモノを作っている。
「わー、いぬさんだー!」
「おじさん、これなにー?」
「んふっふ、聞いて驚くがいい良い子たち! これは蛇だ!」
「えー、ぜんぜんそうみえなーい」
「オゥノゥ……」
二人ともすっかり里の雰囲気に馴染み、溶け込んでいるようだ。その頃、闘技場ではトーナメントの続きが行われていた。
準決勝第二試合が終わり、前大会優勝者ベクターが決勝へ駒を進めた。観客たちの期待通り、アゼルとの一騎討ちが行われる。
「みなさーん、お待たせしましたー! 豊骨祭恒例の武闘大会、いよいよ決勝戦でーす! 実況と解説はお馴染み私、ミーナと!」
「里長……の、代わりにこの私ロデアが行うよ。皆、よろしく」
観戦席には大勢の客が詰めかけ、ぎゅうぎゅう詰めの様相を呈している。そんななか、観戦席の一角から騒がしい声が聞こえてくる。
「ふれー、ふれー、アゼルさま! ハイ! ふれーふれーアゼルさま! ふれーふれーアゼルさまー! ちょっと、リリン先輩にフェルゼ先輩。声が小さいですわよ」
「……確かに、アゼルの応援はすると言ったさ。言ったがな、なんでこんなフリフリでギリギリなチア服など着なければならんのだ! こっぱずかしいわ!」
観戦席の真ん中に陣取り、アンジェリカを筆頭としたアゼルの応援団が集結していた。全員が、お揃いのチア衣装を着て。
……が、この衣装アンジェリカの趣味全開で作られている。スカートが短いわ、脇腹や胸元に謎のスリットが入っているわとやりたい放題だった。
「ぐうう……は、恥ずかしすぎる。いい歳してこんな……破廉恥なモノを……」
「しゃあねーよ、諦めろフェルゼの姐さん。今のアンジェリカはもう止められねえ」
「えー、こんな可愛いのにー。ねー、リジールちゃん」
「はい。すっかり気に入っちゃいました。……こんな仮面を外せれば、もっといいんですけどね」
周囲から好奇の視線に晒されたフェルゼは、腕で身体を隠しながら羞恥に震えていた。一方のシャスティは割り切っているようだ。
メレェーナとリジールはかなりノリノリなようで、ポンポンを持ってはしゃいでいる。そんななか、ついに決勝戦の準備が整った。
「それでは皆さま、たいへん長らくお待たせしましたぁ! 決勝戦、はじめましょー!」
「うおおおおおおお!!」
観客たちが沸き立つなか、決勝戦へ駒を進めた二人の猛者が姿を現す。最初に入場したのは、ベクターの方だ。
「赤コーナー、前大会チャンプベクター! 英雄アゼルを打ち倒し、チャンプの座を守り抜けるのか注目です!」
「私としては、そろそろ負けてほしいところだけどもね」
ミーナが選手紹介をする傍ら、さらっとロデアが毒を吐く。会場が沸き立つなか、続いてアゼルが入場するのだが……。
「続いて青コーナー! アゼルせんし……おおっとぉーー!? これはまさかの事態! アゼル選手、セコンドを二人伴っての入場です!」
「みなさーん、こんにちはー」
「賑やかなものだ。うむ、よきよき」
なんと、アゼルの両隣にジェリドとエルダが立っていたのだ。予想外のゲストの登場に、観客たち……その中でも、リリンとフェルゼは仰天してしまう。
「ななななな!? エルダ様、何をしていらっしゃるのだ!? いや、姿が見えないとは思っていたが……」
「これはまずい……まずいぞリリン。こんな姿をエルダ様に見られてみろ。未来永劫、からかわれるネタにされるぞ。今のうちに逃げ」
「リリーン、フェルゼー。その服、とっても似合ってますよー!」
「ぐはあっ!」
姉妹は逃走を目論んだものの、あっさりエルダに見つかり声をかけられた。二人は吐血し、その場に倒れ込んでしまう。
生涯残る汚点が追加された瞬間であった。
「やあ、アゼルくん。ずいぶんと派手な登場だね、流石の僕も驚いたよ」
