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171話―リジールの試練

「それでは、お前を試してあげましょう。ルールは単純、今から十分の間、逃げ出すことなく私の猛攻を凌ぎ切るか、私を倒せばお前の償いとやらを認めましょう」


「そ、そんなのでいいの?」


 ディアナの言葉に、リジールは拍子抜けしてしまう。たったの十分なら、相手を倒せなくてもなんとかなるだろう。そう思っていたが、すぐ後で己の浅はかさを重い知ることになる。


 殺意全開のディアナが、そんな条件を出す理由などたった一つしかない。十分もあれば、リジールを惨たらしく殺すことなど目を瞑っていても可能だからだ。


「時間は、この砂時計で測ります。全ての砂が落ちるまで、お前が生きていればよし。ですが、もし背を向けて逃げ出せば……」


「逃げ出せば……?」


「その時は、一切の情け容赦なくお前を殺す。アゼル様に償いをするだなどという思い上がりをしたことを、永遠に後悔することになるほどの絶望を味わわせてやる」


「ヒッ……!」


 そう言うと、ディアナは指を鳴らす。すると、彼女の近くに大きな砂時計が現れた。きっかり十分を計るための砂が、上半分に満たされている。


 砂時計を出現させた後、ディアナは顔の左半分に装着している仮面を外し投げ捨てた。一切手を抜くことなどない、本気であることを示しているのだ。


「では、始めましょうか。三十秒だけ、サービスタイムを差し上げます。さっさと準備を整えなさい」


「は、はい! ダークメタモルフォーゼ……アングリーワイバーン! 私は、負けない!」


 クイクイと指を曲げ挑発するディアナに対し、リジールはいつもアゼルたちを運んでいる翼竜の姿へ変身し突進する。巨体による攻撃は、単純ながらも効果は抜群……かと思われた。


「あら、何と単純な。その程度、カウンターするのは容易いものです。フン!」


「あぐっ!」


 ディアナは鉄鎚を振るい、リジールの顔面にカウンターの一撃を叩き込んだ。その瞬間、リジールの脳裏にかつて受けた拷問の数々がフラッシュバックする。


 かつての己の誇りだった美貌を徹底的に破壊され、これまでに築き上げてきた全てを奪われた屈辱と恐怖。それらを思い出し、リジールはパニックに陥ってしまう。


「いや、いやあああ!! 来ないで、来ないでぇぇぇぇぇ!!」


「やれやれ。ちょっと顔を小突いただけだというのに、大層見苦しい。そんなに嫌なら、逃げてもいいんですよ? どうせ、償いなどする気もないのでしょう? お前には」


 得物を揺らし、再度の顔面への攻撃をチラつかせながらディアナは悪意に満ちた笑みを浮かべる。彼女はリジールの言葉を、全く信じていなかった。


 結局は、アゼルを利用して少しでも自分の惨めさを紛らわそうとしているだけに過ぎない。だから、以前のトラウマを突き付ければ逃げ出すだろう。


 そう思っていた。だが……。


「やだ、やだ! 怖いけど、逃げない。絶対逃げない! ワイバーンクロー!」


「チッ、腹が立ちますね。なら、今度はその顔面をミンチにしてあげましょう! 戦技、アンホーリースプリンクラー!」


 恐怖に屈さず、リジールはディアナに立ち向かう。ここで逃げてしまえば、これまでの全てがムダになる。そんなことになっては、アゼルやアーシアに顔向け出来ない。


 だから、リジールは逃げない。かつての恐怖を乗り越えなければ、彼女に未来はないのだから。


「あぐっ! つ、爪が」


「脆い爪だこと。そこらの木の方が、よっぽど頑丈ですね。それでは、その鱗ごと顔面をぐちゃぐちゃにしてあげましょうか!」


「ヒッ! そ、そうはさせない!」


 果敢に攻めるリジールだったが、鋭いトゲが新たに生えた鉄鎚を叩き込まれ爪を砕かれてしまう。再度顔面を狙って放たれた攻撃を、上に飛んで逃れる。


「燃えちゃえ、燃えちゃえ! バーニングブレス!」


「ムダなことを。空に逃れれば、私の鉄鎚が届かないとでも? 浅はかなことをしても、無意味! 戦技、アンホーリーフレイル!」


 上空から降り注ぐ無数の火炎弾を避けつつ、ディアナは鉄鎚に魔力を込める。すると、鎚頭が柄から外れ魔力の鎖が出現した。フレイル形態となった鉄鎚を使い、ディアナは遠距離攻撃を行う。


