エピソード3
現在。
アシェは、フリヘートの案内で街道から少し外れた位置にある、停留所にいた。
ここには、定期的にスルツニウム鉱石を用いた蒸気定期車が来るのだという。
移動手段に、実際に自分が関わっていた鉱石が使用されている事に喜びを感じつつも、その内情は複雑だ。
何せ、今のアシェはある意味呪いを背負って歩いているようなもの。
――危険極まりな存在、それが今のアシェだ。
「アシェ、ずいぶんと不安そうだけれど……大丈夫かい?」
「は、はい……」
「元気がないなぁ? それにしても、自分の事が分からないっていうのは……本当かな?」
つい口から出た嘘は、歴戦の猛者には通じなかったらしい。
どう答えたらいいのか分からないアシェは、冷や汗が止まらず、歯を食いしばる事しか出来ないでいると、フリヘートが優しい声色でアシェに再度声をかけてきた。
「何をそんなに怯えているんだい? 話せない程、深刻な事なのかい?」
「そ、れは……」
「無理に聞き出そうとしてすまない。何か力になれる事はないかな?」
「……すみません」
(この人、フリヘートさんは凄く良い人だ。だからこそ、言えない。いや、そもそも話す事をこの魔剣が赦すのかすら分からない……怖い……)
【どうした? 怖いのか、この男が。なら……食らってやっても、いいぞ? クククッ】
(くそ! この魔剣、いや、悪魔め! 誰が殺しを願ったっていうんだ! 僕は! 僕は! ただ、夢のために生きていただけなのに!)
「アシェ、アシェ! どうしたんだい!? 顔色が悪いにもほどがあるぞ!?」
「えっ……?」
「意識が朦朧としてそうだ! これは蒸気定期車なんて待っている場合じゃない! すぐに人を呼ぼう!」
「だ、だめ……だめです! 危ないんだ!!」
「危ない? どういうことだい、アシェ!」
「ぼ、僕に! 僕に近づかないで! でないと! 危険なんだ! 頼みます!」
「アシェ! 待つんだ! どこに行くつもりだい!? アシェ!! アシェ!!」
フリヘートの静止を無視して、アシェはがむしゃらに走り出した。
当然、道など分からないし、どこに向かえばいいのかすら分からない。
だが、それでもアシェはフリヘートから逃げる事しか考えられなかった。
傷つけたくない。
他者の名を奪ってまでして、生き延びたくない。
想定外だったのは、フリヘートが追いかけてきた事だ。
まだ成長期とはいえ、小柄で華奢なアシェと体格良く、また体力もはるかにあるフリヘートに、簡単に追いつかれてしまった。
両肩を掴まれて、思わずアシェは逃げ出そうともがく。
その必死さに、フリヘートはようやく、アシェが何かとんでもないモノを背負っている事に気が付いた。
「何か……あるんだね? 教えてくれないか? 助けになって見せるから! 必ず!」
その力強く、頼もしい言葉がアシェの心に突き刺さる。
気づけば、涙するアシェを、フリヘートが優しく肩を叩く。そうしているうちに、フリヘートが呼んだ人達が来て、アシェは保護される事となるのだった。




