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クリスマスイブの夜①

「すまないね、皆。思ったよりも遅くなってしまった」


 時刻は19時過ぎ。ついにこの別荘にレオンさんが現れた。申し訳なさそうなそんな謝罪の言葉ですら絵になってしまうレベルのルックスとスタイル、そして仕草。さすがフランス貴族、といった所だ。あまりにも何もかもが凄すぎて、謝られてるはずのこっちが萎縮してしまいそうだ。


「もう、ああなることくらい想定しておいて欲しいですわ。……でも、大変でしたわね。お疲れ様ですわ」


 普段のキリッとした目つきは完全になりを潜め、満面の笑みを浮かべるイネスさん。こんな可愛らしい笑顔を惜しげもなく向けられるなんて、レオンさんは幸せ者だなぁ……、なんて思ってしまうくらいの満面の笑みだ。


「いやぁ、イネスセンパイってばこんな可愛い表情するんですねぇ……」


 八橋さんがからかい半分な口調でそうイネスさんに茶々を入れる。案の定、イネスさんの顔は一瞬で真っ赤になってしまった。


「もっ、もうっ。ホタルったらっ。からかうのはナシですわっ」

「ははっ、仲良くしてるみたいで安心したよ。――改めてこんばんは、皆。知ってる人もいるけれど、一応自己紹介はしておこうかな?」


 顔を真っ赤にしているイネスさんに優しく笑いかけてから、レオンさんは俺たちの方へ向き直った。自然と目が合ったけど、やっぱり凄い迫力だ。眩しくて直視するのすら躊躇ってしまいそうになる。そんな俺の緊張をよそに、クリスと八橋さんは全く臆した様子はない。皆なかなか大物だなぁ……。それとも、俺が緊張しすぎなだけなのかな?


「僕はレオン・ブルゴーニュ。これでも一応は貴族の一員さ。……後はまあ、イネスの許嫁でもある。今日はよろしく頼むよ」


 *


「さて、これでメンバーも揃ったことですし早速パーティーを初めますわよっ。ほら皆さん早く席についてくださいなっ」


 明らかに浮足立っているイネスさんにそうせかされて、俺たちは広間へとやってきた。クリスマスらしいメニューがテーブル一杯に置かれていて、パーティー会場らしい雰囲気を醸し出している。広間自体も様々な飾り付けがされていて、端には大きなクリスマスツリーが鎮座している。……これを間宮さんとナタリアさんの二人で準備したというのだから驚きだ。


「お待ちしておりました、レオン様。……お久しぶりでございます」

「やあ、ナタリア。しばらくぶりだね」


 レオンさんと挨拶を交わすナタリアさんの表情に、いつもと違うなにかを感じる。いつも通りの無表情に見えるけど、よく見ると口元がいつもよりきつく結ばれているような……。ひょっとして、レオンさんのことが苦手なのかな?


「へぇ、面白いですね、これは」

「……八橋さん?」

「晃センパイも気づきました? ナタリアさんってば、そういうことだったんですねー」


 八橋さんはどうやらナタリアさんの表情の変化の理由にまで気づいた様子。一方クリスは表情にすら気づいてる様子はなく、ナタリアさん隣にいる間宮さんとテーブルの上のメニューについて楽しそうに話していた。


「いや、表情にはなんとなく気づいたけど……。八橋さんはその理由まで分かったの?」

「まあ、なんとなくですけどね。……アタシも同じなんで、気づいちゃうんですよ」

「……えっと、つまりどういう……?」


 八橋さんと同じって、どういうことなんだろう……?


「内緒ですっ。ホント鈍いんですから、ははっ」


 久しぶりに聞いたその台詞で、逆に少し分かってしまった。……具体的なことまでは分からないけど、どうやら色恋絡みなのは間違いなさそうだ。


「……気になるなぁ」


 色々気になるけど……、まあ今はいいか。とりあえずは、皆でこのクリスマスパーティーを楽しもう。


 *


「ふふっ、さあ思いっきり楽しみますわよっ!」


 ハイテンションでそんなことを言いつつも、食べる仕草は実に優雅なイネスさん。そしてそんなイネスさんを見つめるレオンさん。……なるほど、これは相当なラブラブっぷりだ。


「イネスセンパイ視点の話しか聞いてなかったんで知らなかったですけど……。どうやら、レオンさんも滅茶苦茶イネスセンパイ大好きみたいですね、これは」

「あはは……。あんなに熱い視線でイネスのこと見つめてるもんね。……私たちの話に気付きもしないで」


 八橋さんとクリスはそんな許嫁カップルの様子をガッツリ見てニヤニヤしている。それでもなお、レオンさんは俺たちの視線に気づく様子はない。……ひょっとして、レオンさんは意外と鈍い所があるのかもしれない。


「イネスセンパイも楽しそうですねぇ……。久々に会ったって言ってましたし、嬉しくて仕方ないんでしょうけど」

「まあ、それは仕方ないんじゃないかな。遠距離恋愛な訳だし。私だったら絶対耐えられないもん」

「まあ……、クリスセンパイと晃センパイは無理でしょうね……」


 一転して八橋さんからニヤニヤとした視線を向けられる俺とクリス。……まあ、俺もクリスと離れ離れになるのに耐えられる気はしないけど。


「ふふっ、ホントお似合いカップルですねー。二組ともに言えますけど」


 八橋さんのやれやれといった感じのそんな呟きは、唐突なイネスさんの声に遮られ俺の耳には届かなかった。


「ほら、そろそろプレゼント交換もしますわよっ。クリスたちももっと盛り上がりなさいなっ」

「分かってるってっ! ほらっ、あっくんたちもこっち来て話そうよっ」


 そんな終始ハイテンションなイネスさんとクリスのペースで、クリスマスパーティーの楽しい時間は足早に過ぎていくのだった――

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