エピソード1
その夜。
アシェは、家族含めた関係者の前から姿を消した――
大人達が捜索を行ったが、それでも発見できず。
家族達は、理由もわからぬまま失意に落ちる他なかった……。
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その頃。
採掘場近くの集落から出たアシェは今、離れた場所にある丘の上にいた。
ここは星が良く見える。
今まで、集落から出る事がなかったアシェにとって、この日の夜空は、美しいと共にこれからへの不安を与えるものだった。
先が見えない。
そもそも、魔剣の望みをどう叶えるべきなのかすら分からない状態の中、とりあえず誰も巻き込まないため集落を出た。
見切り発車も良いところだ。
「これから……どうしたらいいんだろう……」
魔剣は、沈黙したまま大人しくアシェの背中に背負われている。
急場しのぎで用意した古布と縄でそれっぽく隠したが、果たしてどこまで誤魔化せているかは不明だ。
(本当は、鞘だっけ? あった方がいいんだろうけどなぁ……僕は今まで剣に触れた事がないから、分からないや)
鉱山と家、近所しか知らないアシェの周囲に、剣を持つ者などおらず、辛うじて採掘用の道具を作っている職人から聞きかじった程度だ。
それ以外は、集落にある小さな本売り屋の主人に、簡単な文字の読み書きを教わり、少し本で知っているだけ。
剣の種類はおろか、扱い方すら知らないのが現状だ。
だが、それでも。
――この魔剣が危険なのは理解出来る。
己の存在証明である名前を奪い失わせるなど、畏怖するいがいに無いからだ。
「とりあえず、今日はここで休もうかな……お腹空いたけれど……」
アシェは、夜食用に渡されていた食料を、肩掛けカバンから出し、見やる。
乾燥させた干し肉にスパイスで味付けした簡素な物と、飲み水。
今彼の手元にあるのは、これだけだ。
到底、遠くまで行ける食料の量ではない。先行きが不透明にもほどがある。
アシェは、悩んだ末……干し肉をひとかじりだけして、咀嚼をゆっくりとし、空腹を誤魔化す。
そして、一口水を飲むと、丘にある、大きな木に魔剣を横において、背中を預けて目を閉じ、休む事にした……はずだった。
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「ん? あれ……? え……?」
気づけば、アシェは見知らぬ森の中にいた。
丘の上で眠った記憶まではあるが、こんな場所に移動した記憶はない。
しかも、周囲には獣の死骸と思われる残骸が辺り一面に転がっており、何者かが咀嚼した跡がある。
――自分の口内に、血と肉の後味を感じて。
「まさか……僕が……?」
【ようやく起きたか。貴様の身体を少々借りて、食事を摂ってやったぞ? 感謝しろ】
「なっ!? そ、そんな事、僕は頼んでいない!」
【五月蠅い。貴様に死なれると困るのだ。大人しく満たされた腹で、さっさと先を行け】
魔剣の一方的な主張に、アシェは恐怖と怒りを感じるが、逆らう事など出来ず……胃の不快感を抱えながら森の中を歩き始めた。
まずは、ここがどこら辺なのかを把握しなければならない。
それに……魔剣が他に何かしていないかも確認したい。
前途多難。
そして、希望が見えない中での旅だと再認識しながら……アシェは進む。
暗闇の中で彷徨う亡霊のように、虚ろな瞳をしながら――




