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127話―痛みと憤怒

 無事目的を果たしたアゼルとリオは、完全に氷漬けとなった魔物を連れ神殿に帰還する。創世六神に事情を話すと、少女の救出に協力してくれることになった。


「こちらこそ、願ってもない話だ。同胞の命、必ず救ってみせよう。ありがとう、二人の英雄よ」


「いえ、礼には及びません。ぼくたちは、やるべきことをしただけですから」


 神々を代表し、バリアスがアゼルとリオに礼を述べる。魔物……ティナは、神殿の奥にてアルトメリクと配下の伴神たちにより、治療を受けているらしい。


「上手く魔物の肉体から分離させ、新しい身体を与えれば……肉体の苦痛からは、解放されるだろう」


「ええ。肉体の苦痛からは、ね」


 バリアスとリオは、ティナが搬送されていった方角を見ながらそう呟く。身体を解体され、魔物と融合させられる……そんな地獄を味わって、心が無事だとは思えなかったのだ。


 例え肉体を元に戻せても、心まで元に戻すのは難しい。最悪、心が壊れたまま戻らなくなってしまうかもしれない……そう思うと、アゼルの中から怒りがどんどん湧いてくる。


「カルーゾ……あいつだけは、絶対に許せない。こんな、人の命を踏みにじるような真似は」


「……よもや、ここまでの蛮行に及ぶとは我々も思っていなかったよ。奴は……心の底まで、ねじ曲がってしまったのだな。本当に……悲しいことだ。昔の彼は、こんなことをする者ではなかったというのに」


 かつての友がしでかした行いを嘆き、バリアスは深いため息をつく。それでも、彼とてカルーゾが犯した過ちを放っておくつもりはない。


「バリアス様、今回の一件で、僕は考えを改めました。カルーゾの討伐に、僕たち魔神も加勢しようと思います」


「そうか……アゼルくんも助かるだろう。我々も全面的に協力したいが……ウェラルドとガローに壊滅させられた追討軍の再編がまだ終わっていなくてね。しばらくは……彼女に任せる」


