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第38話 シーシャは見かけによらない

 エデンダルト王子からの招集を受け、俺はヒロカちゃん、そしてシーシャと共に、乗り合い馬車に揺られてダイトラス王国の王都を目指していた。

 なぜシーシャがいるのかと言えば。

 俺とヒロカちゃんが王子から招集を受け、ダイトラス国、そしてマギカ国へ行くと伝えると「うらやま。わたしも行く」と言い出し、なんと急遽長い休暇を取って同行するととなったのだ。

「いつもクソ客にブチキレずちゃんと働いてる。数日の休暇ぐらいたまにはいい」とはシーシャの弁。ええ、アルネストギルドは本当にホワイトな職場です。


「さすがにお尻が痛くなってきたな」

「え、そうですか? 私全然です!」

「あのねぇ、俺はもう中年の域なわけ(中身は還暦だし)。ヒロカちゃんみたいな十代のピチピチフレッシュボディと一緒にしないで」

「せ、先生ったら、エッチです」

「いやどゆこと!?」

「今のはユーキがエッチだった。反省しろ」

「シーシャまで言う!?」


 他人が一緒くたになって移動する乗り合い馬車は、デカい木箱をちょっといじったみたいな座席に、立ったり座ったりと自由かつ雑に乗り込むだけなので、長時間座っていると結構お尻が痛くなる。

 もうアルネストを出てから数日、途中で天候が変わったり馬車に故障などが出なければ、今日中にダイトラスに到着できるだろう。


「ハハ、本物なわけねェだろ」

「そうか? だとしても余裕だよな、あんなの」


 そこで、ハタと気付く。

 ついさっき乗り込んできたばかりの、俺たちの対面側に座るいかにも『オレら荒くれ者です』感を放つスキンヘッドとモヒカン頭の冒険者風の男二人が、こちらを見ながらヘラヘラ笑っていた。

 うぇぇ、ダル絡みフラグかこれ?


「よぅお嬢ちゃん、兄姉と一緒に勇者ごっこかい?」

「その『銀紋章』はどこの露店で見つけたのかな? それたぶん偽物だよ!」

「キミみたいに発育のイイ女は、勇者じゃなくて娼婦にでもなった方が稼げるよ!!」

「おいおいガキの夢を踏みにじるもんじゃねェだろ。もしかしたら世界を股にかける勇者みたいな娼婦になるかもしんねェだろガハハ!」

「娼婦だけに股にかけるか、最高だなゲハハ!!」

「「…………」」


 あーくそめんどくせー。だからアルネストから出たくないんだよ俺は。

 なんで世界はあの町みたいに、のどかで平和な優しい人たちばかりじゃないんだろう。

 他人を一方的に小馬鹿にしたり見下してくるヤツってマジでなんなの? 脳みそがずっとバカ汁(?)にでも浸ってんの?


 こーゆー輩は無視だ、無視。絡むだけ時間の無駄だ。

 俺とヒロカちゃんは示し合わせたようにため息をつき、ヤツらから視線を逸らした。ね、クソだるいよねこういう連中。なんで生きてるんだろうね。


「おい、そこの二人。今のはヒロカに言ったのか?」


 が、立ち上がってヤツらの前に立ったのはシーシャだ。

 やべぇ俺としたことが、無視するためにそっぽ向いたせいで止められなかった……!


「あぁん? なんだい姉ちゃん、女の分際で絡んでくるとはいい度胸じゃねェか。なぁ相棒」

「だなぁ? あーそうだ、もしアンタぐらいの美人さんが相手してくれるってんなら、オレたちだって『銀紋章』を買えるぐらいの金は払うぜ? 当然模造品だけどなぁ!!」

「ちげェねぇや、ゲハハ!」


 面と向かったシーシャを重ねて小馬鹿にし、下卑た笑い声を上げるやから二人。……死んだな、彼ら。


「今謝れば許す。どうだ、謝れるか馬鹿猿? おっと、これだと猿が可哀そうだな」

「……あぁ? おいおい、そんな態度を取ってただで済むと思ってんのか? オレたちはこの辺じゃそこそこ名の売れた冒険者だぜ?」

「そうだぜ? 俺らは無理矢理するのは趣味じゃねぇ。優しいうちに謝っといた方がいいのはそっちだってわかってんのか?」


 と、そこでモヒカンが馴れ馴れしくシーシャの肩をつかんだ。


「むんっ」

「ゴハァァ!?」

「あ、相棒ぅぅ!?」


 が、その腕を取って捻り上げたシーシャが、そのまま男の顔を馬車の底面へと叩きつけた。男の頭が木を突き破り、逆さに串刺しされたみたいになる。他の乗客が一目散、逆側に寄って震えはじめる。


 うちのシーシャがごめんなさいね……。


「テ、テメェただじゃおかね――」

「ていッ」

「ぶべらぁッ!?」


 相棒の末路に怒り心頭のスキンヘッドが、今度はビンタ一撃で膝から砕け散る。シーシャのフルスイングビンタは、スキルでフル強化した顔面ですら耐えられるかわからないほどの威力なのである(実体験より)。


「少しでも名を売った自覚があるのなら、それに相応しい態度を取れ。頭が腐り果ててるなら、腐ったメシでも食って誰にも迷惑かけず日陰で生きろ、クソカス」


 そこでおぉ、と他の乗客から喝采。皆あの二人の横柄な態度に辟易していたらしい。

 シーシャは見た目が華奢で、いかにもか弱いショートヘアの美人さんだが、働きはじめの頃はアルネストギルドの警備員的なことも担当していたぐらい腕っぷしが達者だ。要するに、見かけによらずかなり武闘派なのである。


「シーシャさん、すごい……! かっこいい!! ホント推せるッ!!」


 隣ではヒロカちゃんが、これまでで一番目をキラキラさせてシーシャのことを見ていた。なんか名前入りのうちわを両手で振ってそうな感じ。


 そんなひと悶着がありつつも、無事その日の夕方過ぎにダイトラス王国に到着した。

 シーシャが馬車に穴を開けたおかげで余計な出費があったが、ぶっちゃけスッキリしたので良しとする。



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