料理スキル
◆柊木春香◆
休日、ご飯やお弁当をいつも作ってもらっているお礼に、と、誠治君が夕食を作ってくれた。
手際は、あたしが見る限りかなりよくて、淡々と調理を進めていった。
出されたのは、サラダとパスタとスープ。なんだか、カフェのランチセットで出てきそうな組み合わせで、あたしとしてはとても嬉しかったのだけど、それと同時に、あまり嬉しくないこともあった。
フォークにパスタを絡めてひと口いただく。
「どう? 割と自信あるんだけど」
お、美味しい……! 一瞬カフェに来ちゃったのかと思ったよ。
「うん。美味しいよ」
よかった、とにこりと笑って誠治君も食べはじめる。
料理が美味しいことに文句はないけど、個人的には、誠治君がお料理が上手ってあたり、あまり嬉しくない……。
スープも市販の物を買ってきたわけじゃなく、きちんと自分で作ったものだ。
むむむむ……。
総合的にいえば、あたしのほうが上手いとは思うけど、一般レベルで考えれば誠治君は十分な技量を持っている。
料理上手な男はモテる――。
って、あたしは思っている。
何だかんだで、ご飯を作ってもらえるっていう環境は、相手にしたらありがたいし、同時に離れがたくもある。
誠治君が他の女の人を引き寄せないか、あたしは超心配なのです。
「誠治君、こんなオシャレなお料理、どこで習ったの? お母さん?」
「え……それは……」
と、言いにくそうに口ごもった。
誠治君ママがこういうオシャレな料理を作るイメージはあまりない。いつも家庭科室でお昼を食べるときに見えるお弁当は、すごく家庭的なお弁当だったし。
「母さんが、最近、イタリアンに凝ってて……それで……」
ピキーン、と女の勘が発動。
違う。絶対にお母さんじゃない。
じゃあ誰だろう。
紗菜ちゃんはお料理下手だし……。だとすれば他のオンナ――――!?
そうならオシャレなご飯が作れるのも説明がつく。
「誠治君、あたしに隠していることない?」
「うえっ!? 何、なんで!? いきなり……」
慌てっぷりが怪しい……。
「なんとなーく、ね。なんとなく」
「スープも結構上手くできてるでしょ?」
「あ、うん。すっごく美味しいよ!」
「よかった」
誠治君の、この安心したような『にこり』って音が出そうな笑顔がたまらなく好き……。
サラダも上手だし、これならいくらでも野菜が食べられそう――って、話そらされた!!
あたしは誠治君のことを、実はよく知らない。
高二になってからの誠治君のことは、誰よりも詳しいと自負しているけど、去年のことや中学生のころの話は、あまり聞いたことがない。
あたしと本格的に付き合うまでに、この料理スキルを習得したって思って間違いなさそう。
「お礼に今回ご飯作ってもらったでしょ」
「え。ああ、うん」
「家でも結構料理したりするの?」
「家は母さんがいるから、勝手に食材使ったりしたら怒られるんだよ。明日使おうと思ってた肉だの卵だのって」
「あー。わかる、それ。冷蔵庫の中身は結構計算してあるからねぇ。勝手に使われるとその週の献立が若干おかしくなっちゃったりして」
「らしいねー。おんなじことを言われた」
家ではお料理をしないのに、この上手さ……?
あ、わかった!
「元カノ――!? そうなんでしょっ!? オシャレでちょっと年上のキレイなお姉さんと前付き合ってたんでしょっっっ!?」
「はあ!? 何の話だよ。その状態はむしろ今なんだけど」
そう。
あたしが、誠治君のはじめての彼女っていう保証はない。
「元カノなんかいないって。春香さんがはじめてできた彼女なのに」
あっさり保証されてしまった。
うん? その状態はむしろ今……?
「オシャレでちょっと年上のキレイなお姉さん?」
と、自分を指差してみる。
「そ、そうだよ……」
あ。照れてる。可愛い……。
こういう一面を見せられると、年下の男子って感じがしてとてもキュンとしてしまう。
普段は、あまり焦ったり動揺しないし、なんでもソツなく済ませるから余計に。
「いもしない元カノに嫉妬してごめんね」
「いいよ、別に」
元カノに教わったでもないし、家でお母さんに教わったわけでもない……。
じゃあ一体誰にいつ……?
「誠治君って、カフェ好きだったりする?」
「カフェ? いや、そんなに好きじゃないかな。コーヒーは好きだけど」
むむむ。
どこかのカフェにあるランチを真似したっていうわけじゃないのか。
「だってカフェって『オシャレなところでお茶してる私可愛い! そんな私オシャレでしょ?』って思ってる女が行くところでしょ?」
「うわ、見事な偏見だ!!」
「違うの?」
「女子は、ああいうところが好きなだけなんだよ。家具やインテリアや小物が可愛かったり、店の雰囲気がよかったりさ」
「ふうん。どうして急にカフェの話を?」
「デートするってなっても、なかなかそういうところ行けないでしょ? 好きなのかなって思って。作ってくれたご飯が、カフェに出てきそうなものだったから」
カフェが好きでもない……お料理を真似したわけでもない……。
じゃあ、この料理スキルはどこで手に入れたものなんだろう。
こっそり、調理室で練習をしてた――?
「今日のお礼って、ずっと前から考えてたの?」
「ずっとってほどでもないけど、いつもご馳走になってるし、弁当も。だからお返しにって感じかな」
どうしよう。
下手っぴなのに、あたしのために料理をずっと練習してたかと思うと、誠治君のことがもっと好きになりそう……。
もう、そういうことでいいや。
誠治君が、あたしに日ごろ感謝してくれているってことでもあるし。お料理も美味しかったし。
「どうして俺が料理できるのか、そんなに気になる?」
「え? うん……」
さっきは隠したのに、いきなりどうしたんだろう。
誠治君が真顔で、あたしをのぞきこむ。
「本当の俺は二七歳で、今の時代にはタイムリープして来てるんだ」
「……あははは、何それ。どう見ても二七歳には見えないよっ」
「そんで、料理を覚えたのは大学生のとき、イタリアンでバイトしてたからで――」
「何その、大学生のありそうな設定。あはははは」
「大学のころから一人暮らしだから、ぼちぼち料理する機会があって、それで今に至る――」
「ダイガクセーで、ヒトリグラシー。ありそぉぉぉ!」
ちょっと涙が出ていたので、指の先で目じりをぬぐった。
「はぁ。おかしかった」
「……。…………でしょ?」
あたしの好きな、にこり、と笑う顔。
ふと引っかかったことを訊いてみた。
「えっと……たいむりーぷって、何? どういう意味??」
カクン、と誠治君がうなだれた。
「そ、そっか……普通は知らないのか、こういう単語……」
それから誠治君が、タイムリープがなんなのか教えてくれて、ようやく理解できた。
自分たちの食器をシンクに運びながら、訊いてみる。
「じゃあ、そのタイムリープってやつが実在したとして、今ここにいる誠治君は二七歳なの?」
「ああ、さっきの『設定』の話? そういうことになるかな」
ジャバジャバ、と水を出して、あたしがスポンジで食器を洗い誠治君が流す。
「春香さん。……もしそうだったらどうする?」
「どうもしないけど? 誠治君は、誠治君でしょ? 違う誰かが中に入ってるなら、考えるけど」
「そっか」
そう言って、誠治君はにこりと笑った。
このあと、いつにも増してイチャイチャしたのでした。




