エピソード2
――身体がおかしい。
不快感に苛まれながら森の中を歩き回っていたアシェだったが、どうにも調子がおかしい。
不調の方ではない。
むしろ、今まで感じた事がないくらいに調子が良い。
不快感も、身体というより気持ちの問題の方が大きい。
(なんなんだ? この相反する状態は……僕に何が起こっているんだ?)
【どうした? あぁ、調子が良くて嬉しいのか】
「……そんなわけが……」
【我の力の一つに、所有者となった者の身体を強化する作用があるからな。それだろうよ】
「……は?」
(魔剣の所有者? 僕が?)
【我を目覚めさせ、所有しているのだから所有者であろう? 何を驚いているのだ】
「ちなみに、前の所有者はどうなったんだ……?」
【忘れたなぁ、クククッ】
(ちきしょう! 僕が強く出る事が出来ないからってコイツ!)
理不尽な状況に、怒りを感じながらもアシェは森の中を進む。どうやら、気づけば森の先に出られそうで、安心と共に不安が襲う。
それは、魔剣にまた意識を取られ……他人を攻撃しないか?
その恐怖で、森から出るのを躊躇するアシェに、魔剣が声をかけてきた。
【安心しろ、我は意識がある時の貴様は乗っ取れん】
(本当か……? 信じていいのか?)
疑念しかないが、ここで反論してもろくな事にならないと判断し、アシェは森の外、街道らしき道へ出る。
空は青く澄み、日差しが眩しい。
昨日までの自分であったなら、飛空艇が見えると喜んでいただろう。
だが……今の自分には、その空が憎らしく思える。
(僕は……これからどうなるんだろうか……?)
誰もいない事を確認したアシェは、街道を進む事にした。
どうか、誰とも出会いませんようにと祈っていたアシェだったが、この世界は無情であった。
背後から人の気配がしたと同時に、声をかけられたのだ。
「おや? 君、どうしたんだい? ここいらじゃ見ない顔だけれど?」
――振り返れない。
――振り返って、もし……魔剣がまた……。
「君? 体調が優れないのかい?」
(違うんだ……僕を、放っておいてくれ……!)
だが、アシェに声をかけてきた人物は放っておいてくれないようだ。
その人物は、アシェの右肩に優しく手をかけてきた。
「君。何かあるなら、俺に言ってみなよ? これでも、元騎士団員なんだ。まぁ、飛空艇乗りの方が今は板についているけどさ?」
(元騎士団の飛空艇乗り……? まさか!?)
心当たりのあるアシェは、思わず振り返る。
そこには、空と同じ青色の長髪を一つに束ねた水色の瞳をした青年がいた。
「飛空艇乗り……世界で最速の男……フリヘート……さん?」
「俺を知ってくれていて嬉しいね。そう、飛空艇乗りのフリヘートとは俺の事さ。それで? 君は?」
アシェの憧れ、飛空艇乗り。その中でも、最速を出し、前線を行くフリヘートに、名乗る事が恥ずかしくて仕方ない。
だが、それでも。
名乗らずには、いられなかった。
「僕は……アシェです」
これがまた、アシェの運命を動かす事になるのであった――




