ユージェニーとのお茶
本日も2話投稿しています。
誤字報告をありがとうございます、修正しております。
「エディス様!」
ティールームの奥まった席から小さく手を振るユージェニーの姿を見付けて、エディスはほっとして彼女に手を振り返した。ユージェニーからの手紙に、エディスがお茶の誘いを受ける旨の返信をしたためてから、彼女に提案された場所は、王都でも人気のティールームだった。高級店としても有名なところだ。
明るいざわめきで満たされた店内を案内されて、エディスがユージェニーのついているテーブルに辿り着くと、そこは他の客の視界には入りづらいものの、庭に面した大きな窓から緑がよく見える、居心地のよい席だった。指定の時間より早めに着いたエディスだったけれど、ユージェニーはさらに早くから彼女を待っていたようだった。
「本日はお時間をくださって、どうもありがとうございます。エディス様」
にっこりと微笑んだユージェニーに向かって、エディスも笑みを返した。
「ユージェニー様、こちらこそ、今日はお誘いくださりありがとうございます。お待たせしてしまい、申し訳ありません」
「いえ、私が早く着いてしまっただけですから。私、エディス様とお話しできるのを、とても楽しみにしていたのです」
言葉通り嬉しそうな様子のユージェニーに、エディスは笑みを深めてから、貴族と思しき多くの人々で賑わうティールームを見回した。
「ここは人気で予約が難しいと言われているお店ですよね。席を取ってくださって、ありがとうございました。ここにはよくいらっしゃるのですか?」
「ええ、それなりには。馴染みでもあるので、席は融通してもらえました。……私がエディス様を家にお招きするのではなくて、この店をご提案したのは、二人きりでゆっくりお話ししたかったからなのです。家だとどうしても、両親や使用人の目もありますから」
エディスは、ユージェニーの両親の顔を思い浮かべながら、彼女の言葉に頷いた。ちょうど、その時注文を取りに来た店員に、ユージェニーとエディスがお茶とケーキの注文を終えると、ユージェニーは少し目を伏せて、エディスに尋ねた。
「ライオネル様のお身体の具合は、その後いかがですか?」
「ええ、順調に快方に向かわれていますよ。まだ、元の通りの生活とまではいきませんが、かなり回復の兆しが見えていると、そうお医者様には伺っています」
「……そうでしたか」
エディスの言葉に、ユージェニーはほっとした様子で微笑むと、エディスの瞳をじっと見つめた。
「エディス様。私がクレイグ様と婚約することになった経緯はご存知でしょうか?」
「……ええ」
エディスは、どう答えたものかと思案しながら口を開いた。
「クレイグ様からは、彼がユージェニー様のことを想っていらして、それでクレイグ様とユージェニー様が婚約することになったと、そう伺っています」
「クレイグ様が、そのようなことを……?」
ユージェニーは、驚いたようにその大きな瞳を見開いた。
「その……ライオネル様と私のことも、何か聞いていらっしゃいますか?」
「そうですね。……当初はライオネル様とユージェニー様との間で婚約が予定されていたのが、その後ライオネル様が体調を崩されたことと、クレイグ様のお気持ちもあり、ユージェニー様はクレイグ様と婚約なさることになったと、そのような話を耳にしておりますが」
「それだけ、でしょうか」
不安気にどこか緊張の色を滲ませたユージェニーに、エディスは頷いた。
「ええ、ユージェニー様とクレイグ様のご婚約の経緯については、私が伺っているのは概ねそんなところです」
慎重に言葉を選びながら答えたエディスに、ユージェニーは瞳を少し潤ませた。
「ライオネル様もクレイグ様も、本当に品の良い、優しい方たちですわね。……クレイグ様は、具体的には何と仰っていらしたのか、教えていただいても?」
困惑しつつも、エディスは、真っ直ぐにじっと彼女を見つめるユージェニーの瞳に白旗を上げた。
「クレイグ様は、ユージェニー様にずっと横恋慕していらしたのだと。そして、ライオネル様が病に倒れて悲しんでいらっしゃるユージェニー様の姿を前にして、それまで秘めていた想いを告げてしまった、悪いのは全てご自分だと、そう仰っていました」
「……!」
ユージェニーの瞳から、堪え切れずぽろりと一粒の涙が零れ落ちた。
「それは、真実ではありませんわ」
「……えっ?」
思わず目を瞬いたエディスに向かって、ユージェニーはハンカチで瞳をそっと押さえてから、呟くように続けた。
「ライオネル様が病に臥せってから、私が彼を見舞いに訪れた時、クレイグ様が私に仰っていたのは、違う言葉でしたわ。『どうか、兄さんの側で支えてやってほしい。兄さんは、今まで経験したことのない程の苦境の中にいるのだから』と。……クレイグ様の言葉は、私を庇うための嘘ですわ」
エディスは、言葉を失ったまま、こくりと小さく唾を飲み込んだ。




