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高2にタイムリープした俺が、当時好きだった先生に告った結果  作者: ケンノジ


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そのまさかだ


 放課後、俺は一人で昇降口をあとにする。

 たいてい紗菜が待ってたりするけど、今日は、数学の補習授業があるとかで、先に帰ることにしたのだ。


 校門を出たところに、見慣れない小学生がいた。

 UFOみたいな黄色い安全帽を被って、赤いランドセルを背負っている。


 お兄ちゃんかお姉ちゃんを待ってるんだろう。

 なんとなーく、視線を感じるけどそれを無視して歩いていると、


「あ、あの……」


 俺? 声かけられた?

 振り返ると、やっぱりこっちを見ている。

 

「俺?」

「あの……先輩、ですか」

「…………違うけど」


 こんなちびっ子の後輩を持った覚えはない。

 俺が知っている後輩は、母校の中三までが範囲だし。


 えと、えと、とテンパりながら、ちびっ子は言う。


「真田、誠治さん、ですか」

「……そうだけど」


 うん? 何で小学生が俺のことを……。


「よかったです……」


 はぁ、とちびっ子は安堵のため息をつく。


「先輩、ボクです。柴原怜(しばはられい)です」


「………………」


 いや――――誰だよ。


 わかるでしょ、みたいな雰囲気だしてるけど、小学生に知り合いはいないぞ。


「今、二〇歳で――」

「嘘つけ。せいぜい小三くらいだろ」

「あ、そっか。高校生の先輩は、ボクのこと、知らないのか」


 何言っちゃってんだ、この子。

 早くも中二病?


 俺はしゃがんで話しかける。


「お母さんは? 家、どこかわかる? 知らないお兄さんに、いきなり話しかけちゃダメなんだぞ?」

「んもぉー! 子供扱い、しないでください」

「年相応の扱いなんだけど」


 ぽこぽこ、と叩いてくるJSをとりあえず宥めておく。


 道端でこんなことしていると、あらぬ疑いをかけられかねない。


「公園あるから、そっち行こうか」

「こ、公園……?」


 ほら、見ろ。目を輝かしてる。

 このガキんちょと何して遊んでやろうか。

 ブランコ、後ろからめちゃくちゃ押してやるぞ、この野郎。


「公園デートですか?」

「違うわ。このおませさんめ」


 俺が歩き出すと、おずおずと手を伸ばして、小指をちょんと掴まれた。

 歩幅が全然違うので、ゆっくりと歩くことにした。

 そういや、紗菜もこんなときがあったっけ……。


「先輩、なんで遠い目をしてるんですか?」

「失われた過去を偲んでるんだ」

「?」


 首を傾げられた。そりゃそうだ。

 先輩、先輩ってさっきから俺のことをそう呼ぶけど、ここらへんの小学生だとしたら、俺の母校の子供かもしれない。

 言われてみれば、OBを先輩と呼ぶのは、別におかしなことじゃない。


「先輩は、変わってないですね」

「変わってない? さっきから何の話を……」

「驚かないで、ボクの話を聞いてください」


 ボクっ子JSが真剣な顔をするので、足を止めて言葉を待った。


「――ボクは、一〇年後の未来から今タイムリープしているんです」


 ああ。道理で。


「そっか」

「驚きましたか? ボクもまだ信じられないくらいで……え――反応薄っ」


 タイムリープ……。

 まあ、やっちゃってるしな、俺。理屈は謎だけど。


 俺が全然驚かないせいで、心なしか不機嫌そうな怜ちゃん。


「ボクはですね、一〇年後の未来で先輩の後輩として、一緒にお仕事するんです」

「ん? てことは、HRGの社員ってこと?」

「ああ、いえ、正確には、アルバイトなのですけど……」


 バイト? 俺と一緒に仕事をする……?

 柴原玲??


