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第62話 事態終息

 ディルビリアの死亡が確認されてから、はや数日。

 エデンダルト王子が正式に王位を継承してダイトラス四世となり、王国の混乱はようやく終息の気配を見せはじめていた。


 まず第一に、ダイトラス三世ディランダル・ダイトラスの死去が伝えられた。それに対して国民からは、様々な反応があった。

 王のこれまでの政策や国家運営に敬意を表し、その死を真正面から悲しみ、悼む者。

 次に自分たちの不幸や窮状を、彼が行った政治こそが元凶だとし容赦なく糾弾した者。

 そしてなんの関心もなく、これまで通りの日常を続けている者。ざっくりと分ければその三通りだった。


 俺も普段であれば我関せずで、ただただ日常を続けるタイプの人間だが、今回ばかりはさすがに色々あり過ぎた上、俺自身が当事者だったため、何度も城に呼びされる羽目になった。


 そんな中で新王――エデンダルト王子だ――から伝えられた特筆すべきものとしては、ヒロカちゃんへ《紋章》が贈られることとなり、準勇者から位が上がり正式な《勇者》となったことだろうか。

 まだ十代後半で、しかも冒険者になって一年未満の者が勇者になったというのは、前代未聞のことだそうだ。


 今回認められたヒロカちゃんの功績としては、ダイトラス王国に混乱をもたらした張本人、宰相ディルビリア・ビスチェルを討ったことである。前王を誑かし国家を脅かした悪女を、見事討ち滅ぼした英雄――そのような見聞が広まり、まさに救国の英雄として後世まで語り継がれる存在となったわけだ。


 ……ただ、俺はヒロカちゃんがディルビリアを殺したとは考えていない。あの日の夜、俺とヴィヴィさんが追い付いたときにはすでにディルビリアは首が切断され事切れており、そのすぐ傍にヒロカちゃんが呆然とした様子で立っていた。

 ディルビリアが呆気なく殺されていたことに多少の驚きはあったが、もしヒロカちゃんが殺したのだとしても、それ自体はヤツのしたこととヒロカちゃんの心情を考えれば、そこまで不自然なことだとは思わなかった。


 ヒロカちゃんも冒険者となってから、もう何度もダンジョンなどに潜りゴブリンなどの人型の魔物を何体も屠っているし、ここは令和の日本とは違い死が身近にある世界だ。悪人などを手にかける覚悟も、彼女なりにはあったのではないかと推察している。


 だがそれらを加味したとしても、わざわざ首を落としていた点に俺は引っ掛かった。


 事後、ディルビリアの検死をヴィヴィアンヌさんが行ったのだが、彼女が言うにはディルビリア自体は至って普通の人間だったらしい。他人を魔物に変えるというギフト特性から、ヴィヴィさんはヤツが昔に滅んだとされる魔族の生き残りなのではないかと疑っていたようなのだが、至って普通の人体のそれだったそうだ。


 ヒロカちゃんもヴィヴィさんと同じように、ディルビリアを魔族だと疑っていたのだとすれば、首を落とすべしとして戦った可能性はあるが……しかし彼女のギフトを考えれば、ディルビリアが人間かどうかがわからないなんてことはあり得ないし、そもそも魔族の存在など知らないはずだ。


 ということは、やはりヒロカちゃんとは別の何者かが、ディルビリアを討ったのではないか――俺はそう考えていた。

 まぁ、だからと言ってそれを頑なに主張し、教え子のサクセスを止める気などは毛頭ないのだけれど。


「ユーキ様。お迎えに上がりました」

「あ、はい! 今行きます」


 そこで、宿泊している部屋の扉がノックされた。

 今日俺は、エデンダルト……いや、ダイトラス四世に再度呼ばれているのだった。なにやら、王国の今後について話したいことがあるとのことだった。


「さて、行きますか」


 簡単な手荷物だけを持って、俺は自室を出た。


◇◇◇


「うおっ」


 案内された城内の会議室の扉を開け、俺は思わず呻いた。

 大きな部屋の中央には巨大な円卓が置かれており、そこには見知った面子が雁首を揃えて威圧感を放っていた。


「やあ、ユーキ殿。よく来てくれた」

「あ、え、えっと、お、お招きいただきありがとうございます、ダイトラス四世……」


 まずは元エデンダルト王子こと、ダイトラス四世。以前より髪が伸びたのか、金髪が編み込まれたようになっておりさらに高貴さが増している。出会った時からすでにVIPだったけど、さらに超絶VIPになりすぎ。


