119話―暗黒の地の決戦
「う……。ここは、一体……」
闇の玉の中に引きずり込まれ、アゼルは気を失ってしまった。目を覚ますと、荒涼とした黒い荒野にいることに気付く。キョロキョロと周囲を見渡していると、二つの影が近付いてくる。
「おお、ようやく見つかりましたな。いやぁ、肝を冷やしましたぞ」
「みんなバラバラなとこに飛ばされちゃったみたいで、探すのに苦労したよー」
「そうだったんですね。無事合流出来た……のはいいんですけど、ここはどこなんでしょうか」
無事仲間と合流出来たことにホッとしつつ、アゼルは疑問を口にする。見渡す限り続く漆黒の大地と、紫色に染まった禍々しい色合いの空。
間違いなく、アゼルたちが暮らしている世界ではない。少年の疑問に、ヴェルダンディーが答える。
「ここは我輩たち闇の眷属の故郷。暗黒領域……通称、『暗域』と呼ばれている場所ですな。ジルヴェイドめ、自分の力が増すこの地で貴公を仕留めるつもりなのでしょう」
「暗域……。ここが、そうなのですね。ぼくたちの宿敵、あのラ・グーが住む世界……」
かつてのガルファランの牙との戦いを思い返しながら、アゼルはそう呟く。この世界のどこかに、いにしえの時代から災いを振り撒いてきた者がいるのだ。
「と、それよりも……ジルヴェイドは一体どこに?」
「わかんなーい。気配もないし、どっか行っちゃったんじゃないかなー」
「いるサ。私なら君たちのすぐ近くニ。ほラ、よく見てごらン」
敵の居場所についつ話していたその時、どこからともなくジルヴェイドの声が聞こえてくる。直後、地面が盛り上がり、土で出来た巨大な腕が現れた。
そして、アゼル目掛けて勢いよく拳が振り下ろされた。間一髪で攻撃を避けたアゼルは、ヘイルブリンガーを振るい腕を粉々に破壊する。
「くっ、どこにいるんです? 姿を見せなさい!」
「だかラ、言っているだろウ? 私はココにいるト!」
「わあっ、地面が!」
次の瞬間、大地が隆起し人の形へ変わっていく。メレェーナはアゼルを抱え、上空に逃れる。ヴェルダンディーも退避し、距離を離す。
「こ、これは……!」
「ふむ、どうやら暗域の土と一体化したようですな。さてさて、これはちと面倒なことになってきましたね」
「ひえー、おっきーい」
どうやら、ジルヴェイドは何らかの方法で荒野と融合して土の巨人となったようだ。上半身のみではあるものの、身長はゆうに十メートルは越えている。
メレェーナと共に空を漂うアゼルへ両の目を向けながら、ジルヴェイドはニヤリと笑う。再び剣を呼び出し、攻撃を開始した。
「さア、この地で命を散らすがよイ。この荒野は我が支配領域。例えヴェルダンディーがいようとモ、私に勝つことは出来ないのダ!」
「本当にそうなのか、試してあげますよ! ジオフリーズ!」
初撃を避けた後、アゼルはヘイルブリンガーを掲げ死の吹雪を巻き起こす。ジルヴェイドの身体が凍り付き、動きが鈍くなる……が、表面にしか効いていないらしく、すぐ氷が剥がれてしまう。
「ダメだ、効いてない……!」
「ふむ、ならば我輩の炎で溶断してみるとしましょうか。炎の舞い!」
続いて、ヴェルダンディーが攻撃を行う。ジルヴェイドの身体に近付き、地面を蹴って勢いよく飛び上がる。レイピアに炎を纏わせ、胴体を斬りつけた。
が、僅かに裂傷を刻んだだけで、すぐに修復されてしまった。土と融合したことで、再生能力が飛躍的に上がっているらしい。
「フン、ムダなことヲ。誰が何をしようト、私を倒すことなど不可能! さア、受けてみるがよイ。審判の剣をナ! ジャッジメント・ソード!」
「げっ、こりゃまずい! アゼルくん、しっかり掴まっててね、逃げるよ!」
「は、はい!」
ジルヴェイドの持つ剣が白く輝き、オーラに包まれる。直撃を
食らったらまずいと判断したメレェーナは、全速力で相手から離れていく。
「ムダだナ! 断罪の剣からは逃れられぬのダ!」
「け、剣が伸びた!? まずい! ガードルーン……イジスガーディアン!」
アゼルたちを追い、刀身が伸びていく。このまま逃げていても、追い付かれ貫かれる。そう考えたアゼルは、第五のルーンマジックを発動した。