「ぼくも驚きですよ。二人揃ってサプライズがしたいなんて言い出したものですから」
「はは、いいことさ。こういう嬉しい驚きはね」
外野の盛り上がりを他所に、アゼルとベクターは互いに笑いあう。ジェリドたちは闘場の外に降り、間近で二人の戦いを見守る。
「アゼルよ、私たちの前だからと肩肘張る必要はないぞ。いつものように、リラックスして戦ってくれ」
「アゼルくんの奮戦っぷりは、この水晶でバッチリ録画しておくわ。さ、頑張って」
「ど、どうも……」
まるで孫の運動会を見にきた祖父母のような対応をする二人に、アゼルは苦笑いしてしまう。そんななか、試合開始を告げる銅鑼の音が鳴り響く。
武闘大会決の勝戦戦が、ついに始まるのだ。歓声の中、ミーナの声が響き渡る。
「それでは、決勝戦……はじめ!」
「先手必勝だ! サモン・スカルスコーピオン! さあ、共に踊ろうじゃないか。優雅なる舞いをね!」
試合開始直後、ベクターは早速巨大な骨のサソリを呼び出す。背中に飛び乗り、アゼルへ爪を用いた攻撃を行う。
後ろに飛んで攻撃を避けたアゼルは、ヘイルブリンガーを呼び出しつつ覇骸装を変化させる。真正面からガチンコでぶつかるつもりだ。
「チェンジ、重骸装モード! 最初から本気でいかせてもらいますよ、ベクターさん。ソウルルーン、ベルセルクモード!」
「はは、いいね。そうこなくっちゃ面白くない。こっちもいかせてもらう! 戦技、スコーピオンハンマー!」
「さあ、始まりました! 試合開始早々、真正面からのぶつかり合いです! 迫力ある戦いに、皆のテンションも爆上がりしてますよ!」
大斧とサソリの爪がぶつかり合い、激しい戦いが行われる。観客たちの声援が送られ、会場の熱気はさらに加速していく。
「なかなか……やるね! なら、これはどうだい? 戦技、テールインパクト!」
「来る……なら、受け止めます!」
「ふっ、そうくると思ったよ。今だ! 戦技、ポイズンニードル!」
無事再生した両の足に力を込め、アゼルは真上から振り下ろされる尾を盾で受け止めた。直後、ベクターはニヤリと笑う。
サソリの尾に秘められた毒針が隆起し、アゼルに襲いかかろうとする。そのまま針を突き刺そうとするも、予想外の事態が起こった。
「なんと! アゼル選手、斧を捨て毒針を掴んで止めました!」
「へえ、凄いパワーだ。さっき使った魔法のおかげかな? 便利なものだね」
ミーナとロデアが解説した通り、アゼルはヘイルブリンガーを捨て左手で毒針を掴んで攻撃を阻止した。さらに力を込め、針を握り砕く。
「ふんっ!」
「!? バカな、ポイズンニードルが!」
「さあ、このまま一気にトドメを刺させてもらいますよ! うおりゃあっ!」
「うおああっ!?」
「あーっと、これは凄い! アゼル選手、スカルスコーピオンを上空へぶん投げたー!」
ルーンマジックにより強化された身体能力に任せ、アゼルはベクターをサソリごと空高く放り投げる。ヘイルブリンガーを拾い、少し遅れて自分も跳ぶ。
「これで終わりです! 戦技、ブリザードブレイド!」
「まだだ! 戦技、スコーピオンハンマー!」
「うう……りゃー!」
「そんな、バカな……」
空中にて最後の一撃が激突し……見事、アゼルが打ち勝った。サソリの爪が砕け、身体が両断される。そのまま床に落下し、ベクターは倒れ付した。
「む、無念……」
「試合終了ー! 決勝戦を制したのは、新進気鋭の英雄アゼル選手だー!」
試合終了を告げる銅鑼が鳴り、観客たちは歓声をあげる。着地したアゼルは、観客たちに手を振りつつジェリドとエルダの方を見る。
二人とも、嬉しそうに笑いながら拍手を送っていた。アゼルはニッと笑い、ヘイルブリンガーを頭上に掲げる。
「ぼくの、勝ちー!」
晴れやかな青空に、少年の声がこだました。