「ユーキ殿……今まで通り『エデンダルト』でいいと何度言えばわかってくれる? 私はそう呼んでもらえる方が嬉しい」

「は、はぁ……」


 王から苦言を呈されつつ、俺はおずおずと席に座る。だってねぇ、今までとはやっぱり状況が違いますからねぇ。


「なんともアンタらしい態度だねぇ、ユーキ・ブラックロック」

「え、あ、はぁ」


 続いて、俺の着席した隣には鋼鉄の魔女、我が領主ルカ・オルカルバラが鎮座していた。座高のはずなのになんか入口に立ってる衛兵とかよりデカい気がするんだけど? マジでこの人って人間なの?


「…………ッ」

「あ、ども」


 ビビッて領主様から目を逸らすと、次は逆側に座る現役最強勇者レイアリナ・レインアリアさんと視線が合った。軽く会釈すると、レイアリナさんは案の定ぷいっと顔を背けてしまう。むぅ、やっぱり俺、どう見てもこの人に嫌われてるよな?


「…………」

「ヒロカちゃん」

「あ、先生。お疲れ様です」


 最後は向かい側、勇者となったばかりのヒロカちゃんである。ただ、あの晩からずっと様子が変で、ずっと何かを考え込んでいるようなのだ。今日もやはり心ここにあらずで、いつもの元気と明るさがない。


「全員集まったなようだな。では、私から話そう」


 そこで、ダイトラス四世が立ち上がり、話し始めた。

 ……いや、面倒なのでもうエデンダルト王ってことでいかせてもらおう。親しみを込める意味でもね。

 ちなみにだがヴィヴィアンヌさんは欠席である。一度マギカ国へ戻り、今後の調整を済ませてくると話していた。


「今、ダイトラスは未曾有の危機に瀕している。端的に言えば、絶対的な人手不足である」


 王は憂いを帯びた表情で、王国の窮状を話しはじめた。


「先日に発生した事の顛末についてはすでに共有をさせてもらったが、それにより、先代の王を含めたこの国の政治に関わっていた重臣の過半数が亡くなってしまった。このような事態を招いたのは私の不徳の致すところであり弁明の言葉もない。だがだからこそ私には、このような現状の中でも国家運営を軌道に乗せ、国民の生活を守り抜く使命がある」


 そう言い、エデン王は自分の髪に触った。そこで俺は、はたと気付く。

 ……彼の編み込まれた金髪をまとめている髪留めは、セスナさんが使っていたものだった。


「皆に集まってもらったのは他でもない。このダイトラスの窮状を救うため、手助けしてもらいたいのだ」


 言って、エデンダルト王は俺たちの顔を見遣った。


「主権国家の危機さね。そんな風に頼み込まなくてもアタシらはアンタに協力するよ。先代も、先々代の王とも、アタシはそうやって付き合わせてもらってきた。要は義理と人情ってやつさ」

「オルカルバラ伯……ありがとう」

「で、前持って言われていた通り、アタシをダイトラスの宰相にするとして、そっちのレイアリナが軍部のトップになるってわけかい?」

「まぁ……ボクはあまり、気は進まないけど」


 俺が特に話題に絡むこともないまま、話は進んでいく。領主様が次の宰相? 最強勇者様は騎士団長? これって俺が聞く意味あるの?


「ただそうなると、オルカルバラ伯の領土をどうするかという問題が出てくるわけだが……」

「それについては、少しアタシも考えてきたよ。そいじゃ、ちょっとばかりアタシの意見を聞いてもらおうかね」


 そこで、身体を捻りルカ・オルカルバラが椅子から立ち上がった。その巨体が、そらに大きく感じられる。


「アルネストを含む現オルカルバラ領には、代官としてアタシの代理人を置くのが一番いいんじゃないかと思っているよ」


 俺は領地の統治システムなどについては全くの無知なので、話をただ聞いていることしかできない。要するにあれか、領主の代わりの人材を配置するってことか?


「確かに、それが無難な選択ではあろうな。ただ、それに適した人材はいるのか? オルカルバラ伯よ」

「ああ。すぐそこにいるさね」


 言って我らが領主は、俺とヒロカちゃんを順番に見遣った。

 ん? どゆこと?


「アタシの領地を治める代官を――ユーキ、ヒロカ。アンタたちにお願いしようと思っているよ」



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