クリス×ホットワイン=?
「ふぅ、到着ですわ。……少し遅くなってしまいましたわね」
「まあ、クリスが寝ちゃったからね……」
クリスマスマーケットを一通り楽しんだ俺たちは、今回の宿泊地であるイネスさんの家の別荘に来ていた。今イネスさんが言ったとおり、今の時間は既に午後22時を回っている。本当なら一時間前にはついている予定だったけれど、疲れからかクリスが寝てしまったのだ。……というか、今も寝ている。
「すぅ……」
「あははっ、びっくりするくらいに熟睡してますね、クリスセンパイ。よっぽど晃センパイの背中が寝心地良かったんですかね?」
「まあ、恋人の背中ですからね。心地良くて当たり前でしょう」
……最近、こんな感じの恋人イジリが増えてきた気がする。別に悪意を持って言ってるつもりはないんだろうけど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。
「で、どうします? 一回起こしますか?」
「いや、俺がこのまま部屋まで連れてくよ。せっかく熟睡してるのに、起こしたら悪いし」
「分かりましたわ。クリスの部屋まで案内しますわね」
そう言って、イネスさんについていこうとしたその時――
「おかえりなさいませ。少々遅かったので、心配しておりました」
言葉通りの感情とはとても思えない無表情なナタリアさんと、
「おや、おかえりなさいませ、皆さん。……ふふっ、お嬢様は案の定、という感じですね」
クリスが寝ていると気づいて、小さく口元に笑みを浮かべた間宮さんの二人が玄関に現れた。
「ええ、ただいま戻りましたわ。……ナタリア、クリスとアキラをクリスの部屋まで案内してくださる?」
「かしこまりました。……ただその、よろしいのですか?」
どうやら、部屋までの案内役をナタリアさんに任せることにしたようだ。まあ、お嬢様であるイネスさん自身がやることじゃないのは確かだし、メイドに任せるのは至って自然なことだ。ただそうなると、ナタリアさんの発言はどういう意味なのだろう?
「大丈夫ですわよ。この二人なら間違いは起きないでしょうから。……まあ、仮に間違ってもワタクシは構いませんけど」
……ああ、そういうことね。イネスさんは俺とクリスの理性を信頼してくれてるみたいだけど……、実は俺としては割とギリギリなのは言わないでおこう。言ったらナタリアさんにこの別荘から追い出されかねない。
「分かりました。……では、こちらです」
やっぱり無表情なナタリアさん。……うーん、やっぱりよく分からない人だ。人に仕える仕事をしている者同士だし、仲良くさせてもらいたいんだけどな。
*
「では、こちらがクリス様のお部屋になります。――ごゆっくり」
「あ、ありがとうございます」
……いや、ゆっくりする気はないけど。クリスをベッドに寝かせたらすぐに退散するつもりだけど。という俺の心の声をよそに、ナタリアさんにはさっさと元来た道を戻っていってしまった。
「……とりあえず入るか」
廊下にずっといたら流石に冷えるし。ということで、一度深呼吸をしてから部屋のドアを開けて中に入った。
「へぇ、流石に結構広いんだな……」
流石はフランス貴族の所有する別荘ということなのか、星之宮家のクリスの部屋と大差ない広さを備えていた。普通の一軒家では、この広さの部屋はリビングダイニングくらいのものだろう。
「よいしょ、っと……」
優しく、ゆっくりとベッドにクリスを寝かせる。……よいしょ、なんて声をだしてはいるけど、重いとはまったく感じなかった。
「じゃ、一旦広間に戻るかな」
イネスさんと八橋さんは広間で少しゆっくりしてから部屋に戻る、って言ってたし。俺も一旦合流しようかな、と思っていたその時――
「あえ……? あっくん……?」
どうやら、クリスが目を覚ましたらしい。
「ははっ、起きちゃったか。イネスさんの別荘に着いたよ。もう遅いし、寝てていいけど……」
とまあ、とりあえず状況説明をしようとしたのだが……、
「えへへ……、やっぱりあっくんだぁ……! えいっ」
「おわっ! ……どうしたの?」
いつもと違う怪しいテンションでいきなり抱き着いてきた。注意して様子を見てみると、頬が赤く染まっているし、足も若干フラフラしている。これは、まさか――
「ひょっとして、酔ってる?」
「やらなぁ、酔ってる訳ないじゃーん。お酒なんて飲んでないんだしー」
「いやまあ、それはそうなんだけど……」
でも、その若干呂律が回ってない感じといい、妙なテンションといい、完全にお酒に酔った人の行動のソレだ。
「もしかして、あのホットワインで……?」
「まっさかー」
クリスはこう言ってるけど、あれしか原因は考えられない。でもアレ、しっかりアルコールは飛んでるはずなんだけど……。ひょっとしたら、クリスはとんでもなく酒に弱いタイプなのかもしれない……。
「ねえ、あっくん」
「……なに?」
急に真面目なトーンで呼びかけてきたクリス。ひょっとして、酔いが覚めたのかな……?
「私、あっくんと一緒に寝たいなぁ……」
いや、全然覚めてなかった。というか、とんでもない爆弾発言をされた気がする。
「いっ、いやいやいやっ! 一緒に、って流石にそういう訳には……」
「い、嫌なの……?」
「そ、そういう訳じゃなくって……」
泣きそうな声でそんなこと言わないでくれよ……。否定できないじゃないか……。
「じゃあいいじゃん。――それっ」
「ちょっ、クリスっ!? うわぁっ!?」
かくして、クリスに思いっきり抱き着かれ身動きが取れなくなってしまった俺は、その体制のまま、ベッドの中でクリスと密着しながら過ごすこととなってしまったのだった――




