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208話―魔導都市の夜明け

「こ、降参って……どういうことなんですか」


「ワタシはもう、あんな一方的に消し炭にされるのはノゥ! なんですぅ~! 何でもするから、許してちょうだ~い!!」


 ペコペコ土下座しつつ、何とも情けないことをのたまうポルベレフ。ここまでするほど、アゼルの所業がトラウマとして刻まれたようだ。


 エルダたちは特に関わろうとする意思を見せず、処断をアゼルに一任することにしたらしい。困り顔で頬を掻きつつ、とりあえずアゼルは尋ねた。


「……まあ、特に何かされたわけではないので別にいいですけど。そっちは大丈夫なんですか? そんなほいほい主を裏切って」


「ん~っふ、そこは問題ナッシン! ラ・グーはワタシの金づる(パトロン)の一人でしかない……それも金払いのわる~い方の。故に、手を切っても大丈夫」


「はあ……」


「よくよく考えてみ~れば、暗域でなくとも絵は描ける! この風光明媚な大地の絵を描くのも、んビューティホー! というわけなのであ~る」


 どうやら、今回の騒動を期に完全に所属勢力を鞍替えするつもりでいるようだ。とはいえ、アゼルたちはポルベレフのパトロンになるつもりはない。


「まあ、構わんが。だが、どうやって生活するつもりだ? 言っておくが、アゼルも私たちもお前の面倒を見るつもりはないぞ」


「ん~っふ、ノープロブレム! 一ついい()()があ~る。自分の食い扶持は自分で稼げるのだ!」


「ツテ、ですか?」


 アゼルとリリンが首を傾げていると、空から黒い光の柱がすぐそばに降り注ぐ。何事かとぎょっとしていると、柱の中から二人の人物が現れた。


 召集を受けて暗域に帰っていたアーシアとリジールが、用事を片付けて戻ってきたようだ。


「遅くなって済まない、アゼル。こちらの用事は片付……ん? ポルベレフ、貴殿が何故ここにいる」


「お~、我が心の友アーシア! 喜ばしきさいか……ほぐっ!」


「いきなり寄るな、無礼者め!」


 喜び勇んで抱き着こうとするポルベレフだったが、アーシアの無慈悲な顔面蹴りを食らい吹っ飛んでいった。突然のことに、リジールはおろおろしている。


 エルダたちも、次から次へと闇の眷属が現れる状況に着いていけず困惑していた。一応、アーシアたちが敵でないことは理解しているようだ。


「やれやれ、今日は騒がしい日ね。ようやく自由になれたと思ったら、闇の眷属がいっぱい。アゼルくんのお友達は、個性的なのね」


「アーシアさんはともかく、あっちの生ゴミ(ポルベレフ)は友達じゃないです……」


「アゼルよ、済まないが一部始終を聞かせてはくれまいか。まあ、ポルベレフがここにいる理由は何となく分かるが」


 くすくす笑うエルダに、アゼルはため息をつきながら答える。直後、アーシアにそう言われ、これまでの出来事を語って聞かせる。


「ふむ、なるほど。ポルベレフめ、今度はラ・グーに取り入っていたのか。全く、節操のない奴だ」


「お二人は知り合いなんですか?」


「ああ。奴は遥か昔、我が父の弟子だった。いろいろと芸術を学んでいたようだが、絵画以外はからっきしでな。百年ほど学んだあと、一人立ちしていったよ」


「意外なところで繋がりがあるんだな、お前たちは」


 肩を竦めながらリリンが呟くと、アーシアもやれやれとかぶりを振る。のたうち回っているポルベレフを見ながら、話を続けた。


「奴は魔の貴族の中でも中堅どころでな。手っ取り早く大魔公(デュークス)に昇格しようと、ラ・グーのところに行ったのだろう。で、結果がこれと」


「イエ~ス! でも、もうやめた。ワタシはこの大地で生きることに決~めた、のだ! そこでアーシア、頼みがあ」


「新しいパトロンが見つかるまで世話しろと言うのだろう? 断る。断じて承諾しない。何故余が貴殿の面倒を見なければならぬのだ」


 現実は無情である。ツテことアーシアに世話を頼もうとしたポルベレフの目論見は、見事粉砕されることとなった。


 絶望の表情を浮かべ、ポルベレフは地面に倒れ込む。よほどショックだったのか、すっかり落ち込んでしまっていた。


「ノゥ……ノゥ……。しくしく……ワタシはこれからどう生きればよいのでしょ~うか……」


「……はあ、仕方ないですね。とりあえず、フリグラの谷には連れてってあげます。復興のために、猫の手も借りたい状況でしょうし。しばらく世話してくれるように里長に頼みますから、後は自分でなんとかしてください」


