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第49話 事態急変

※若干のグロ描写あります。苦手な方はお気をつけください!

 突如として魔法馬車が大爆発し、辺りには黒い煙が立ち込めていた。

 背後からの爆風によって、俺たちは相応の距離を吹っ飛ばされた。


「げほっ、ごほっ……だ、大丈夫かみんな!?」

「私は、大丈夫です……!」

「ヒロカちゃん! よかった!」

「ふん、わらわも余裕じゃ。舐めるでない」

「さすがヴィヴィアンヌさん!」


 俺は若干身体を打ち付けたが、いち早く勘付いていたヒロカちゃんとヴィヴィアンヌさんの二人は問題なく、無傷だったようだ。

 ……が。

 エデンダルト王子から、安堵の声が返ってくることはなかった。


「皆……僕が、不甲斐ないばかりに……ッ!!」


 そう、王子の護衛として同行してくれていた騎士数名が乗車していた、もう片方の魔法馬車も――木っ端微塵に消し飛んでいた。


 爆発によって彼らの身体はバラバラに弾けてしまったようで、辺りには()()()()()が見受けられた。それらを視認した途端、血生臭さが漂ってきた気がした。

 はっきり言って、目を逸らしたくなる凄惨な光景だ。


「うっ……」

「ヒロカちゃん、見たらダメだ」


 俺は口元を抑えたヒロカちゃんの頭を抱くようにし、視界を覆った。


「け、賢者殿! 彼らを……僕の同志たちを、回復することは可能か!? ヴィヴィアンヌ殿は、回復魔法に誰よりも精通している【大賢者】であろう!?」


 冷静さを失くし、取り乱したようにヴィヴィアンヌさんに縋るエデンダルト王子。


「無理を言うな。いくら超絶大天才のわらわでも、死者を蘇らせることなどできぬ。そんなもの、太古の魔族が使ったとされる禁忌魔法の世界じゃ」

「く……そうか」


 ヴィヴィアンヌさんの言葉を聞き、王子は膝をついて項垂れる。

 元々王子には長兄がおり、彼の死亡をきっかけに王位継承権を継いだと聞いた。それまで彼は騎士になろうと、騎士団の中で育ってきたとも話していた。だからきっと騎士団の彼らは、共に切磋琢磨してきた仲間と言える人達だったのだろう。


 ……それを想うと、今の王子の心境は計り知れないものがある。体中が引き裂かれるに等しい、深い心の痛みに苛まれているだろう。


「爆発の直前、微かな魔力の揺れを感じた。あの妙に規則的で無機質な脈動の性質を考えるに、原因はおそらく人ではない。人間にあそこまで波のない魔力の操作など不可能じゃからな。そう考えると、爆発の原因は――魔力爆弾じゃろうな」

「「魔力……爆弾?」」


 ヴィヴィアンヌさんの言葉に対して、俺とヒロカちゃんのリアクションが重なった。


「うむ。魔力爆弾の爆発の仕組みは、先ほど話したあの入国門ゲートと同じようなものじゃ。自動で周囲の魔元素を取込み、内部で魔力に変換し魔法的爆発を起こす。しかし近隣に発火を促したような魔力の形跡は感じられん。ということは遠隔操作などではなく、おそらくは自動式で爆破されたのじゃろう」


 よく周囲を観察しつつ、ヴィヴィアンヌさんは語る。

 その顔に動転した様子はなく、冷静そのものだった。


「……時限爆弾、ということですか?」

「そういうことになるな。おそらくゲートの機能と魔法時計の仕組みとを組み合わせ、特定時間経過後に作動するよう仕向けたのじゃろう」

「でも、だとしたらいったい誰が?」

「ふん、現状ではわらわにもわからぬな。情報が足りぬ。ただ魔力爆弾の技術自体は、アマル・ア・マギカで数年前から試作されている技術じゃ。魔法の力を外部装置で実現できぬかという、一種の兵器開発じゃの」

「ッ! ということは、貴様らマギカ国の者が僕らを抹殺しようとして——ッ!」


 と、そこで逆上した王子が、ヴィヴィアンヌさんへと掴みかかった。


「……は? いくらマギカ国と言えど、年単位で作動するような時限装置など作れるわけがない。できたとしても数日が限界じゃ。魔法馬車は国交成立の折、そなたの国に献上された品。もう十数年前の事になる。むしろそっち――ダイトラス王国側――が、マギカ国への宣戦布告としてあの馬車に爆弾を載せて差し向けたのではあるまいな? だとしたら国最強の魔法使いとして、黙っているわけにはいかぬぞ?」

