163話―再びの別れ
「う、うーん……。ハッ、俺は一体……」
「ようやく目が覚めたか、お漏らし男め」
「ん!? てめぇは……ってクサッ! 俺漏らしてるのか!」
十分後、盗賊団のお頭は目を覚ました。洞窟の外、突き出た岩から魔法のロープで吊るされた状態で。自分が漏らしていることに気付き、お頭も悶絶する。
「さて、さっさと始めよう。お前たちは誰の指示で私たちを襲った? 正直に吐けばすぐ逃がしてやるぞ」
「誰が言うかよ! ……なんて、いつもなら言うところだが。いいぜ、ゲロってやるよ全部。こうなっちまったら、もう終わりだからな」
下から見上げてくるリリンたちに、お頭はそう答える。ラズモンドに対しての忠誠心などさらさらなく、あっさりと雇い主に関する情報を話した。
ここまで簡単に情報を吐くとは思っておらず、アゼルらは驚きで目を丸くする。悪臭を嗅いでしまわないよう、みな骨製の鼻栓をしていたため間抜けな絵面になった。
「いいのかよ? そんなあっさり話して」
「へっ、俺たちゃとうの昔にあの豚に切り捨てられてんだ。今さら果たす義理なんざねぇんだよ」
「ふぅん、あんたも大変だな。にしても、やっぱりあのラズモンドが犯人だったか」
やれやれとかぶりを振りつつ、シャスティは呆れたようにそう呟く。案の定と言うべきか、今回の襲撃の黒幕はラズモンドだったようだ。
「黒幕が分かったのはいいですが、相手の立場が立場なだけに対処に困りますね。今から帝都にとんぼ返りするらわけにもいきませんし」
が、黒幕が分かったからとて全ての問題が解決するわけではない。引っ捕らえた盗賊団のお頭を連れて帝都に戻れば、彼の証言でラズモンドの悪事を暴ける。
だが、今のアゼルたちにはそんなことをしている余裕はない。急ぎ凍骨の迷宮に向かい、ジェリドから炎の欠片を継承しなければならないのだ。
「……ふむ、いい機会だ。アゼル、こうしよう。一旦二手に別れて行動するんだ。私とアンジェリカで、帝都に戻る。そして、あの豚にトドメを刺す」
「えっ、わたくしもですの? リリン先輩お一人でも……いえ、なんでもありませんわ」
自分を指名されたアンジェリカは反論しようとするも、一睨みされてすぐ黙った。リリンの提案を受け、アゼルはしばし考え込む。
(確かに、二手に別れればスムーズに事が進みますが……敵の手の内が分からない今、戦力を分散させるのは不安でもあるんですよね……)
ラズモンドは論外としても、ラ・グーの手下についての情報が不足していることが気がかりであった。イレギュラーの発生に備え、出来る限り戦力を減らしたくないのだ。
「確かに、リリンお姉ちゃんの案はとてもいいんですが……。やっぱり、戦力をバラけさせるのは……」
「ふっふっふっ。だいじょーぶだよ、アゼルくん。そんな時はあたしに任せて!」
アゼルが悩んでいると、メレェーナが得意げに笑いながら腰のポケットから何かを取り出す。取り出したのは、渦巻き模様の銀紙に包まれた飴玉のようなものだった。
「これは飴……ですか?」
「ふっふっふっ、ただの飴じゃーないんだなこれが。これはね、いつどこにいてもあたしのところにワープ出来るテレポートアメなのだ!」
ビシッと決めポーズを取りつつ、メレェーナは飴玉を掲げる。飴玉をリリンとアンジェリカに渡しつつ、どうやって使うかをレクチャーする。
「これを噛み砕くとね、あたしがいる場所までテレポート出来るんだよ。どんなに離れててもだいじょーぶだから、行きはともかく帰りは一瞬! どう? すごいでしょ」
「確かに、それなら問題はなさそうだ。用を済ませたら、すぐに合流出来るのは助かる」
「そうですね、それなら多少別行動してても大丈夫そうです。じゃあ、リリンお姉ちゃんにアンジェリカさん。ラズモンドにトドメを刺してきてもらってもいいですか?」
アゼルの言葉に、リリンとアンジェリカは任せろとばかりに力強く頷く。後顧の憂いを断ち、これから待ち受ける戦いに集中するためにも。