「さあ、叩き落としてあげましょう。地に落ち、無様にもがくがいい!」


「そうは、いかない! ワイバーンストーム!」


 魔力の鎖を掴み、鎚頭を振り回して加速をつけた後ディアナは上空へ投げる。凄まじい勢いで飛んでくる鎚頭を避けつつ、リジールは火炎弾に加え突風による攻撃を仕掛けた。


 突風によって鎚頭を押し返しつつ、火炎弾を加速させ雨あられと地上に降り注がせる。鎖を振り回して火炎弾を打ち消しながら、ディアナは砂時計の方を見る。


「三分経過、ですか。なるほど、ここまでは認めてあげましょう。では、そろそろ殺しますね」


「え、跳んだ……!?」


 両足に力を込め、ディアナは跳躍する。驚くべきことに、落ちてくる火炎弾を踏み台にして空を駆け登り、リジールの元まで到達してみせた。


「捕まえた、愚者よ」


「まず」


「フンッ!」


「あぐあっ!」


 急いで離れようとしたリジールだったが、間に合わず顔面に攻撃を食らってしまう。トゲの生えた鋼鉄の塊が、頑強なはずの竜の鱗を砕いていく鈍い音が響く。


「う、あ……」


「ここまで五分。まあ、半分は保ったのですから、よしとしましょう。誇りなさい。そして、死になさい!」


 くぐもった叫びをあげるリジールの脳天に、トドメとばかりにさらなる攻撃が叩き込まれる。嫌悪感を催す粉砕音が響くと同時に、リジールは力を失い墜落していく。


 巨体が地に叩き付けられた直後、ディアナも落下し着地する。ピクリとも動かないリジールに近寄り、息があるかどうかを確かめた。驚くべきことに、まだ息があった。


「人の身であれば、命を落としていてもおかしくはないというのに。まだ息があるのですね。何がそこまで、お前の命を留めるのやら」


「だっ、て……ここで、死んだら……アゼルに、謝れない。あの日、やったこと……ぜんぜん、償えないもん。だから、まだ死ねないの!」


「!? バカな、もう動くだけの余力はないはず!」


 火事場のバカ力とでも呼ぶべきか、あるいは執念の成せる業か。瀕死の重傷を負ってなお、リジールは立ち上がってくる。素早く頭突きをかまし、ディアナの手から得物を弾き落とす。


「しまった、ハンマーが……」


「今が……チャンス!」


「ぐっ、この! 放しなさい!」


 リジールはディアナを咥え、最後の力を振り絞り翼を羽ばたかせる。砕かれた頭部から大量の血を吹き出しつつ、空高く上昇していく。


 が、ディアナも黙ってはおらず素手で鱗を引き剥がし、リジールの左目に何度も突き刺す。だが、それでもリジールが止まることはない。


「あんたを、倒すなんて……今のあたしには、出来ないけど。道連れにするくらいは、出来る。この高さなら……あんただって、無事じゃ済まないよね?」


「お前、そのために……!」


「これで終わりだよ! 戦技、フォールダウンバースト!」


 ボロボロの状態では、ディアナを倒すどころか残り五分を生き延びることさえ不可能。そう判断したリジールは、せめて相討ちにしようと考えたのだ。


 ディアナが逃れられぬよう、牙にヒビが入るほどきつく口を噛み締めながら、羽ばたくのをやめ自由落下に身を任せる。数百メートルもの高空から落ちれば、ディアナもただでは済まない。


「……なるほど。本心からの行動でなければ、ここまですることはないでしょう。お前は……いや、あなたは本当に、アゼル様に償おうとしているのですね」


 地上に落ちていきながら、ディアナはそう口にする。リジールは答えることは出来なかったが、目で語りかける。これが自分の本音なのだ、と。


「分かりました。ならば、あえてこの一撃を受けましょう。最後まで私に立ち向かったその勇気、このディアナしかと……見届けましたよ」


 ふっと柔らかな笑みを浮かべ、ディアナはそう口にする。驚きで広がるリジールの目から、つうと涙がこぼれ落ちていく。そして……二人は、地へと叩き付けられた。


「合格……です、リジール。しばし……休みなさい。傷を癒すために……う、くふっ」


 高高度からの落下の衝撃は凄まじく、さしものディアナも大ダメージを負うのは避けられなかったようだ。そうリジールに告げた直後、口から血を吐き気絶してしまう。


 双方共に倒れることになったが……リジールは見事、試練を乗り越えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあここで覚悟示しとかないと結局何処かでアゼルの足引っ張って大事故に繋がる可能性がデカイからな(。-ω-) 最早一度死んだ身で頑張らんと録な死に方もできんしな(。-ω-)
[一言] 済まない、ディアナ。結構ダメージが響くだろうがな……。
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