188話―惨劇を呼ぶケモノ
フリグラの里を、惨劇が見舞う。楽しい祭が一転、鎖のケモノたちによる殺戮ショーへと変わった。
「子どもたちを避難させろ! 最終防衛ラインを突破させるな!」
「クソッ、なんなんだこいつらは!? 倒しても倒してもすぐ起き上がってきやがる! しかも、食い殺した奴らを仲間に……ぐああっ!!」
谷のあちこちで、ネクロマンサーたちとケモノの群れが戦いを繰り広げている。スケルトンを駆使し、ケモノを倒していくが状況は変わらない。
例え倒しても何事もなかったかのように復活してしまい、谷底に落としてもすぐに戻ってきてしまう。それに加え、死んだ者はケモノに変えられる。
少しずつではあるが、確実に――事態は悪化の一途をたどっていた。だが、そんな地獄のような現状を打破するべく戦う者がいる。アゼルだ。
「オ前、喰ウ!骨ノ髄マデ、全テヲ!」
「そうはさせません。これ以上、好きにはさせない! ブラック隊長、皆でそいつを囲んで!」
「承知。お前たち、行くぞ!」
獅子のような頭を持つ鎖のケモノを倒すべく、アゼルはスケルトンを用い戦いを挑む。アンジェリカやロデアたちは、他のケモノが入ってこないよう後ろを守る。
「アゼルさま、他のケモノはわたくしたちが食い止めますわ! 後ろは気にせず、全力で戦ってくださいませ!」
「ありがとうございます、アンジェリカさん。さあ、やりますよ。チェンジ、射骸装モード! 戦技、ボーンネイトアロー!」
アゼルはブラック隊長たちを壁として、ケモノの攻撃範囲の外から矢を撃ち込む。ケモノは暴れ、スケルトンたちを薙ぎ倒す。
だが、命を持たぬ魔力の産物だからか、スケルトンをケモノへ作り替えることは出来ないようだ。当のケモノ自身も、そのことに困惑している。
「何故ダ? 何故同胞ニ出来ヌ?」
「隊長、今です! 総攻撃で沈めますよ! 戦技、トライボーンシューター!」
「承知。全員、かかれ!」
ケモノの動きが鈍った隙を突き、アゼルはブラックたちに指示を出し一斉攻撃を行う。三本の矢と複数の刃が、ケモノを貫き切り裂く。
「グヌ、オ、オォ……。マズイ、一度逃ゲネバ」
「!? あいつ、背中に翼が!」
「おっと、そうはいかないなぁ。不埒な侵入者には、消えてもらわないとね! 戦技、スコーピオンハンマー!」
追い詰められたケモノは、背中を構成する鎖をほぐして形を変え翼を作り出す。空を飛んで逃げようとするも、そうは問屋が卸さない。
ベクターが巨大な骨のサソリを呼び出し、頑強なハサミでケモノを捕まえた。そのまま地面に叩き落としつつ、もう片方のハサミで押し潰す。
「ベクターさん! ありがとうございます、助かりました」
「なぁに、気にすることはない。君たちはあの高台にある倉へ。あそこに戦えない者たちが避難しているだろう、彼らを守ってあげてくれ。このケモノは、僕たちが抑えるから」
「分かりました。アンジェリカさん、行きましょう!」
「かしこまりましたわ!」
今しがた叩き潰されたばかりだというのに、既に復活の兆しを見せているケモノの相手をベクターたちに任せ、アゼルとアンジェリカは倉へ向かう。
ボーンバードを呼び出し、ブラック隊長らを連れて高台にある大きな倉へとひとっ飛びする。
「あわわわ、あちこちから火の手が……里長、わたしたちはどうすれば!?」
「お前はわしと来い。倉は彼らに任せ、我らは他の者らの応援に向かう。……戦局がいい方向に傾けばよいのじゃが」
観戦席にいた者たちの手当てと脱出の手伝いをしていたメリムルとミーナは、倉の防衛のをアゼルたちに任せ外に向かう。
里のあちこちで、ケモノたちが暴れまわっている。相手を全滅させなければ、自分たちが滅びてしまう。それだけは、避けなければならない。
「ゆくぞ、ミーナ。例えわしの命に代えようとも、この里を……皆を守り抜くぞ!」
「は、はぃぃぃ!!」
そう口にした後、メリムルは闘技場の外へ出た。
◇―――――――――――――――――――――◇
その頃、倉の前では防衛戦が繰り広げられていた。八人のネクロマンサーとシャスティ、そしてラスカーの十人がケモノたちと激闘を繰り広げる。
「戦技、ホームランインパクト! ……ッチ、吹っ飛ばしても全然数が減らねえな!」
