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第63話 エピローグ

 城での会議からさらに数日が経ち、俺たちはいよいよアルネストに戻ることとなった。オルカルバラ領の代官になるという話は、俺は丁重にお断りさせていただいた……のだが。


「じゃあ、私が代官やります! で、ユーキ先生が補佐、という形はどうでしょう?」


 咄嗟にヒロカちゃんがそう提案し、彼女が代官、俺がその補佐官としてオルカルバラ領を統治していくことと相成った。うん、有無を言わさぬ全会一致でした。


 俺としては、無知で世間知らずな自分のような人間が、統治や政治などやるべきではないと思い断ったのだが、むしろヒロカちゃんは俺みたいな人間こそ、人の生活のために色々と良いことができるんじゃないかと思い快諾すべきと思ったそうだ。


 かなり面倒でぶっちゃけやりたくなかったのだが、ヒロカちゃんが『先生は実務をやってくれればいいです、責任は私が背負いますから!』なんて言い出すもんだから、断るに断れなかった。

 さすがに教え子が責任を背負おうとしているのに、その先生が逃げ隠れしているわけにはいかない。


 さらに、これとは別で面倒そうな仕事を押し付けられた。


「我がダイトラス王国は、兼ねてより画策していた魔法騎士団を組織することとなった。主には騎士団長としてレイアリナ殿に面倒を見てもらう予定だが、ユーキ殿にもぜひとも、その指導と育成に積極的に関わってほしいと考えている」


 その場でエデンダルト王から直々に依頼されたのだが、代官補佐に加えて魔法騎士団にも関わらないといけないとかぶっちゃけマジでめんどくさい。なのでこっちは絶対に断ろうと思ったのだが……。


「誰よりも信頼できるユーキ殿がゼロから育成に関わってくれれば、我がダイトラス魔法騎士団は間違いなく安泰だと確信している。世界樹に昇ったであろう父上やセスナも、きっと安心してくれていることだろう」

「え、えぇ……」


 激イケメンな爽やかスマイルでそんなことを言われ、俺は断ることができなかった。あぁ……エデンダルト王ったら、色んなことを乗り越えて、前よりも逞しくなった感じだなぁ。遠い目。


 こういった経緯から、今後は結構な頻度でダイトラス本国に来ないといけなくなる可能性があった。はぁ、アルネストでの悠々自適な俺のスローライフが脅かされている……。


「よーし、皆荷物は漏れなく詰め込むのじゃぞ!」


 と、色々と考えて若干憂鬱になっていた俺の耳に、ヴィヴィアンヌさんの声が届く。今俺たちは、ヒロカちゃん、ヴィヴィアンヌさんを加えた三人で、出国の手続きや準備を行っているところ。

 今回の帰路はヴィヴィさんが新調した魔法馬車で帰ることとなった。爆弾などの危険物も自動で発見する装置を取り付けたらしく、安全性も増しているそうだ。


 本来であればシーシャもここに加わってもらい一緒に帰るつもりでいたのだが、彼女はどうしてかすでにダイトラスを旅立っていた。責任感の強いシーシャのことだ、仕事に穴を開け過ぎたのを悔やんで、一足先にアルネストへ戻ったのかもしれない。


 なんにせよ、今まで約束を破ったことがなかったので、珍しいこともあるものだと思った。


「アルネストに戻ったら、シーシャのことも魔法馬車に乗せてやんなくちゃ。きっと『乗り心地最高』とか言って、喜ぶと思うんだよなぁ」

「……そう、ですね」


 何気なく発した俺の言葉に、ヒロカちゃんが一瞬肩をビクリとさせた。顔色が悪く、少し血の気が引いたような表情だ。


「ヒロカちゃん、大丈夫? あんまり顔色がよくないけど」

「あ、いえ。全然大丈夫です」


 あれからずっと、ヒロカちゃんはなにか思い悩んでいる様子だが、こちらからはあまり深く聞くまいと思っている。余計なおせっかいばかり焼いていては、若者の成長を阻害する老害になってしまう場合もあると、俺自身は考えている。


 今後は俺とヒロカちゃんは協力し、オルカルバラ領の運営も担っていかなければならない。すでに世間評では、正式な勇者となったヒロカちゃんの方が、俺なんかとは比べものにならない重圧を受けることになるだろう。


 そんな中、あまり俺が世話を焼いてばかりいては、外野から『甘えている』とか謂れのないことを言われてしまうかもしれないし、彼女自身のさらなる自立と成長を阻害してしまうことにもなりかねない。


 ……ただ、彼女が助けを求めるとき、それにしっかりと応えられる人間でありたいとも思う。 


 これからは領地経営とかについても、ある程度は勉強しないといけないよな。教え子が様々なものを背負って頑張ろうとしているのだ、俺もちょっとぐらいは成長しないと。


「よし、それじゃ行くとするかの」


 荷物などの確認を終えたヴィヴィアンヌさんが、魔法馬車へと魔力を注入しはじめる。

 それなりに長居をし、愛着の湧いたダイトラスとも、しばしのお別れである。


「ユーキ殿!」

「えっ!? お、王様ッ!?」


 と、そこで。

 なんとエデンダルト王が単身馬を飛ばし、手を振りながらこちらへ向かって来ていた。いやいやいやいや、そこまでしなくていいですってば!? てか護衛とかいないの見るとあれ、絶対勝手に抜け出してきた感じじゃない!?


「ユーキ殿、ヒロカ殿、ヴィヴィ殿ッ! 色々と、本当にありがとう! アルネストへの道中、お気をつけて!!」


 エデンダルト王は驚く周囲を気に留める様子もなく、笑みを浮かべて大きく手を振ってくれていた。……ああいう人を、無下にはできないよな。


 俺は若干の気恥ずかしさを感じつつも、彼へと手を振り返した。

 ヴィヴィさんは苦笑いをし、ヒロカちゃんは微笑みながら同じように手を振り返していた。


「出発じゃ!」


 ヴィヴィアンヌさんのかけ声で馬車が動き出し、俺たちはアルネストへの帰路を進み始める。少し進む度、小窓から顔を出し、何度か振り返った。


 エデンダルト王は見えなくなるまでずっと、俺たちに向けて手を振ってくれていた。


 頬を撫でる風は温かく、季節の変わり目を感じさせてくれた。



※これで第二章は終了です。ここまで応援ありがとうございました!

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