173話―ジェリドの宮殿へ
「それっ、ターン・ライフ!」
「ふうー、助かった。わりぃなアゼル、手間かけたわ」
凍骨の迷宮、第六階層。無事ジュデンの試練を突破したアゼルたちは、迷宮の中でも屈指の危険地帯を突破しようとしていた。
両肩に巨大な車輪を装着したスケルトン……通称『スカルチャリオット』がたむろするエリアがある。そこを抜けなければ、ジェリドの宮殿には到達出来ない。
「ほう、これが死者を蘇生させる神の奇跡か。流石の余も、この目で見るのは初めてだ」
「結構便利なんだぜ、これ。さっきみたいに七連続で轢かれても生き返れるしな! はっはっは!」
「いや、轢かれるのは勘弁願いたいね」
つい先ほど、アゼルが止めたのにも関わらずシャスティは先陣を切ってスカルチャリオット地帯に突入していった。その結果、岩影に潜んでいた敵にはねられた。
それだけで終わらず、空中に吹っ飛ばされたシャスティにスカルチャリオットが群がり、延々とはね飛ばされることになったのだ。あまりの酷い光景に、アゼルはため息をつくことに……。
「もう、気を付けてくださいね。彼らは死角から突撃してくることが多いんです。今も……ほら!」
「ギゴァッ!」
「こうやって突っ込んできますから、ちゃんと周囲に気を配ってくださいね」
「……おう、分かった」
背後から音もなく接近してくるスカルチャリオットを、アゼルは振り返りすらせずにヘイルブリンガーで叩き潰す。それを見たシャスティは、神妙な態度になった。
「だいぶ手慣れてるな、アゼル。前に来た時にも相手したのか?」
「もちろんですよ、兄さん。あの時は第三階層に車輪エリアがあったので……あった、ので……うう」
「いや、思い出したくないなら話さなくていい。すまん、ちょっと配慮が足りなかったな」
カイルに尋ねられたアゼルは、以前迷宮で起こった出来事を思い出し苦悶の表情を浮かべる。当時、スカルチャリオット地帯を抜けるためアゼルは苦労させられた。
グリニオらに強要され、無理やり囮にされて地獄を味わったのだ。その時の経験が今回の攻略に活きているとはいえ、嫌な思い出であることに変わりはない。
「いえ、気にしないでください。それより、先に進みましょう。今倒したので、スカルチャリオットは最後のはずですから。新手が来る前に、下に行っちゃいましょう」
「……ああ、そうだな」
次から次へと突撃してきたスカルチャリオットの群れはすでに殲滅され、後は下の階層に降りるのみ。もたもたしていると、また厄介な敵が現れかねない。
暗くなりかけた空気を明るくしようと、アゼルはにっこり笑顔で先頭を進む。その後ろを、シャスティたちが着いていく。
「あっ、階段はっけーん! アゼルくん、下に降りられるよ!」
「よかった、無事ここまで来られましたね。この先に、ジェリド様の宮殿が……よし。皆、行きましょう」
しばらくして、アゼルたちは下の階層へ続く階段を見つけた。階段を降っていくと、荘厳な城門がすぐ目の前に現れる。地上では見たことのない、不思議な装飾が各所に施されていた。
「おー、こりゃすげぇ。まさに、王が住む城! って造りだな」
「ふむ。この柱の彫り、暗域でも見たことがない美しさだ。この紋様……実に興味深い」
シャスティとアーシアがそう呟くなか、ひとりでに門が開かれていく。アゼルたちを招き入れる準備は、すでに万端のようだ。門を越えると、宮殿との間に中庭があった。
各所に骨で作られたオブジェが飾られており、天井付近に浮かぶクリスタルから青い光が発されている。光を受けて輝くオブジェは、とても美しかった。
「わー、綺麗。これを見られただけでも、ここまで頑張って降りた甲斐があったね、アゼルくん!」
「ほー、なかなか趣ってモンが分かるんだねぇ、お嬢ちゃん。こっちまで嬉しくなってくるよ」
メレェーナが感嘆の声をあげた直後。宮殿の方から、女の声が聞こえてきた。アゼルたちが声のした方向を見ると、扉が開け放たれ何者かが接近してくる。
「あれが次の試練の相手……って、二人もいるのかよ!?」
「なんかすげぇのが来たな……。あれじゃまるで、本物の戦車じゃねえか」
現れたのは、両肩と腰に車輪を付けた大柄なスケルトンと、その背に乗る大砲を担いだ女戦士だった。シャスティの言葉通り、二人合わせて巨大な戦車のように見える。
「あなたたちが、次の相手ということですね?」
「そうさ。ウチはジェリド様のしもべ、四骸鬼が一人『砲骸鬼』ビレーテ。こっちは、『輪骸鬼』アルーだ。ちなみに、ウチら二人ともバリバリの乙女なんで、そこんとこよろしくぅ~」
「ヨロシクゥ~」
