185話―豊骨祭、始まる
豊骨祭が始まり、フリグラの谷に活気が満ちる。あちこちに建てられた露店から、美味しそうな匂いが漂ってきた。
「んー、美味い! 肉厚でジューシーだな、この串焼き。こいつを肴に酒を一杯……くぅー、キくぅー!」
「おー、いい飲みっぷりだね姉ちゃん。ほら、もっと飲みな」
「おし、どんどん持ってこい! エールだろうがワインだろうが、全部飲み干してやるぜ!」
「よーし、なら飲み比べといこうじゃねえか! お前ら、やるぞ!」
「おう!」
開始早々、シャスティは露店を渡り歩き酒をかっ食らっていた。里に伝わる秘伝の麦酒、『コーネイ・ルーロウ』に舌鼓を打つ。
彼女を中心に、飲み比べ合戦が始まる。大量の酒樽が運び込まれ、やんのやんのと野次馬たちが集って囃し立てていた。
「皆、楽しそうだ。どれ、私も混ざってくるとしようかな。千年ぶりの贅沢を味わうとしよう」
「では、私もお供しましょう。杖代わりにはなりますので」
「済まぬな、ラスカー。では、まずあそこから……」
最大の賓客たるジェリドも、ラスカーを連れて谷を巡る。コウモリ型のスケルトンを用いた射的や、スリル満点のバンジージャンプを楽しむ。
そんな中、谷の中央広場ではある催しが行われていた。豊骨祭最大の目玉、ネクロマンサーたちによるガチンコバトルだ。
「さあさあ、お集まりの皆様! 今年の豊骨祭でも、熱い戦いが始まるぞ! 我こそはと思わん者は、奮って参加なされぃ! 優勝すれば、豪華景品が出るぞぉぉ!」
「あら、楽しそうですわねアゼルさま。どうでしょう、参加してみては?」
参加意欲を煽る口上を聞き、アンジェリカはアゼルに提案する。名だたる猛者たちとの交流の議会になるだろうと、アゼルは頷く。
「そうですね、ここは一つぼくも参加してみます」
「では、早速エントリーしましょう。アゼルさまならば、優勝なんてお茶の子さいさいですわ!」
「だといいんですけどね……。何人か、かなりの手練れがいるようです」
そう呟き、アゼルは大会にエントリーしているネクロマンサーたちの中でも厄介そうな者たちを頭の中でリストアップする。
自身を含めた十六人のうち、二人。ただならぬ雰囲気を纏うネクロマンサーがいた。強者の気配を感じ取り、アゼルは武者震いする。
「とても楽しみですね。どんな戦いになるのか……とっても。ふふっ」
不敵な呟きを口にした後、アゼルはエントリーを行う。ウワサの英雄の電撃参戦に、観戦しに集まっていたネクロマンサーたちの間にどよめきが広がる。
「おい、聞いたか!? 今年の大会、あのジェリド王の末裔が参加するらしいぞ!」
「マジか! そりゃ見ねえわけにいかねえな! 英雄さんのスケルトン捌き、勉強させてもらわねえと!」
アゼル出場の話はあっという間に広がり、観戦席に大量の観客が詰めかける事態となった。大会が始まる時間となり、選手紹介が行われる。
「お集まりのみなさーん、お待たせいたしましたー! 豊骨祭名物、スカルトーナメントの始まりでーす! 司会はわたくし実況のミーナとー!」
「里長のメリムルじゃ。わしはいつも通り、解説をさせてもらうぞ」
「さーて、それでは早速! 大会にエントリーした勇敢なネクロマンサーたちをご紹介しましょー! まず一人目、前大会の優勝者。8年連続でチャンプの座に輝くこの男、ベクター・グライドー!」
司会進行を担当する女ネクロマンサーの口上に合わせ、一人の男が前に進み出る。キザったらしい銀色のロングコートとテンガロンハットを身に付けた、なかなかハンサムな男だ。
「巨大なサソリ型スケルトンを操る、我らがトップオブ・ザ・ネクロマンサー! 果たして、今年もチャンプの座を守り抜けるのか!? 刮目せよー!」
「フッ。今年の優勝も僕のもの……とは、一概には言えないな。例の英雄……なかなか面白そうだ」
手を振って歓声に応えつつ、ベクターはチラッと後ろを見る。他の参加者たちと一緒に並んでいるアゼルを見て、闘志を燃やす。
「それでは二人目! 三年連続で準優勝の座に輝くクールビューティー! 今年こそ雪辱を果たせるのか!? ロデア・ザ・エクスパンション!」
「……大仰なあだ名だ。そんなもの、必要ないのに」
続いて前に進みでたのは、スラリとした手足が特徴的な美女だった。長い茶髪をなびかせ、優雅に歩いていく。
かなり大規模なファンクラブがあるのか、観戦席の一角から男たちの熱いエールが送られてくる。
「ロデア選手は我ら操骨派の中でも、特異なスケルトンの活用をすることで有名です! 必殺の骨殻拡張戦法が、唸りをあげるぞー!」
「……全く、本当に大仰な名前だ。煩わしい……」