斧刃に刻まれたルーン文字が青く輝き、アゼルとメレェーナを球状のバリアが覆う。剣の切っ先が追い付き、二人を貫かんとするも、バリアに阻まれ弾かれた。
「あ、危なかった……。今度はこっちの番です! サモン・スケルトン! ……あれ? スケルトンたちが出ない!?」
「クハハハ、バカメ! ここは私の支配領域、スケルトンの召喚など許可するものカ。私がいる限リ……ぐおっ!」
「そんなことだろうと思いましたよ。では、代わりに我輩がお前を切り刻んで差し上げましょう!」
反撃の狼煙を上げるべく、アゼルはスケルトンを呼び出そうとする……が、不発に終わってしまった。ジルヴェイドの力で、召喚魔法全般が封じられているのだ。
ならば、アゼルたちがやれることは一つ。三人で連携し、ジルヴェイドを倒すしかない。先陣を切り、ヴェルダンディーが攻撃を叩き込む。
「邪魔をするナ、ヴェルダンディー! そもそモ、何故貴様が大地の民の味方をすル? 魔の公爵たる貴様ガ!」
「理由など一つだ。我輩はアゼル殿の友。絆で結ばれた者を助けるのに、それ以外に理由はいらぬ」
「下らヌ。大地の民と闇の眷属の絆だト? ハッ、笑わせるナ。そんなもノ、私が断ち切ってくれるワ! ジャッジメント・レイン!」
ヴェルダンディーを鼻で笑いつつ、ジルヴェイドは魔力を放出する。空に無数の剣が現れ、地上にいるヴェルダンディー目掛けて降り注ぐ。
それを見たアゼルは、自分を抱えているメレェーナに向かって声をかけた。
「大変だ、ヴェルダンディーさんを助けなきゃ! メレェーナさん、ぼくを下に投げてください!」
「分かった! そぉーれ!」
「ルーンマジック……イジスガーディアン!」
集中砲火に晒されているヴェルダンディーを救助するべく、アゼルはメレェーナに投げてもらい地上へ降りた。再び守りのルーンマジックを使い、剣の雨から仲間を守る。
「おお、感謝しますぞアゼル殿。我輩一人では、ちと捌ききれぬ量でしたからな」
「気にしないでください。それにしても、このままだと決め手がありせんね……。今のジルヴェイドには、生半可な攻撃は効きませんし……」
バリアによって剣は防げているものの、いつまでも守っているだけでは勝てない。どうにかして、相手に致命傷を食らわせる必要があるのだ。
しかし、大地そのものと化しているジルヴェイドには、今のアゼルたちが出来る攻撃はほとんど通用しない。メレェーナがペロキャンハンマーで攻撃しているものの、焼石に水だ。
「ふむ。その問題については、解決する策があります。我輩たちの力を合わせるのです。少し、お耳を拝借。かくかくしかじか……」
「ふんふん、なるほど。それならいけそうですね。やってみましょう!」
事態を打開するための策を思い付いたらしく、ヴェルダンディーはアゼルに耳打ちする。アゼルは頷き、剣の雨が尽きた頃を見計らい反撃に出た。
「行きますぞ! 奥義……太陽の砲弾!」
「フン、何をするかと思えバ。そんな火炎の弾、私に効くわけ……なっ!?」
「やああっ!」
バリアが解除された瞬間、ヴェルダンディーは燃え盛る炎の弾を発射する。すかさずアゼルも走り出し、冷気を纏ったヘイルブリンガーを振るう。
すると、炎の弾がヘイルブリンガーに吸い込まれた。相反する二つの力が混ざり合い、破壊力が爆発的に増幅する。アゼルは勢いよく地面を蹴り、飛び上がった。
「食らえ、ジルヴェイド! 合体戦技……ツインエレメント・スラッシャー!」
「いっけー、アゼルくーん!」
「舐めるなヨ、下等生物ガ! その程度デ、神の剣を越えることなど出来ぬわあァ!」
メレェーナの声援を受けながら、アゼルはヘイルブリンガーを振るう。ジルヴェイドもジャッジメント・ソードを振り下ろし、攻撃を受け止める。
が、氷と炎の力を宿した斧の破壊力は凄まじく、剣は一撃で両断された。驚愕するジルヴェイドに向かって、アゼルは必殺の一撃を叩き込む。
「バ、バカな……」
「そりゃああああ!!」
「グッ……がああアッ!!」
人と魔の絆が、悪を穿った。




