花火舞う夜空の下で、想いは衝動へ変わる
「いやー、食べたねー!」
「……主にクリスが、ね」
「いやー、こういう食べ物食べるの久しぶりで。つい、ね」
……でも、いくら二人で分けたとはいえ祭りの出店で1万円以上溶かすのは流石に食いすぎだと思う。半分以上クリスが食べたし。そんなに食いしん坊キャラじゃなかったはずだけど。
「でも、そんだけ食ってその体型だもんなぁ……」
クリスの体型は至って健全……どころか超高水準だ。多分このままどっかのランウェイに行ったとしても、問題なく通用するだろうというレベルだ。
「食べたら食べた分だけキッチリ運動してますから」
「さすがの努力家だな……」
そういう見えない部分での努力が出来るのはクリスの魅力の一つだと思う。俺はそういうのさぼりがちなタイプだし。
「あっくんだって十分に努力家じゃん。夜中に料理の特訓したりしてたし」
「仕事だからね、それが。……ていうか、見てたんだ」
間宮さんにもバレてないというのに。いや、ひょっとしたらバレたうえで黙っててくれてるのかもしれないけど。ともあれまさかクリスに見られてるとは思ってなかった。
「まあね。というか、なんだかんだ十年ものの幼馴染ですから。私に隠し事が通用すると思わないでよね?」
「……おみそれしました」
自信満々だ。……ひょっとして、俺の気持ちもとっくにバレてるのかな。それだけは隠し通したいんだけど。気になってしまい、ついついクリスの目をじっと見つめてしまう。でも、やっぱり表情からはなにも読み取れない。バレてしまっているようにも思えるし、逆に一切気付いてないようにも思える。……やっぱり隠し事なんて、簡単には分からないな。
「……? どしたの、あっくん?」
じっと顔を見てれば、そりゃあ目が合う訳で。俺の視線に気づいたクリスに怪訝な目で見られてしまった。
「いや、なんにもないよ。……そ、そろそろ花火上がるし、移動する?」
「……変なあっくん。――ま、そうだね。そろそろ行こっか」
……やっぱり、全部バレてる気がしてきた。
*
「お、この辺よさそうだね」
そう言って腰を下ろしたのは会場のすぐ近くにある小さな丘の上。上りの勾配が少しキツいせいか、あまり人はいない。……というか、今俺とクリスがいるベンチの周りには誰もいなかった。まさに特等席といった感じだ。
「はぁっ……はぁっ……ついた、か……」
「あはは、大丈夫?」
「まあ、なんとか……。クリスは……大丈夫そうだね」
「言ったでしょ、ちゃんと運動してるって。あっくんはもうちょっと鍛えた方がいいかもね」
クリスのペースに合わせたのもあって、俺はここまでの道のりでかなりヘロヘロだ。従者生活でだいぶ体力付いたと思ってたんだけどなぁ……。やはりクリスのように日常的に運動しないとダメなのかな。
「はいどーぞ。飲むでしょ?」
「あー、ありがと……」
クリスからスポーツドリンクの入ったペットボトルを受け取る。完全に息の上がっていた俺はその行為になんの疑問も浮かばなかった。なので特になんの意識もせず、それを一口飲む。すると途端にクリスが意地の悪い笑みを浮かべ始めた。……なぜか顔を赤くしながら。
「……ふぅ」
「ばーか、……なんてね。ははっ、あっさり騙されすぎ」
「……あ」
飲んでから気づく。……これ、さっきまでクリスが飲んでた奴だ。……つまり、間接キスだ。
「これでおあいこかな?」
「おまえなぁ……」
「嫌だった?」
「嫌では……ないけど。でも確信犯はダメだろ」
「いーじゃん、別に。さっきの仕返しだよっ。あれ、すっごい恥ずかしかったんだから」
とかなんとか言いながらも顔を真っ赤にしている。……結局、今回も一番恥ずかしがってるのはクリス本人みたいだ。
「ま、そんだけ顔を真っ赤にしてくれたし、作戦は成功かな?」
「……そんなに赤くなってる?」
「うん、すっごい真っ赤だよ。サウナにでも入ってきたみたい」
それは多分、息が上がってるせいだと思うけど……でも、それだけじゃないのはそうかもしれない。実際、今もクリスの顔をまともに見れてないし。なんだか、見てしまったら心臓が暴れてしまう気がする。そして多分、それは気のせいじゃない。
「まあまあ、こっちを飲んで気を直してくださいな」
そういって渡してきたのは俺の手にあるものと同じスポーツドリンク。でもどうやら、まだ未開封のもののようだ。
「最初からそっちを渡してほしかったなぁ」
「それじゃ仕返しできないもん」
「そんなに仕返ししたかったのかよ……」
まあ、俺も相当恥ずかしいし、仕返し自体は成功してるけど。……でも、もうちょっと躊躇ってもいいんじゃない?
*
ベンチに二人並んで腰かけ、花火の上がる時間を待つ。……無言の時間が少しつらい。なにせ隣にいるのは自分の初恋の女の子にして今も恋患いをしている相手なのだから。そんな相手とお互いの体が接触してしまうレベルで密着していたら、それはドキドキと心臓が高鳴ってしまうのは仕方ないだろう。
「そろそろ、かな?」
「えっと……もうあと3分で予定の時間だな」
「そっか。……じゃあ、そろそろ、だね」
「……まあ、そうだね……?」
なんか雰囲気がいつもと違う……気がする。なんというか、決意に満ちた表情をしている。まるで、今から一世一代の大勝負にでるかのような――
「ほんとはもっと前に、それこそ二人でりんご飴食べてる時くらいに言うつもりだったんだけど。……まあ、まだ花火上がってないし、ギリギリセーフかな?」
「……?」
「キョトンとしちゃって、もう。……ほんっと鈍いんだから」
決意に満ちた表情に、徐々に赤みが差していく。……え、え? なに、どういうこと?
「ま、いいけど。そこがあっくんのあっくんたる所以の一つだと思うし」
「……えっと、何がどういう……」
「ま、簡単に行動で表すとさ。――こういうことっ」
クリスに顔をガッと掴まれる。そしてグイッと勢いよく横に回され、クリスと正面から目が合う形にさせられた。
ほぼ同時に、突如として周囲に轟音が響き始めた。……花火の上がる音だ。その音と光の咲き誇る中で、まるでそれらに背中を押されたかのようにクリスの顔がこちらに近づいてきて、そして――
「……んっ」
「ちょっ、クリスっ……?」
――俺とクリスの、唇が重なった。




