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いざ文化祭! ①

「さて、始まりましたわね」

「ですね。開会式とかないんでちょっと実感に欠けますけど。さて、どんくらい人来ますかね……」


 文化祭当日。“それでは、ただいまの時間をもって文化祭を開始いたします”というちょっと味気ない校内放送を合図に、いよいよ文化祭が幕を開けた。といっても、その瞬間に写真展に人が入ってくる、なんてことはない。まあ、文化祭の企画の中でもどちらかと言うと地味な部類に入る企画なのは自分たちでも分かってたので、この現状は十分織り込み済みだ。


「まあ、しばらくは暇でしょうし、センパイ方は他の企画見て来ていいですよ? 店番はアタシがやっておきますから」

「その申し出は嬉しいけど……。流石にほたるちゃんを一人にするのは悪いよ」

「そうですわね。人が来たら一人では大変でしょうし、来なかったとしてもそれはそれで一人では退屈でしょうし。ワタクシも残りますわ。クリスとアキラはゆっくりデートでもしてきなさいな」

「いいの? ……じゃあ、お言葉に甘えちゃおっかな。あっくんもそれでいい?」


 正直、ここで写真展の客入りを見ていたい気持ちもあるけど、同じくらいクリスと二人で色々と見て回りたい気持ちもある。……つまり、とても悩ましい。でもまあ、八橋さんもイネスさんも言外に“こっちは任せて”オーラを出してるので、甘えてしまった方がいいだろう。


「うん。じゃあここはお願いするね、イネスさん、八橋さん」

「ええ、お任せくださいな」

「そもそも、あんまりやることないですしねー。ま、お二人とも楽しんできてくださいね」


 という訳で、早速クリスと二人で文化祭を見て回ることになったのだった。


 *


「さて、行きましょうか。どこか面白そうな企画はありますか、晃?」


 一応言っておくと、この台詞はクリスが発したものだ。


 当然ながら、文化祭には学校生徒が多数参加している。まあ、この学校の中でも特にお金持ちな家の生まれの生徒が多く在籍する特別コースの生徒なんかは、“学校の文化祭なんてつまらない”という思考の人も多いので、参加していない生徒もそれなりにはいるけど。でもそれ以外の普通コースに在籍している人達はほとんど参加して楽しんでいるし、それにクリスやイネスさんみたいに特別コースの生徒でも参加している生徒がいない訳じゃない。まあつまりは……、


(その……、ごめんね。せっかくのデート気分が台無しになっちゃって)

(しょうがないって。……ちょっと残念ではあるけどさ)


 今の小声のやり取りの通り、今のクリスは所謂お嬢様モードにならざるを得ない、という訳なのだ。仕方ないとはいえ、やっぱり少し残念ではある。それにクリス自身もこのお嬢様モードだと性格や趣味嗜好を偽らないといけないこともあってかなり疲れるらしいし。それでも、普段学校では放課後の部室くらいでしか一緒にいられない俺達にとって、貴重な時間であることには変わりない。


「では……、まずは講堂に行ってみてはどうでしょうか。なんでも有志によるバンドの演奏があるとのことですよ」

「なるほど、それは少し興味がありますね。行きましょうか、晃」


 冷たい表情で、周りを一切気にも留めずにツカツカと歩いていくクリス。それでも、ほんの一瞬だけ表情が緩んだのを俺は見逃さなかった。多分、俺やイネスさんくらいに長い付き合いがないと分からないような、ほんの些細な表情の変化でしかない。でも、そんな些細な変化で、クリスは俺に“ちゃんと楽しいよ”と教えてくれたのだ。


 *


「ふぅ、中々いい演奏でしたね。さて、次はどこに行きましょうか」


 講堂でライブを楽しんだクリスは、ケロッとした顔でそう言った。……対する俺は周りに従者として見られているからと必死に取り繕ってはいるものの、内心ヘロヘロだった。それほどまでに、講堂でのバンドの演奏が凄まじかったのだ。もちろんテレビやネットで見聞きするようなプロには演奏や歌の上手さは敵わないかもしれないけれど、それを補って余りあるほどの熱量があった。そして俺はその熱量にあてられて、思いっきり体力を消耗してしまったのだ。いい体験だったし楽しかったけど、疲れた……。


「あら、随分疲れてるわね。……少し休憩しましょうか?」

「いえ、大丈夫です、お嬢様。出店を出している所にでも行ってみるのはどうでしょうか。そこそこいい時間ですし、昼食を探してみてはどうでしょう」


 流石はクリス、取り繕っていても簡単に見抜かれてしまった。しかし、本当にクリスは体力お化けだな……。講堂から出て来た生徒たちは皆少なからず体力を消耗しているように見えるのに、クリスにはそれが一切ない。


「そうですね。では行きますか。……焼きそばがあると嬉しいのですが」

「恐らくあるでしょうね。定番中の定番ですから。……ただその、今の発言はあまりよくないかと」

「……そうでしょうか?」

「ええ。周りを見てください、皆様ギョッとされてます」


 世界的に有名な巨大グループの社長令嬢というだけあって、クリスは学校内でもかなり有名だ。そんなクリスが“焼きそばが食べたい”なんて庶民的なことを平然と言ったものだから周りの生徒達は皆一様に信じられないと言った表情をしている。……気持ちは分からなくもないけど、皆ちょっと露骨すぎない? クリスだって普通の女の子なんですよ……。いや、普通の女の子だと思われたらいけないのは分かってるんだけど、そう思わずにはいられない反応だった。


(いつか、クリスが普通にしてても受け入れてくれるようになって欲しいな……)


 ――叶って欲しい、でも簡単には叶わないであろう、そんな俺の願い。いつもいつも思ってることではあるけれど、今日はより一層強く思わずにはいられなかった。

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