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第66話 チュートリアラー、舐めた連中に現実を教える

「はい、えー今説明したように《スキル》と《魔法》――通称|《魔技(マギ)》というのは、体内で生成された魔力を使って発現させるものです。簡単に分別すると、スキルが魔力を内へと向けて使うもの、魔法が外へ向けて使うもの、と言う感じです。さらに固有の性能を持つ《ギフト》は、その能力によってその特性も変わる、と覚えておいてもらえれば大丈夫です」


 講義中、俺は言い慣れた説明をしつつ、受講生の顔を見渡した。

 皆、基本的には耳を傾けてくれている。『噂のチュートリアラーを品定めしてやろう』というスタンスの可能性もあるが、まぁいい。

 ただ、ヴィヴィアンヌさんだけ『聞き飽きたのじゃ』と言わんばかりに大欠伸をかましている。だったらなんでいるんだっつーの。


「で、魔力運用が苦手、または遅い人などが魔技を使用する際には【魔石】を使うという選択肢もあります。が、アレはダンジョンでのみ採れる魔元素を湛えた石で、最近は需要に対して供給が追いついておらず、若干価格が高騰気味です。つまり魔石に依存してばかりいると、いつまでも生活が厳しい、なんてことになりかねません。なので、今の内から基本の魔力変換、魔力運用のトレーニングは欠かさずにしておきましょう」


 魔石に関しては、冒険者志望者だけでなくこの世界で暮らす者、皆に通ずる話でもある。

 魔元素の薄い都会では、どんどん魔石の価格は上がっていると聞く。魔元素に事欠かない辺境に暮らす受講生らにはまだ実感が湧かないだろうが、これからも魔石の需要は増え続けるだろう。

 なにせ、魔法馬車などの技術が世界中へ普及しだせば、それだけ魔石が必要とされるようになっていくのは間違いないからだ。あのような便利な道具が増えれば増えるほど、人の魔力では賄いきれなくなるのは自明の理だった。


「えー、皆さんは冒険者として生計を立てていくことを望んでいますよね? その場合、個人的なオススメは魔物討伐などはあまりせず、魔石掘りでお金を稼ぐことです。なにより安全ですし、これから魔石の値は上がっていくでしょうからね。安全に稼ぐには最高です」


 さらに続けて、ヒロカちゃんにも話した『魔石堀りのススメ』の話をすると、少しだけ講義教室がざわついた。

 んーこの反応、やっぱりみんなあれかな、一攫千金を夢見る王道冒険者野郎か、傭兵系冒険者志望の荒くれ者なのかな?


 今日の出席者は皆、ここまではきちんと話を聞いてくれていたので刺さるかなぁと思ったのだが、やはり魔石堀り志望者はいないらしい。俺的には絶対オススメだし、これ一択だと思ってるんだけどなぁ。


「おい、アイツ本当はクソ雑魚なんじゃ?」

「魔石堀り勧める講師とか、聞いたことないよ」

「こっちはお金使ってアルネストまで来たのに……」


 教室全体に、妙な失望感のような雰囲気が漂っている。

 察するに、要は『おいおい、このチュートリアラー評判倒れかよ?』といった感じのものだろう。それに対してヒロカちゃんは怪訝な顔を浮かべ、ヴィヴィアンヌさんは面白がっているのか、ニヤニヤとほくそ笑んでいる。


「すいません、なんでわざわざアルネストまであなたの講義を受けに来たのに、地味な魔石採りなんて勧められなきゃならないんでしょうか?」

「「そうだそうだ!」」


 後方に着席していた気の強そうな女性が、我慢ならんといった様子で立ち上がり言った。それに呼応し、数名の受講者が声を上げた。

 ヒロカちゃんがそれに瞬時に反応し、青筋を立てて一歩踏み込んだのが分かった。

 が、さすがに止める。こんなところで《勇者》の名に変な傷がついてもよくないし。


「はい、素晴らしい疑問ですね。えーと、まず大前提として、このチュートリアル制度自体、冒険者の安全性向上のために設けられた制度だというのは理解していますか?」

「え、まぁ……はい」


 うん、あの反応、ただ受けなくちゃいけないから受けてるってだけだな。

 チュートリアル舐めてると、マジでコロっと死ぬぞ?


「冒険者は皆さんご存じの通り、危険な仕事です。その中で()()()、魔石堀りは安全です。ですが準備を怠ったり慢心したりすれば、簡単に死にます。ただ、絶対に必要な仕事でもありますよね。今話した通り、ダンジョンで採れる魔石は今や皆さんの生活に欠かせないものだからです。で、その流通を支えてくれている存在が、皆さんが今しがた『地味だ』と馬鹿にした、魔石堀りの方々です」

「……はぁ」

「当然ですが、『魔石堀り』にだって危険はあります。ダンジョンに入るのは変わりませんからね。そうした危険を冒してでも、彼らは皆さんの生活が不自由なく続いていくようにと、魔石を採ってきてくれるわけです」

「…………」


 俺の話に対し、どこか不服そうに唇を尖らせる受講生。


「社会に必要とされていて、なおかつ大変な仕事が、どうしてふわっとしたイメージだけで地味だなんだと見下されるのか、俺には意味がわかりません。まぁ皆さんが安全とか安定を地味だと吐き捨てて、派手さだとか見栄だとか、そんなクソみたいなもんにこだわって生きていくのは勝手ですが」


 そこまで言ったタイミングで、件の受講生以外の数名も立ち上がり「なんなんだその態度は!?」だとか「チュートリアラーのくせに生意気だろッ!!」とか言い出した。

 野郎どもがズカズカと前に出てきて、俺を取り囲んできた。「謝れやゴラァ!?」と、一人が胸倉を掴んでくる。……あぁ、めんどくせ。


「チュートリアラーのくせに生意気? ほうほう、そうですか。じゃあ俺も言わせてもらいますが……地味な仕事の苦労もわからないようなヤツらが、あんまり知ったような口を利くんじゃねーよ」

「「「ッ!?」」」


 と。

 そのタイミングで、俺は悪態をついた連中全員に向けて()を向けた。

 立ち上がっていたヤツらが全員、その場にへたり込む。


 そう――絶賛特訓中の《魔眼》である。


「あ……へ……?」「な、なにが……?」「ち、力……入んない」


 狭量な視野からの謂れのない難癖をつけてきたヤツら全員が、何が起こったのかわからないまま茫然自失していた。

 俺はそいつらを無視して続ける。


「と、このように、冒険者は職業柄、無用な喧嘩や荒事に巻き込まれることが多々あります。皆さんも自衛のためのトレーニングを怠らず、かつ他人を見下したり小馬鹿にしたりしているだけの方々と目線が同じにならないよう心がけましょう」


 部屋の全員に笑顔を向け、俺は講義を締めくくった。


「ふはっ。毎度毎度こんな風に生意気な連中にお灸を据えておったら、そりゃ暴れたいだけの馬鹿が集まってくるに決まっておろうが」


 ヴィヴィアンヌさんの嫌味が聞こえてきたが、講義中だったので無視を決め込むことにした。


 はい、今日も俺の冒険者指導講習チュートリアルは平和です。



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座学だけじゃそうなるよね。イキってる子達には遠慮なくマウント取るべし! それが実力主義の冒険者の正しい流儀!
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