テンション爆発のミーナや観客とは対照的に、ロデアはやれやれと言わんばかりにかぶりを振る。その直後、彼女も後ろを向きアゼルに意味深な視線を向けた。
その後も選手紹介が続き、最後の一人……アゼルの番が来た。会場が静寂に包まれ、皆固唾を飲んでアゼルの紹介を待つ。
「それでは皆様、お待たせしました。本大会、最大最強のスペシャルゲスト。その名を知らない者は誰もいない、現代の英雄……アゼルの登場だー!」
「よし、いきます!」
観客たちを喜ばせようと、アゼルはアクロバティックな連続宙返りを披露し前に出る。観客たちのボルテージは最高潮に高まり、熱気が会場を支配する。
「ガルファランの牙や、数多の闇霊を退けてきた英雄のエントリーだ! その実力は未知数、今回最大のダークホース! 初参戦で見事、優勝をかっさらっていくのか……注目だー!」
「よーし、優勝目指して頑張ります! えい、えい、おー!」
グッと握った拳を突き上げ、アゼルは気合いたっぷりに熱意を燃やす。その姿がウケたのか、観戦席のあちこちから黄色い悲鳴があがる。
「きゃー、かわいいー!」
「あんな力いっぱい腕を突き上げて……ああ、私何か目覚めちゃいそう……」
どうやら、早速大量のファンを獲得したようだ。選手紹介の後、戦う組み合わせを決めるための抽選が行われる。
その結果、アゼルが上手く勝ち進めば準決勝でロデアと、決勝でベクターと戦うことが決まった。ついでに、一回戦のトップバッターにもなった。
「いきなりぼくの試合ですか……うう、ちょっと緊張しますね」
アゼルと対戦相手を除き、他の選手たちは闘技場の外にある控えの間に降りる。そこから他の試合を観戦するのだ。
「それでは皆様、早速初めていきましょー! 一回戦第一試合、両選手にゅーじょーでーす!」
「うむ。この試合、見物じゃな。例の英雄の力、見せてもらおうかの」
「アゼルさまー! 頑張ってくださいませー!」
期待に満ちた多数の視線を向けられるなか、アンジェリカからエールが送られる。おかげで緊張が解れ、アゼルの心に余裕が出来た。
「青コーナー、アゼル! 赤コーナー、サコ・カマーセー! 両者による熱い戦いが始まります! ルールは無用、相手のスケルトンを全滅させるか降参させた方の勝ち! ではメリムル様、試合開始のコールを!」
「よかろう。一回戦第一試合……はじめ!」
メリムルの声と共に大銅鑼が鳴らされ、試合が始まった。対戦相手の男は、早速鎧を着たスケルトンを呼び出す。
「先手必勝だ! 行け、アーマードスケルトン!」
「なるほど、ではこっちも……ブラック隊長、出番です!」
のたのた突進してくるスケルトンの攻撃をかわした後、アゼルはブラック隊長を呼び出した。情け容赦や忖度など一切ない。
優勝目指して、アゼルは全力投球なのだ。
「……ブラック、推参しました」
「おおお!? これはいきなりサプライズ! 世にも珍しい喋るスケルトンですよ皆さん! 流石英雄、私たちには出来ないこともあっさりやってのけちゃいました!」
「ほう、面白いのう。どれだけの魔力を用いれば、あれだけ理性的なスケルトンが作れるのか……ふぉふぉ、開幕早々、いいものが見られたわい」
喋るスケルトンの登場に、会場が沸き立つ。ブラック隊長は剣を引き抜き、相手のスケルトンを見据えながら構える。
「マスター、あのスケルトンを倒せばよいのですね?」
「うん、お願いします。とりあえず、一回戦は隊長にお任せしますね」
「心得ました。このブラック、マスターの期待に応えてみせましょう!」
主に恥をかかせてはならぬと、ブラック隊長は気合いを入れる。目にも停まらない速さでサコ操るスケルトンに接近した。
「!? は、はえぇ! アーマードスケルトン、防御し」
「遅い。塵も残さず斬り捨ててくれよう!」
慌てて指示を出すサコであったが、何もかも遅すぎた。神速の剣技によって、哀れスケルトンはバラバラに切り刻まれ消滅してしまう。
あまりの速さと無慈悲に、サコはあっさりと戦意喪失してしまった。自慢のスケルトンを秒殺されたのがだいぶショックだったらしい。
「こ……こんなの、勝てねえよ。俺、降参するわ……」
「なんとー!? まさかまさかの、サコ選手降参! 決着までの最短記録が更新されてしまったー! アゼル選手、つよーい!」
秒での決着に、観客たちは歓声をあげる。アゼルとブラック隊長の強さを目の当たりにし、改めて認識したのだ。
何度も大地を救ってきた『英雄』の、実力を。
「へえ。予想以上に強いね、あの子。これは、僕も油断出来ないね」
「……いいね。強くて可愛い……うん、素晴らしい。私も負けていられないな」
試合を観戦していたベクターとロデアは、そう呟く。祭はまだ、始まったばかりだ。




