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エピソード1

 その夜。

 アシェは、家族含めた関係者の前から姿を消した――

 大人達が捜索を行ったが、それでも発見できず。

 家族達は、理由もわからぬまま失意に落ちる他なかった……。


 ****


 その頃。

 採掘場近くの集落から出たアシェは今、離れた場所にある丘の上にいた。

 ここは星が良く見える。

 今まで、集落から出る事がなかったアシェにとって、この日の夜空は、美しいと共にこれからへの不安を与えるものだった。

 先が見えない。

 そもそも、魔剣の望みをどう叶えるべきなのかすら分からない状態の中、とりあえず誰も巻き込まないため集落を出た。

 見切り発車も良いところだ。


「これから……どうしたらいいんだろう……」


 魔剣は、沈黙したまま大人しくアシェの背中に背負われている。

 急場しのぎで用意した古布と縄でそれっぽく隠したが、果たしてどこまで誤魔化せているかは不明だ。


(本当は、鞘だっけ? あった方がいいんだろうけどなぁ……僕は今まで剣に触れた事がないから、分からないや)


 鉱山と家、近所しか知らないアシェの周囲に、剣を持つ者などおらず、辛うじて採掘用の道具を作っている職人から聞きかじった程度だ。

 それ以外は、集落にある小さな本売り屋の主人に、簡単な文字の読み書きを教わり、少し本で知っているだけ。

 剣の種類はおろか、扱い方すら知らないのが現状だ。

 だが、それでも。

 ――この魔剣が危険なのは理解出来る。

 己の存在証明である名前を奪い失わせるなど、畏怖するいがいに無いからだ。


「とりあえず、今日はここで休もうかな……お腹空いたけれど……」


 アシェは、夜食用に渡されていた食料を、肩掛けカバンから出し、見やる。

 乾燥させた干し肉にスパイスで味付けした簡素な物と、飲み水。

 今彼の手元にあるのは、これだけだ。

 到底、遠くまで行ける食料の量ではない。先行きが不透明にもほどがある。

 アシェは、悩んだ末……干し肉をひとかじりだけして、咀嚼をゆっくりとし、空腹を誤魔化す。

 そして、一口水を飲むと、丘にある、大きな木に魔剣を横において、背中を預けて目を閉じ、休む事にした……はずだった。


 ****


「ん? あれ……? え……?」


 気づけば、アシェは見知らぬ森の中にいた。

 丘の上で眠った記憶まではあるが、こんな場所に移動した記憶はない。

 しかも、周囲には獣の死骸と思われる残骸が辺り一面に転がっており、何者かが咀嚼した跡がある。

 ――自分の口内に、血と肉の後味を感じて。


「まさか……僕が……?」


【ようやく起きたか。貴様の身体を()()借りて、食事を摂ってやったぞ? 感謝しろ】


「なっ!? そ、そんな事、僕は頼んでいない!」


 【五月蠅い。貴様に死なれると困るのだ。大人しく満たされた腹で、さっさと先を行け】


 魔剣の一方的な主張に、アシェは恐怖と怒りを感じるが、逆らう事など出来ず……胃の不快感を抱えながら森の中を歩き始めた。

 まずは、ここがどこら辺なのかを把握しなければならない。

 それに……魔剣が他に何かしていないかも確認したい。

 前途多難。

 そして、希望が見えない中での旅だと再認識しながら……アシェは進む。

 暗闇の中で彷徨う亡霊のように、虚ろな瞳をしながら――

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