「……奇妙ですな。このケモノどもから、微かにではありますが生命の炎の匂いを感じる。こやつら、どこから生まれたのだ……?」
小ぶりなメイスを振り回してケモノの頭を粉砕しつつ、ラスカーは疑問を口にする。その時、新手のケモノたちが防衛を突破しようと突進してきた。
「気を付けろ、そっちに行ったぞ!」
「やれやれ、思考に気を回す暇もありませんな。この中にはジェリド様もおられる。決して通しはせぬ。壊骸奥義……テンペストインブレッサ!」
新たに現れたケモノは五体。ラスカーは目にも止まらぬ速度で接近し、メイスでケモノたちの頭を粉砕していく。
蹴散らされたケモノらは後ろへ下がり、破損箇所を再生させる。ひとまず、最悪の事態は何とか避けられたようだ。
「やるじゃねえか! さっすが、王の側近なだけはあるな!」
「この程度の相手、目を瞑っていても対応出来……む、この気配は」
「みなさーん! ここからはぼくたちも加勢しますよー!」
「アゼル! よっしゃ、これでもう勝ったも同然だなおい!」
そこへ、アゼルとアンジェリカが到着する。追加も含めケモノは十二体、ネクロマンサーたちも十二人。これで、数は互角となった。
彼らが使役するスケルトンも合わせれば、実際にはアゼルたちが優勢となる。……はずだった。
「アイツダ、ワレヲクルシメタノハ」
「アイツダ、アイツダ。デモ、モウ安心。全部、学ンダ」
「なんですの? あのケモノたち……ちょ、ちょっと!? 合体しましたわよ!?」
十二体のうち、ラスカーにやられた個体を除く七体が一つに集まり融合した。獅子の頭と人の身体を持つ、異形の姿へと変じる。
「大きい……ざっと見て、六メートルほどありそうですね。でも、だからって退けません! ブラック隊長、お願いします!」
「承知。皆、突撃するぞ!」
ブラック隊長はスケルトンたちを率い、ボーンバードから飛び降りる。そのまま獅子頭の巨大ケモノに攻撃しようとする、が。
「ムダダ。我ラハ意識ヲ共有シテイル。貴様ラノ能力ナド、既ニ把握済ミヨ」
「なっ……ぐおっ!?」
「隊長!」
巨大ケモノは大きな手であっさりとブラックらを捕らえ、そのまま握り潰してしまう。そのまま腕を伸ばし、今度はアゼルたちに襲いかかる。
「次ハ貴様ラダ!」
「そうはいか……うわっ!?」
「きゃああ!」
振り下ろされた腕そのものは避けられたものの、途中で腕の一部がバラけ数本の鎖が鞭のように襲ってくる。アゼルとアンジェリカは、ボーンバードの背中から叩き落とされてしまう。
「まずい! ハッ!」
「オ前タチ、今ダ! 総攻撃ヲ仕掛ケヨ!」
「やべえ、来るぞ!」
ラスカーがアゼルたちの救出に向かった隙に、残りのケモノたちが攻め込んでくる。シャスティやネクロマンサーたちが応戦するも、押し返すには至らない。
「すいません、ラスカーさん。早くぼくらも加勢に」
「サセヌワ! 貴様ラモ、我ラの一員トナレ!」
「くっ! ガードルーン、イジスガーディアン!」
加勢を阻止するべく、ケモノは片腕を分解して大量の鎖の雨を降り注がせる。かろうじてバリアの展開が間に合ったが、その場から動けなくなってしまう。
このままでは、シャスティたちが危ない。今はギリギリ互角の状況を保っているが、新たなケモノが現れれば終わりだ。
「このままじゃ、みんなやられちゃう。一体どうしたら……」
「フフハハハ!! 皆滅ビル! 我ラノ手デ、鎖ヘト変ワ……」
「闇縛魔法……ディバイン・フィルギード!」
巨大ケモノは勝ち誇り、高笑いをする。打つ手なしかと思われたその時……天空から、二人の女性の声が里全体に響き渡る。
直後、七色に輝く巨大な光の輪が降り注ぎ谷そのものを包み込む。すると、各所で暴れているケモノたちに異変が起こった。
「グ、オォオオァ……チ、力ガ……抜ケテ、イク……」
「こ、これは……!? 一体、何が……」
「やれやれ、ようやく追い付けたか。ケモノどもめ、派手に暴れてくれおって」
ケモノたちの力が弱まり、動きが鈍る。何が起こったのか理解出来ずにいるアゼルの元に、頼もしき仲間の声が届く。
青空からゆっくりと降り立ったのは……両腕に化薬鎖を巻き付けたリリンだった。
「リリンお姉ちゃん!? どうしてここに!?」
「詳しい話は後だ、アゼル。今は……このケモノどもを駆除するぞ」
闇を縛り封じる巫女が、戦場に奇跡をもたらそうとしていた。