「あれっ? どうして童貞こじらせる前の高校時代の先輩が、HRGで働くことを知ってるんですか?」

「オイ、今若干ディスっただろ」


 どうせ一〇年後も童貞でこじらせてますよ……。


「先輩は、HRGの若手有望社員で、ご令嬢のお嬢さんと噂になるくらいデキる男なんです。う、噂ですよ、噂。あくまでも」


 ニコニコ、と怜ちゃんは現代のことを教えてくれた。

 ふふん、そんなこと、俺が一番よく知っている。


 タイムリープ以前は、やる気なしダメ社員だったけどな。


「知ってるよ。怜ちゃん、自分だけがタイムリープしてると思うなよ?」

「え? ……まさか……!?」


 俺はキメ顔で言ってやった。


「そのまさかだ」

「う、うっそだぁー」

「嘘じゃねえよ!」


 これはちょっと、公園でできる話じゃないな。

 俺はこの後輩らしき怜ちゃんを家に招いた。


「せ、先輩……ぼ、ボクとゴニョゴニョする気だったんですか……?」


 頬染めながら言うんじゃねえ。

 タイムリープしてるんなら、脳内は小学生じゃないってことだ。


 本当に小学生なら、頬染めながらゴニョニョする、なんて言うとも思えない。

 これは、いよいよマジっぽいぞ。


「残念だったな。JSは守備範囲外だ。色々と込み入った話になりそうだからだよ」


 お邪魔します、と緊張気味の怜ちゃんは靴を脱いで上がる。


「先輩の実家……ボク、感激です……」

「ちゃんと靴揃えるんだ? 偉いね」


 なでなで、と思いっきり子供扱いしてやった。


「えへへへへ。やっぱり、先輩に褒めてもらうの、ボク好きです」


 ま、眩しい――純度の高い笑顔が。


 先導するように歩き、二階に上がって部屋に入れた。

 適当に出してあげたジュースをちゅー、とストローで飲む怜ちゃんに、俺は自分のことを教えた。

 何度もタイムリープして、過去と未来を変えていること。

 過去付き合うことも、大した接点もなかった憧れの女性と今付き合っているということ。


「……そういうことでしたか……だから驚かないんですね。でも、どうしてボクのことを知らないんです……?」

「悲しそうな顔するなよ」


 帰り道で予想したことを挙げた。


「過去を変えている間、未来が変わり、バイトのメンバーが多少変わった――これが一番あり得そうだ」


 俺と一緒に仕事をするバイトだとすれば、俺が名前を聞いてピンとこないわけがない。

 怜ちゃんは俺のことを先輩って呼んでいるけど、実際は部下みたいな位置関係になる。


 思えば、タイムリープが解除されたとき、家にいることが多かった。

 そして、職場環境は一切知らない。


「『俺がHRGに就職し働いている』かつ『俺が有望な社員』かつ『社内でご令嬢とのことが噂されている』ときにバイトとして出現するキャラってことか」


 だから、出会わない未来のほうが多いし、タイムリープする前は出会ってない……。


「人をゲームのレアキャラみたいに言わないでください」


 怒ったように、ぷすんと頬を膨らませた怜ちゃん。


『ご令嬢とのことが社内で噂されている』……これは、柊木ちゃんママ――愛理さんに認められたから、そうなったんだろうか。


 愛理さんは、柊木ちゃんとの交際と結婚の条件に、俺が養子か婿に来ることって言ってたっけ。

 もう一言、冗談で不穏なことを言ってたけど、それは除外しておこう。


「さっき怜ちゃん、真田誠治って呼んだよな?」

「はい……先輩の本名じゃないですか」


 てことは、まだ柊木誠治になったわけじゃないらしい。


「怜ちゃんは、どうしてかタイムリープしてるわけでしょ?」

「そうなりますね」

「目的とか、やっておきたいことはないの? せっかくもう一回小学生からやり直しできるんだし」


「それは……」


 ちらっと俺を見た怜ちゃん。

 ズズズ、と持たない間を持たせるように、ストローでジュースの残りを吸い上げた。


 俺の場合は、目的があってタイムリープしたんじゃなくて、タイムリープしたから今しかできないことをしただけだ。


 とくに思い残しがないのであれば、何をしていいのかわからないのかもしれない。


「何でわざわざ俺のところに?」

「――もっ、もう五時になるので、帰ります。せ、先輩をロリコン誘拐犯にするわけにはいかないので……」

「え? ああ、そう?」


 よいしょ、とランドセルを背負った怜ちゃんが、重さで少しヨロついた。

 ランドセルを掴んで転ばないように支えた。


「うぅ……あ、ありがとう……ございます……」


 今にして思えば、ランドセルって教科書いっぱい入ってるから重いんだよな。

 俺の小学校が変わってないなら、教科書置いて帰るのはNGだったはず。


「もう薄暗くなりはじめたし、送るよ。自転車でいいなら」

「そ、そうやって先輩はすぐ優しくする……悪い癖ですっ」


 フンス、と鼻息を荒くした怜ちゃんだったけど、なかなか出ていかない。


「帰らないの?」

「……く、空気を読めないのも、先輩の悪いところですっ」

「わかった、わかった、送って――」

「どうしてゴニョゴニョしないんですかっ」


 してほしかったのかよ。

 中身がハタチでも体は子供だからな。


「守備範囲じゃないって言っただろ」


 ぽんぽん、と頭を撫でて、自転車の鍵を掴んで部屋を出ていく。


「ほら。帰るぞ」

「うぅぅぅぅ……はい……」


 さっき帰るって言ったくせに、何で不満そうなんだよ。


「兄さん、誰か来てるのー?」


 帰ってきた紗菜が階段を上がってきた。


「ああ、この子。ちょっと送っていくわ」

「お邪魔しました」

「えっ――――――――?」


 情報量が多すぎて紗菜がフリーズした。


「小学生……? 女の子? 部屋にいた? 送る?? ……誘拐??」


 タイムリープは伏せて、あとで適当に説明しておこう。

 玄関を出て、停めてある自転車のカゴに預かったランドセルを突っ込む。


「後ろ、乗れる?」

「これくらい、乗れます……」


 ちょこん、と怜ちゃんが荷台に乗った。

 サドルに跨ると、きゅっと小さな手が俺の腰に抱きついてきた。


「?」

「後ろ……見ないでください……」


 小声でぼそぼそっと怜ちゃんは言う。


 二〇分ほど自転車を走らせ、俺はタイムリープ女児を家まで送っていった。

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