「おおおお~!! サンクス! サンクス! ボーイはワタシのメシアだ! 命の恩人だぁ~!!」


 流石に哀れになってきたアゼルは、ため息をつきながらそう口にする。いくら敵とはいえ、このまま野垂れ死にでもされると目覚めが悪い。


 というより、このまま放置して面倒な事態になるのは嫌だという考えもあった。もちろん、タダで助けるつもりは微塵もない。


「ただし! ラ・グーの情報を話してもらいますよ。一応は部下だったんですから、知ってますよね? ラ・グーの軍勢の内情くらいは」


「おぅイエス、おぅイエス! もちろん知っているとも! 城の間取りから茶菓子の好みまで何でも聞いてちょうだ~い!」


 何はともあれ、全てのカタが着いた。これ以上メリトヘリヴンに留まる理由もないため、アゼルたちはフリグラの谷へ戻ることにした。


 アゼルは地面に座り、疲れた身体を癒す。切り落とした左足の違和感にむず痒さを感じていると、エルダが近付いて来る。


「アゼルくん、街を覆う結界は全て解除しました。これで滞りなく外へ行けますよ」


「ありがとうございます、エルダさん。それじゃ試しに……サモン・ボーンバード!」


 リリンたちが支度をしている間、アゼルは問題なくスケルトンを召喚出来るか試す。無事ボーンバードを三体召喚出来たアゼルは、ほっと胸を撫で下ろした。


「よかった、これでスムーズに帰還出来ます」


「ふふ、これで安心ね。……アゼルくん。本当にありがとう。あなたのおかげで、私たちは千年の苦しみから解き放たれたわ。勿論、この街の住民たちも……」


 エルダはそう言うと、後ろを振り向く。かつて行った実験の失敗により、メリトヘリヴンの住民たちは鎖のケモノになってしまった。


 苗床の消滅により、彼らの魂はようやく安らかな眠りに着くことが出来る。エルダはそう思いたかった。


「アゼルくん。あなたにこれを授けるわ。かつて、我が友ギャリオンから譲り受けた……縛姫の炎片を」


 そう言うと、エルダは胸の前に両面をかざす。すると、黒色の炎が現れゆらゆらと揺れ始めた。生命の炎の欠片が、次代を担う者へと継承される。


「過ちを犯してしまった私には、もう王たる資格はありません。凍骨の炎片を継いだあなたに、私も託します。これまで紡いできた、過去の全てを。そして、まだ誰も知らない未来を」


「……はい。ぼくは改めてあなたに誓います。この大地のために、新たな炎片の守り人として生きることを。それが、ぼくの生きる道だから」


 アゼルはヘイルブリンガーを呼び出し、松葉杖の代わりにして立ち上がる。手を伸ばし、エルダから炎片を受け取った。


 ジェリドに続き、アゼルはエルダからも大いなる意思を引き継いだ。これで、集まった炎片は二つ。着実に、先へ進んでいる。


「アゼル、エルダ様! こっちはみんな支度が出来ました。いつでも出発出来ます」


「ええ。では行きましょうか。さ、アゼルくん。今度は私がおんぶしてあげる。片足では辛いでしょう?」


「ありがとうございます、エルダさん。落ち着いたら、足の治療もしないとですね」


「なら、私たちが手を貸すわ。こう見えて、治癒の魔法は皆得意だから」


 数人ずつ別れてボーンバードに乗り込んだアゼルたちは、メリトヘリヴンを後にする。大穴を抜け、一行は空へ飛び立つ。


「……さようなら、メリトヘリヴン。いつか……また、戻ってくるからね」


 遠ざかっていく故郷を振り返り、エルダはそう呟く。悲劇の果てに水底へと消えた都は、呪縛から解き放たれた。


 いつの日か、エルダたちの手で在りし日の姿へと生まれ変わるだろう。そう遠くない、未来で。

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― 新着の感想 ―
[一言] あのグランザームの弟子だったのか?!(ʘᗩʘ’) あの御人も色々多芸多趣味なお方だったからな(‾▿‾)~ まずは腰を落ち着かせて尋問といこうか(ಠ_ʖಠ) カツ丼の出前を頼まなければ(ಠ∀…
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