「はーい、メレェーナちゃん登場でーす! いぇい!」


 三人が話をしていると、床のタイルがずるっと動き、メレェーナが顔を出した。アゼルは驚き、目を丸くしてしまう。


「わっ、ビックリした。メレェーナさんが、助っ人ですか?」


「ああ。彼女には罰を与えた。伴神解任と無期限の奉仕刑……つまり、君たちへの協力だ。メレェーナもまあ、腐っても神だ。戦力としては十分だろう」


「あー、バリアスさまひっどーい! あたしだって強いんですからね、もう!」


 バリアスのあんまりな言い種に、メレェーナは頬を膨らませぷんぷん怒る……が、当の本人からはスルーされた。それにまた腹を立てていると、一人の女性が走ってきた。


「バリアス様、魔物の分離治療が完了しました! 中の少女の容態も安定しています! 新しい肉体が馴染みはじめているので、もう目が覚めるはずです」


「そうか、それはよかった。よし、見舞いに行くとしよう。……ちなみに、少女の身元は分かったのか?」


「はい、行方不明になっていた子どもたちの内、ティナという少女と顔及び生命波長が一致しました。両親も、娘が見つかってホッとしています」


 どうやら、無事少女を助け出すことが出来たようだ。アゼルたちは少女――ティナの様子を見に、アルトメリクたちが待つ部屋へと足を運ぶ。


 部屋に入ると、真っ白なローブに着替えさせられたティナがベッドに横たわり、深い眠りに着いていた。奥の方では、伴神たちが魔物の死骸を片付けている。


「終わったか、アルトメリク。無事に済んだようでよかった」


「あら、バリアス。ええ、創命神の名にかけて、ティナは救ったわ。後は、目を覚ますのを待つだけ。ありがとうね、小さな英雄さんたち」


「いえ、ティナちゃんが無事で、ぼくも安心しました」


 アルトメリクは朗らかに笑いながら、アゼルとリオにお礼の言葉を述べる。その時、ベッドの上で眠っていたティナが目を覚まし、ゆっくりと起き上がった。


「あ、ティナちゃん! よかったわ、無事に目が覚めたのね」


「ふー、よかった。まだぼーっとしてるみたいだけど、特に問題はないかな?」


 リオとアルトメリクが声をかけるなか、アゼルはティナをじっと見つめる。少女の歳は、八歳くらいであろうか。自分よりも小さな子が、苦しみの中にあったことに心を痛める。


 寝ぼけているのか、焦点の定まらない目でぼんやり宙を眺めていたティナだったが、少しずつ意識が覚醒してきたようだ。アゼルたちがいるのに気付き、ティナは……。


「いや……いや、いやぁぁぁ!!」


「ティナちゃん? どうし……! 嘘、この子……自分で、舌を……」


 大声で絶叫した直後、ティナはアゼルたちが止める間もなく自身の舌を噛み切ってしまった。アルトメリクは慌ててティナを抱き止め、治癒の魔法をかける。


「そんな、魔法が効かない!? この子、まさか……治癒の魔法を拒絶しているの?」


「なんということだ……自ら、命を断つとは。アルトメリク、どうにか治療出来ないのか!?」


「……ダメ。この子自身が、とても強い意思で治癒の魔法を拒絶しているわ。こうなったらもう、わたしの力でも……残念だけれど、もう……」


 必死に治癒の魔法をかけ続けるも、ティナは幼さに見合わぬ意思の強さで魔法を拒絶し、自ら死を選んだ。その光景にショックを受けていたアゼルだったが、ハッと我に返る。


「いえ、まだです。ムーテューラさまから授かった、死者蘇生の力を使えばきっと助けられます! ターン・ライフ!」


 アゼルはティナの元に近寄り、蘇生の炎を与える。すると、噛み切られた舌が元に戻り、少女は再び息を吹き返した。


「よかったぁ~、さっすがアゼルくん! これで一件落着だ……」


「……して? どうして、おわらせてくれないの? わたしはもうしにたいのに……どうして。もう、いたいのはいや……いや、いや……」


 だが、ティナの心に巣食う絶望までは取り払うことが出来なかったようだ。再び舌を噛み切ろうとするも、今度はアルトメリクの妨害が間に合った。


 素早くタオルを噛ませ、眠りの魔法で即座に眠らせる。後は自害防止処置をしておけば、問題はないだろう。少なくとも、ティナの命は。


「……酷い、酷すぎる。カルーゾは、何をしたんだ? こんな小さな子が、自分から死を望むようになるなんて……あいつは、あいつは!」


「リオくん、落ち着きなさい。今ここで憤っても、何も解決しない。アルトメリク、済まないが彼女のメンタルケアも頼みたい。やれるか?」


「やるわ。絶対に、ティナちゃんを絶望から救ってみせる。だから、アゼルくんもリオくんも安心して。ね?」


 悲しみの涙を流しながら、アルトメリクはティナを抱き締める。いたたまれない気持ちを抱いたまま、アゼルたちは部屋を後にした。


「……由々しき事態だ。ティナがああなってしまっている以上、いまだカルーゾの元に囚われているだろう残りの三人も、同じような状態になっているに違いない」


「すぐに、助け出してあげないと。その後で、カルーゾは……彼女が味わったもの以上の苦しみを味わわせて、殺します」


 会議室にて、アゼルはそう呟く。握り締められた拳からは、血が垂れている。怒りと悲しみと憎しみで、心がぐちゃぐちゃになってしまいそうだった。


「あたしも、許せない。今ほど、あいつの口車に乗った自分をバカだって思う瞬間はないよ。絶対、ぎたぎたのめためたにしてやる!」


「……うん。そうだね。それじゃあ、すぐに行動しよう。とは言っても、カルーゾのアジトを探すのは簡単にはいかない。いつまでも、暗域の表層に留まってるほどバカじゃないだろうし」


「では、どうするのです?」


 アゼルに問われたリオは、腕を組む。しばし考え込んだ後、口を開いた。


「暗域は広い。僕たちに協力してくれる大魔公を集めて、捜索してもらう方がいい。カルーゾが見つかるまでの間、アゼルくんとその仲間には修行をしてもらおうかな」


「し、修行ですか? そんな悠長なことをしていて、大丈夫なのですか?」


「暗域はね、大地の民が入ることは出来ないんだ。いや、正確に言えば、入れはするけど、すぐに闇の瘴気にやられて死んじゃうよ。そうならないための、修行さ」


 リオ曰く、闇の眷属たちが住まう暗域には大地の民にとって猛毒となる闇の瘴気が充満しているのだという。耐性を持つ神々や魔神でなければ、長時間の滞在は不可能とのことだった。


「闇雲に動いても、事態は良くならない。子どもたちを助けるために君たちが死んでしまったら、本末転倒だ。だから、そうならないためにも、力を付ける必要がある。闇の瘴気に負けないための力を」


「……分かりました。そうであれば、善は急げです。早速修行を始めましょう!」


「よし、決まりだね。すぐに仲間を呼んでおいで。僕たちの大地に戻って、修行を始めるよ」


「はい! すぐに呼んできますね。行きましょう、メレェーナさん」


「おっけー!」


 アゼルは頷き、リリンたちを呼びに行く。残ったリオに、バリアスは声をかける。


「リオ。あの魔物と戦って、何か気付いたことがあるのだろう? そうでなければ、悠長に修行するなどと言うまい」


「はい。アゼルくんは気付いていないようでしたが、あの魔物、強い闇の力を宿しています。敵のホームたる暗域で戦えば……僕たちでも、勝敗は五分五分でしょう」


 そこまで言うと、リオは腕組みを解く。右腕に装着したガントレットを撫でながら、話を続ける。


「僕たちの動きは、何らかの方法で常にカルーゾに伝わっているはず。そうでなければ、今回の襲撃は有り得ませんからね」


「確かにそうだな。あまりにも動きが的確すぎる」


「となれば、僕たちが対カルーゾのアクションを起こせば……相手もそれに応じて動くはず。僕たちの大地であれば、改造された魔物相手でも問題なく戦えます」


 カルーゾとの戦いに備え、修行を行えば相手は必ず妨害しに来るだろう。魔物が送り込まれれば、磐石の態勢で迎え撃てる。それが、リオの狙いだった。


「なるほど……君の狙いは分かった。確かに、カルーゾの性格であれば、何らかの手段で必ず攻めてくるだろう。それを足掛かりにすれば……」


「ええ。もし子どもたちが改造された魔物が来ればしめたものです。そのまま無力化し、子どもを助け出す。絶対に」


 そう言った後、リオは窓の外を眺める。瞳の奥に、怒りの炎を燃やしながら。


「……カルーゾ。ベルドールの魔神を怒らせるとどうなるか……その身で学ばせてやる」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字発見 アゼルは腕組を解く リオは腕組を解く、では? [一言] こいつ本当に神だったのか?Σ(゜Д゜ υ) リオ達の時代で酷かったから先代が倒され後任として選ばれはや千年?前任から…
[一言] カルーゾ、お前は地獄に落ちてもらうぜ……アゼルやリオたちの手でな……。 ティナをここまで苦しめた以上……お前の末路は決まったもんだろうがあぁぁーーーッ!!
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