100話―伴神の最期……?
半身を切り裂かれたベルルゾルクが、ゆっくりと崩れ落ちていく。ドーム状の結界が消滅し、戦いの決着がついた……その場にいた誰もが、そう思っていた。
だが……。
「オオオオォォォ……」
「な、なんだ!? ベルルゾルクの遺体が勝手に……」
息絶えたはずのベルルゾルクが、倒れきる寸前で踏みとどまった。不気味な声を漏らしながら、アゼルを見つめるも……その瞳には、理性の光はない。
「グオアアァァァ!!」
「わわっ!? い、一体何が起きてるの!?」
ベルルゾルクの口から放たれた闇のブレスを避けつつ、アゼルは現状を理解しようと頭を働かせる。先の一撃は確実に相手の心臓を破壊し、絶命させた。
しかし、死んだはずの敵はこうして立ち上がり、再び攻撃を加えてきている。雄叫びをあげながら突撃してくる相手を見据え、アゼルは迎え撃つ構えを取り……。
「おっと、ここからは僕がお相手するよ!」
「ガグアアッ!!」
「リオさん!?」
その時、アゼルとベルルゾルクの間に割り込むようにリオが躍り出る。盾で突進を受け止めて力任せに跳ね返した後、振り向くことなく話し出す。
「どうやら、あのベルルゾルクってやつ……暗域に籠ってたみたいだ。あれだけ濃い闇の瘴気を纏えるのは、それ以外まずない。多分、死んだ後で力だけが暴走しているんだと思う」
「そんな……それじゃあ、もしあいつをこのまま放置したら……」
「間違いなく、大変なことが起こるだろうね。だから……そうなる前に、君と僕で対処しよう。ねえ様、みんなを避難させて! ついでに、魔法陣を結界で包んでちょうだい!」
死してなお災いをなす恐れがある状態を危険視したリオは、即座に仲間へ指示を出す。残っていた者たちを避難させ、自分とアゼルで始末を行う。
万が一にも周囲に被害が出てしまわないように、強固な結界で魔法陣を丸ごと包むという防護策も忘れない。指示を受けたアイージャは、即座に行動に移る。
「任せよ、リオ! そなたらも気を付けよ、制御されておらぬ力じゃ、下手に刺激すれば大爆発を起こしかねんぞ!」
「ば、ばくは……!?」
「分かった! 気を付けるね!」
爆発という言葉を聞いて驚くアゼルとは対照的に、リオはあっけらかんと答えた後仲間たちを見送る。体勢を立て直して再度飛びかかってきたベルルゾルクを蹴り飛ばし、ニッと笑う。
「さあ、最後の大仕事だよ。変なことになる前に、あいつを完全に消滅させないとね。疲れてるだろうけど、大丈夫かな?」
「……ええ。ぼくはまだまだやれますよ。チェンジ、射骸装モード! まずは……ベルルゾルクが関係ない人を狙えないようにします! サモン・スケルトンナイツ!」
ベルルゾルクの無差別な攻撃による巻き添えが出ないよう、アゼルはスケルトンを呼び出し壁にしようとする。直後、出現したスケルトンを見て驚いてしまう。
「わあっ!? す、スケルトンが変わってる!?」
「あー、きっとアレだね。僕の血を飲んだから、パワーアップしたんだよ。うんうん」
現れたスケルトンは、これまでと違う容姿をしていた。白かった骨は黒く染まり、身に纏う武具は鮮烈な青に染まっている。さらに、空っぽの眼窩には金色の炎が灯っていた。
「よ、よーし。いけ、スケルトンたち! ベルルゾルクを囲んでしまいなさい!」
「かしこまりました、アゼル様」
「ぴっ!? し、しゃべったあ!?」
流暢な返事が返ってくるとは予想しておらず、アゼルは仰天してひっくり返りそうになってしまう。まさか知能まで上がっているとはリオも思っていなかったのが、ぽかんとしていた。
「ゆくぞ、あの男を囲め! 他の者らに被害を出させるな!」
「アイ・アイ・サー!」
「ググ、ゴアアァ!!」
パワーアップしたスケルトン軍団は素早くベルルゾルクを包囲し、一斉に攻撃を行う。手にしたロングソードを振るって相手を切り刻み、袋叩きにする。
「ギギ……ギガァ……」
「終わりました、アゼル様。二度と動かないよう、全身を細切れにしたのでもう安心です。では、我らはこれで……」
「あ、う、うん。ありがとう?」