今ここで、邪魔者は始末せねばならない。
「お任せくださいませ、アゼルさま。あの品のない男に裁きを下してやりますわ」
「すぐに片付けて戻る。アゼル、ボーンバードを借りるぞ。流石に歩きでは戻れんからな」
「分かりました。それじゃあ……サモン・ボーンバード!」
これからの動きが決まり、早速アゼルたちは行動に移る。吊るされているお頭を落とし、ボーンバードのしっぽにロープでくくりつける。
リリンたちは骨の鳥の背中に乗り込み、帝都へとんぼ返りしラズモンドの悪事を暴きに向かう。スムーズに進めば、アゼルたちとの合流も早めに出来るはずだ。
「おい、ちょっと待て! 俺もそっちに乗せろ! 途中でロープが切れたらどうすんだ!」
「糞尿まみれの男を乗せるなどお断りだな。臭くてかなわん。それに、このロープはそう簡単には切れんから安心しろ」
「出来るかぁ!」
陸に打ち上げられた魚のようにビッタンビッタン暴れながら、お頭は抗議する。が、リリンはさらっと無視してロープのくくりつけを完了させた。
匂いは感じないはずだが、ビジュアル的な汚さのせいかボーンバードはとても嫌そうに忙しなく動き回っている。それを見たアゼルは、心の中で謝る。
「さて、では行ってくる。シャスティ、メレェーナ。私たちがいない間、アゼルを頼むぞ」
「ああ、任せておきな」
「はーい! がってん!」
「二人とも、お気を付けて」
そんなやり取りをした後、ボーンバードに乗ったリリンたちは東へ飛び立っていった。お頭への嫌がらせか、ボーンバードはしっぽをぶんぶん振り回している。
お頭の悲鳴が空にこだまするなか、リリンたちはあっという間に見えなくなった。
「さて、これでひとまずやることは終わったね。余たちも先へ進むとしようか」
「そうですね。リジールさんのところに戻って、フォルドビア山に向かいましょう」
本来の目的を果たすため、アゼルたちもふもとで待機しているリジールのところに戻る。彼らが去った後、少しして盗賊団が根城にしていた洞窟の中から一人の女が現れた。
返り血にまみれた忍装束に身を包んだ女は、西の空へ飛びさっていくリジールを見つめている。しばらくして、ふもとへと降りていく。
「やぁれやれ。役立たずどもを始末するのも楽じゃあないね。ラズモンドはもうダメそうだし、さっさと総帥殿に知らせてこなくちゃ」
口封じのため、アゼルたちの始末に失敗した盗賊団を抹殺しに来たようだが、一足遅かったようだ。ラズモンドに見切りをつけた女は、一部始終の報告をするため帰っていく。
「報告が済んだら、凍骨の迷宮に先回りしとかないとね。先に忍び込んどいて、皆殺しにしちゃお。向こうでロマも待機してるし、不意打ちしよっと」
不穏な言葉を残し、女は姿を消した。アゼルたちとの戦いに向け、闇霊たちも行動を開始したのだ。凍骨の迷宮を決戦の地とし、激闘が始まる。
◇―――――――――――――――――――――◇
盗賊団の一件から三日後。昼夜を問わず西へ進み続けたアゼルたちは、ついに凍骨の迷宮の入り口があるフォルドビア山のふもとに到着した。
山全体が異様な気配に満ちており、その影響か野生動物や魔物たちが姿を消している。ここまで来れば、目的の半分は達成したも同然だ。
「ついに来ましたね、フォルドビア山に。ここのどこかに、迷宮への入り口が……」
「ああ。ここから先も、気を引き締めて臨まねばなるまい」
静まり返った山林を見ながら、アゼルとアーシアはそう口にする。その時……森の奥から、ガサガサという音が聞こえてきた。何者かが近付いてきているのだ。
「おっと、いきなり敵か? へっ、だったらこっちから一発……」
「いえ、待ってくださいシャスティお姉ちゃん。この気配は敵じゃありません。これは……」
気配の主に先制攻撃をかまそうとするシャスティを、アゼルが制止する。その直後、森から出てきたのは……。
「よっ、アゼル。久しぶりだな、元気にしてたか?」
アゼルの兄、カイルだった。




