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プロローグ

 あの日、何故僕はあんな奥地に行ってしまったのだろうか。

 ――後悔だけが胸にずっと巣くっている。


 ****


 辺境地、某所寒冷地帯。

 ここは、飛空艇等の乗り物や日常の生活でも使用されるエネルギー物質、スルツニウムの採掘場だ。

 そこで採掘屋として生計を立てている両親の手伝いをしながら、飛空艇乗りを夢見る少年がいた。

 名をアシェという彼は、退屈な採掘をしながら、いつか空を飛ぶ事が目標であり、希望だった。

 そう。

 ――希望、だった。


 ****


 その日は、スルツニウムの採掘があまり捗らなくて、このままでは今日の成果に支障が出ると思ったアシェは、採掘場の奥地に入る事にした。

 責任者から、あまり立ち入るなと言われていたが、採掘の成績が良くなければ意味がない。

 そう考えて、アシェは奥地に入って行った。

 それが、運命の分岐点であったとも知らずに――


(ふう、今日はこっちまで来てみたけど……悪くない選択だったな。けっこうな数のスルツニウムが採れたし)


 自身のバケツに視線を向ければ、淡白く光る鉱石……スルツニウムが何個も入っている。

 これだけあれば、しばらく生活に困らない。

 だが、欲が出たアシェは、最後にもう一度だけ採掘を行う事にし、使い慣れたピッケルを構えなおし、再度採掘を行う。

 

(あれ? 今、異音がしたような……?)


 スルツニウム鉱石の音とも違う音。

 その音のした場所を見れば、何かが埋まっているようだった。

 よく見れば、この部分だけ埋めなおした形跡がある事に気づいたアシェは、今更ながらおびえ始める。

 自分は、何か触れてはいけない物に触れた気がする……と。

 だが、そのカンは当たってしまい……その異音の元から脳内に直接声が響いてきた。


【我を目覚めさせし者よ。名をよこせ】


 いきなりの要求に、恐怖を覚える。

 というのも、この世界においては、名前というのは実に重要な物として教育される。自身を表す、いや、この世界に存在を許す大切な概念であると。

 つまり、名を渡すという事は、自分の存在を渡す……つまり、存在しなくなる。

 端的に言えば、死ぬという事である。

 それを理解しているからこその、怯えであり、恐怖。

 

【名をよこさぬなら、我と契約するか? 力を得られるぞ?】


 この存在が言う力とはなんなのか理解出来ないが、存在を奪われるよりマシだと考えたアシェは、その話に乗るしかなかった。


「わかった……わかったから! 契約って、何を望むんだ!」


【我が望むは、我が名を知ること。俗称を名失せの魔剣と呼ばれている我だが、真の名を知らぬ。故に、その名を知りたい】


「名失せの魔剣……? 聞いた事もない剣の名だけれど……どういう力を?」


 嫌な予感を再び感じながらも、アシェは尋ねる。返ってきた答えは、絶句せざるを得ないものだったが。


【我は、名を知り、奪う事で、その者をこの世界から抹消させる事が出来る魔剣なりて】


 ――それから、魔剣は勝手に埋められていた所から出てきて、アシェの前に全容を現した。

 すべてが漆黒の両刃の大剣。

 その禍々しさに、自分の愚かさを呪ったアシェだったが……もう手遅れ。

 運命は、動き出してしまったのだから――

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