「なんだと!? 我がダイトラス王国は、そんな非道な真似などしないッ! 散った仲間の名誉のためにも、撤回を要求――」

「落ち着いてくださいッ!!」


 怒りのぶつけ合いとなりつつあった王子とヴィヴィさんの間に、ヒロカちゃんが勇敢に割って入った。


「二人とも、憶測でお互いを罵り合うのはやめましょう。状況が状況です、感情的になってしまうのはわかります。でも、死んでしまった人がいるからこそ、感情に流されて軽率な行動をして、大きな間違いを犯してしまうことは、絶対にあっちゃいけない」

「…………ッ。ヒロカ殿の言う通りだ。すまなかった、ヴィヴィアンヌ殿。僕が軽率だった」

「ふん、わかればいいのじゃ。……わらわも憶測だけでそなたの祖国を貶めるような物言いをしてしまった。そこは素直に詫びる。申し訳ない」


 ヒロカちゃんの介入のおかげで、王子とヴィヴィさんはなんとか和解した。ヒロカちゃんの交渉能力や場を取りなす力が、メキメキと向上していることを痛感した。


「頭が冷えてきてようやくわかるが、爆発がマギカ国に到着する前だったのはある意味、不幸中の幸いだった。もし到着してマギカ国の中枢に駐車した状態で爆発されていたらと思うと……ヴィヴィアンヌ殿の言う通り、戦争の火種になっていた可能性すらある」


 冷静さを取り戻し、状況把握に努める王子。大切な仲間を失ったばかりにも関わらず、気丈に振舞うその姿に俺は背筋が伸びるような思いだった。俺もしっかりしなくては。


 ……爆発の原因が魔力爆弾とやらだったとして、そんなもんを仕掛けたのはどこのどいつなんだ? ヒロカちゃんとヴィヴィさんがいなければ、俺たちもどうなっていたかわからないのだ。犯人を突き止めなければ、先行きが不安過ぎる。


「事前に仕掛けられた時限爆弾だったとして、普通に考えればダイトラス王国からすでに設置されていたと見るべきですよね」

「確かに、それは否めない。馬車に無関係な第三者が触れることができたのは、そのタイミングだけだ。道中、触れた者がいたとすれば、唯一ヴィヴィアンヌ殿のみだ」

「で、そう考えるとわらわが怪しいとなるか? おん?」


 そこでまた空気がピリッとする。

 ヒロカちゃんがまたも空気を読み取りなそうとするが、ここは俺が引き受ける、と目配せする。


「いや、だとしたらあんなギリギリの危険なタイミングで脱出する必要はないはず。よってやはり、爆弾を仕掛けられたのはダイトラス王国出立前、という風に考えるのが自然です」

「じゃな。むぅー、だとしたら王子の言う通り、戦争のきっかけにする気だったというわけか? そうだと仮定すると、いったい誰が得をする?」

「正直に申し上げれば、今のダイトラスにマギカ国と戦争をするメリットなど一つもないと僕は思う。むしろ積極的に協力関係を結びたいというのが国の現状だし、今回の特使団派遣も本来それが目的だった」


 各自が考えを巡らせつつ、意見交換をする。しかしいかんせん、明確な答えは出ない。


「アマル・ア・マギカへの旅程は三日と、事前に定まっていましたよね? ということは、三日経った時点で爆発させるつもりだった。でも、偶然ヴィヴィが魔法馬車を見つけて私たちと出会って、それによって半日ほどマギカ国への到着が遅れた」

「それでこうして、マギカ国への入口手前で爆発をした。……と、言うことは?」

「つまりあれじゃ、予定通りマギカ国で爆発しても得をし、予定より到着が遅れて王子らが爆散するだけでも得をする……それが犯人の条件と言うことじゃ。要はそなたらがどうなっても万々歳という、その条件に当てはまる者は誰かおらぬのか?」


 話の帰結から問われた質問に、エデンダルト王子が一瞬息を飲んだようになった。その整った顔が、みるみるうちに青ざめていく。


「……僕の見立てでは、一人だけいる。戦乱や不況と言った混沌を好み、王位継承者である僕が死ぬことで、さらなる権力を得る者……」

「それは、いったい誰じゃ?」


 ヴィヴィの問いに、王子は一度唇を噛んでから、言った。


「――宰相、ディルビリア・ビスチェルだ」


 その言葉で俺は、あの気持ち悪くなるほどの、甘ったるい芳香を思い出した。



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