大砲を携えた女は、自身と相棒の紹介をする。だいぶ軽い調子の二人を前に、アゼルたちは少々戸惑っているようだ。
「いろいろとこう……なんか予想を越えるのが出てきたな。あのジュデンの爺さんとは偉い違いだな、おい」
「あー、えっと、そうですね兄さん」
きゃぴきゃぴしているビレーテたちを見ながら、アゼルとカイルはそんなやり取りをする。人の良い武人だったジュデンとは、一味も二味も違うらしい。
「さて、ここまで来たってことはさぁ~。もち、受けるっしょ? ウチらの試練をさ~」
「試練ヲサァ~」
「もちろん、受けます。そうじゃないと、この先に通してはもらえないのでしょう?」
「ま~ね~。それがウチらの仕事だしぃ~? 部下としての責務みたいな~?」
「ミタイナ~?」
くりくりした大きな目をぱちぱちさせながら、ビレーテは楽しそうにそう口にする。兜を被っているため表情は分からないが、アルーもノリノリだ。
「……はよう話を進めてくれ。貴殿らの言動を見聞きしていると、精神が疲れる」
「おっけー。んじゃ、場所変えちゃうね~。それっ、ちぇ~んじ!」
「チェ~ンジ!」
「え、ちょっと、わわっ!?」
酷く疲れた表情を浮かべながら、アーシアはそう訴える。すると、ビレーテは大砲をアゼルたちの方に向け、勢いよく砲弾をぶっ放した。
砲弾には転移の魔法が込められているようで、アゼルたちは宮殿内部にあるコロシアムに移動する。円形の客席に囲まれた決闘場の中央には、すりばち状の広いくぼみがあった。
「宮殿の中に、こんな場所が……」
「凄いっしょ~? ここ、昔ウチらがジェリド様に奉納試合するために作られた場所なんよねぇ~。どう? テンションアゲアゲっしょ?」
「アゲアゲッショ?」
「ああー……まあ、そうだな? もうそれでいいや、うん」
あまりにもテンションの高いビレーテたちのノリについていけず、シャスティはまともに対応するのを諦めたようだ。アーシアも同様に、相手から距離を置いている。
「んじゃ、早速やっちゃお~。ウチらの試練はぁ~、二対二のコンビバトル! テンションアゲアゲで、パーリーナイトしちゃおうぜぇ~!」
「シチャオウゼェ~」
ビレーテが決めポーズをすると、アゼルたちの側にあるものが現れた。両肩と腰に車輪が付いた、骨製のアーマーだ。
どうやら、片方がこれを着てアルーのようにスカルチャリオットになりきる必要があるらしい。
「アゼっちと一緒にパリピする方がそれ着て~。じゃないと、このコロシアムじゃ戦えないんでよろしくぅ~」
「……だそうだ。アゼル、済まぬが余はパスだ。このような珍妙なモノ、貴族として絶対に身に付けたくない」
ビレーテの趣味なのか、アーマーは奇天烈な装飾で彩られていた。肘や膝、背中と腹にゴテゴテしたミラーボールのようなものがくっついているのは、率直に言ってダサい。
アーシアが速効で拒絶反応を示すのも、無理からぬことであった。彼女の大魔公としてのプライドが、奇天烈な衣装を着ることを許さなかったのだ。
「いやー、んなこと言ったってアタシも嫌だぞ? カイル、お前着ろよ」
「オレも流石にこれは……。それに、こんなもん着てたら満足に銃も撃てやしねえ。悪いがオレもパスだ」
「と、なると……もうメレェーナさんしかいませんね」
シャスティとカイルもアーマーを着るのを嫌がり、必然的にメレェーナにお鉢が回ってくる。内心、断られたらどうしようと悩むアゼルだったが……。
「着る着る! あたしこれ着る! こんなかっちょいーの、着なきゃ損だって!」
「え、あ、そうですか。ありがとうございます?」
意外とノリノリだった。良くも悪くも、メレェーナの感性はビレーテのソレと似ているようだ。ご機嫌な様子でアーマーを着込み、背中にアゼルを乗せる。
「どーお? 似合う似合う? ふっふーん、さあさあ皆のもの、このアルティメットセクシーバイオレンス戦車メレェーナちゃんの前にひれ伏すがよいわー! わっはっはっは!」
「うう……なんでか分かりませんが、ぼくの方がすっごく恥ずかしいです……」
謎の羞恥心に襲われるアゼルだが、試練を受けるには戦車と化したメレェーナに乗るしかない。シャスティたちに見送られ、すりばちコロシアムに入る。
ビレーテとアルーもリングインし、ようやく第二の試練の幕開けとなった。
「おっ、イケてるじゃ~ん。そんじゃ、試練開始、みたいな~?」
「ミタイナ~?」
「よーし、頑張ろうねアゼルくん! 力を合わせて勝利をもぎ取ろー! えいえいおー!」
「……うう、もうどうにでもなーれ! えいえいおー!」
アゼルとメレェーナ、異色のコンビによる戦いが始まる。