「またご用があれば、いつでも我らをお呼びください。我らは、あなた様の駒でござりますゆえ……」
避難が完了するよりも前に、スケルトンたちはベルルゾルクを完全に滅ぼしてしまった。隊長格のスケルトンは主にそう告げた後、部下共々消え去る。
危惧していたことが何も起こらず、迅速にコトが収拾されたのはよかった。が、アゼルの心には、何かが間違っているような不思議な感覚が残った。
「あ、あれぇ……。これ、僕いらなかったやつかなぁ……」
「え、えっと……その、まあ、何事もなく終わって……ば、ばんざーい、なんて……あぅ」
どこか釈然としない様子で呟くリオに、アゼルはどう答えていいか分からず、しばし迷った末に……とりあえず、万歳することにしたようだ。
「うん、まあいっか。問題なく終われれば、それが一番いいからね。それにしても、予想外だったなあ。僕たち魔神の血に、こんな隠れた作用があるなんて。ふふ、研究し甲斐があるなぁ」
「あ、あの。なんでにじり寄ってくるんです?」
「ふふふー。さあ、おとなしく僕の研究に協力しなさーい! 君のスケルトン、調べさせてー!」
「え!? わ、わあー!」
素早くアゼルを抱え上げ、リオは一目散に城の方へ走っていった。一連の事態を飲み込めず、唖然としていたリリンとシャスティは、ここでようやく我に返ったようだ。
「……ハッ! まずい、追うぞシャスティ! あの少年、何をやらかすか分からんからな!」
「ああ、行こうぜ!」
リオを追い、二人も走り出す。騎士たちをかき分け去っていく後ろ姿を眺めつつ、いろいろと挫かれたアイージャは額に手を当てため息をつく。
「やれやれ。妾たちは後片付けでもするかのう……」
「……だね。なんだろう、凄く精神的に疲れたよ……こんな感覚、千年ぶりに味わった」
「……むー。拙者の活躍なかった……」
それぞれ愚痴をこぼしながら、残った魔神たちは戦いの後始末を行う。細切れにされたベルルゾルクの肉片の隙間から、覗き見る者がいることも知らず。
◇―――――――――――――――――――――◇
「……ベルルゾルクが敗れた、か。神殺しの力……予想よりも遥かに早く馴染んでいるな。それに、あのスケルトン……知性まで得るとは、厄介極まりないものだ」
ベルルゾルクを通して一連の戦いを見ていたカルーゾは、忌々しそうに顔を歪めそう呟く。アゼルが予想以上のパワーアップを果たしていたことが、面白くないのだ。
「……まあ、よい。ベルルゾルクは死んだが、収穫もあった。敵の手の内をある程度暴けたのだ、死してよく働いたものだ。感謝するぞ、我が伴神よ」
「おやおヤ、やられちゃったのかイ。あんたのお仲間ハ。どんな最期だったのカ、興味があるねェ」
敗れた仲間へ黙祷を捧げていると、そこへジルヴェイドがやって来た。空気を読まない発言に内心苛立ちつつも、カルーゾは口を開く。
「フン、いいだろう。情報の共有は大事だからな」
「くくク、ありがたイ。……デ、次の手はいつ打つんだイ? このままやられっぱなしというわけにはいかないだろウ?」
「当然だ。次は……二人送り込む。とはいえ、すぐとはいかん。まだ我らは完全に吸収しきっていない。暗域の力をな」
アゼルに対抗するには、相手を上回るさらなる力が必要。そう判断したカルーゾは、しばしの間力を蓄えることに専念することを決めた。
創世六神の持つ聖なる力と、闇の眷属の根源たる暗域の邪なる力。その二つを融合させ、誰も到達し得なかった究極の存在へと至る。
それが、天上の世界を滅ぼすためのカルーゾの目的なのだ。
「そうかイ。でハ、私は研究に戻るとするヨ。君が連れてきてくれた神族の幼子は素晴らしイ。可能性の塊ダ」
「それはよかった。早いうちに、その可能性の到達点を見てみたいものだ」
「くくク。見られるサ。君が思っているよりも早ク、ネ」
そんな言葉を残し、ジルヴェイドは去っていった。一人残ったカルーゾは、目を閉じて瞑想を再開する。口元に、不敵な笑みを浮かべながら。
「……浮かれているがいい、我らが宿敵よ。だが……次はこうはいかぬ。再び貴様に、辛酸を舐めさせてやるぞ」
勝利の裏で、次なる戦いへのカウントダウンが始まっていた。




