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ガールズ・トークⅥ

 都会の外れ、静かでおしゃれな高級住宅街の片隅にある小さな喫茶店。そこでワタクシはホタルを連れてゆったりとホットコーヒーを飲みながら、まだ学校の部室にいるであろうクリスのことを考えていた。


「はぁ……。クリスは大丈夫ですかね……」

「大丈夫じゃないです? 晃センパイも隠し事してることには気づいてはいるでしょうし」

「どうでしょう。アキラも大概ニブいところがありますからね」


 あの二人の鈍感さに振り回された身なので、少し気がかりではある。ただ最近のアキラはクリスのことに関しては以前よりもかなり鋭くなっている気はする。正式に恋人となったことで今まで見えてなかった部分も見えるようになったのでしょうか?


「にしても、クリスセンパイは晃センパイになにを隠してるんですかね?」

「一応ワタクシは少し前に相談されたので内容も知ってはいますが……。まあ、ホタルなら大丈夫でしょう」


 ホタルは秘密を守る子だ。新聞部だった頃は違ったのかもしれないけれど、少なくともワタクシの知るホタルはそういう子だ。


「ええ、もちろん秘密はばらしたりしませんって。アタシだってセンパイ方に嫌われたくないですしねー」

「その言い方ですと、嫌われてもかまわない人の秘密なら言いふらすと言ってるように聞こえるのですが……」

「あはは、まあその……否定はしないです」


 バツの悪そうな苦笑を浮かべながらそう呟くホタル。確かにクリスの話では昔のホタルはそういう子な側面もあったらしいので、そのことを言っているんだろう。まあワタクシにとってのホタルはそういう子ではないし、別に気にしないけれど。


「これをクリスに相談されたのは、ちょうど一週間前でしたわ――」


 *


「あら、どうしたのです? こんな朝早くに」


 この時の時間は早朝の朝6時。朝が弱いはずのクリスこんな時間に電話をかけてくるなんて初めてのことだったので、この時はかなり驚いた。


「あはは……。ちょっと目が覚めちゃってさ。あっくんが起こしにくるまでちょっと時間をつぶそうかなって思って、ね。……ひょっとして、この時間でも忙しかったりする?」

「一応まだヒマですわよ。今は朝のティータイム中ですわ」

「おお、朝から優雅だねぇ。流石イネス」

「どの辺りが流石、なんだか。――で、どんな用件なんですの?」


 いくらいつもより早く目が覚めたからといって、学校もある平日の朝になんの用事もなく電話なんてかけてこないはず。そう思って単刀直入に用件を聞いてみると――


「あはは、やっぱりイネスは鋭いね。……その、ちょっと相談に乗ってほしくてさ。できればあっくんには聞かれたくないの」


 案の定だった。にしても、クリスの方から相談とは珍しい。


「それでアキラが忙しく仕事をしているこの時間にかけたのですね……。ま、いいですわ。どんな相談なんですの? いえ、十中八九アキラとのことなんでしょうが……。まさか、喧嘩でもしましたか?」


 わざわざ早起きしてまでワタクシに相談している訳だし、そこまでの一大事でもおかしくはない。あの超が何個ついても足りないレベルのラブラブカップルな二人でも、ふとした勘違いやすれ違いで喧嘩になることはあるだろうし……。


「喧嘩? あはは、まさかまさか。あっくんと喧嘩するくらいなら死んだほうがましだって」

「それはまた極端ですわね……。まあ、違うなら良かったですわ」


 まあ、流石にそれはそうか。でも、この二人の喧嘩なんて見たくもないので、内心かなりホッとした。


「その……さ。例えばの話だけど、イネスは許嫁さんと“デートしたい”って思ったりする?」

「またなかなか突飛な質問ですわね……。まあ、したいですわよ、もちろん」


 まあ、レオン様は多忙なお方なのであまりそんなわがままを言う訳にもいかないが。それでも、やはりしたいものはしたい。


「そっか。やっぱりそうだよね……」

「クリスも、アキラとデートしたいと思っているのですか?」

「い、いいいや? そそっ、そんなわけないじゃんん?」

「……はいはい。というか、恋人とデートしたくない人なんているわけないじゃないですか。無理に嘘つかなくていいですわよ?」


 流石に露骨すぎたので分かってしまった。……おおかた、アキラをデートに誘いたいけれど、どうしたらいいか分からない、といったところだろう。


「あはは、そっか……。でも、あっくんは全然そんな素振りないからさ。なんとなく言いづらくって」

「我慢してるだけですわよ。あのアキラのことですから、言ったら迷惑かけるとでも思っているのでしょう」


 少なくともデートしたくないとは思ってないはず。現に夏休みに軽井沢でクリスとデートした時だって、とても楽しそうにしていたし。


「アキラだって年頃の男子ですもの。人並みにそういった欲はあるはずですわ」

「そうかなぁ……」

「ええ。というか、誘ってみればいいではないですか。安心なさい、間違っても断られるなんてないですから」


 *


「――とまあ、こんな感じのやり取りをしたのです」

「なるほど……。なんというか本当、あの二人は相変わらずのバカップルですね……」

「まったくです。振り回されるこっちの身にもなって欲しいですわ」


 あそこまで互いにどっぷり惚れてるくせに、いまだに妙な遠慮があるのがまたなんともあの二人らしい。見ているこっちは歯がゆいことこの上ないが。


「でも、振り回されなくなったらそれはそれで心配じゃないです?」

「確かに、なにかあったのではと勘ぐってしまいそうですわね……」


 もしもいきなりワタクシたちを全く振り回さなくなったら真っ先に破局を疑うだろう。


「「はぁ……」」


 ワタクシとホタルのため息が重なる。ワタクシとホタルのため息が重なる。そして、どちらからともなく苦笑しあう。振り回される側同士、なにかが通じ合った瞬間だった。


「ま、愚痴はこの辺にしてお菓子でも食べましょっ、センパイ」

「そうですわね。さて、どれを頼みますかね――」


 そうして注文した美味しいコーヒーや様々なお菓子、そして振り回される側の苦労を分かち合いながら、ワタクシたちの放課後の楽しいひと時は足早に過ぎていくのだった。


 ――しかしクリスは、果たしてちゃんと上手くやっているのでしょうか……?


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