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第29話 神鳴り

「リサっ! ……く、悠斗のヤツ、やっぱり……!」


 俺がダメージから復帰し態勢を整えていると、またも女子高生が現れた。今度はパンクっぽいアシメショートヘア女子だ。ぱっと見はクールな雰囲気だが、表情から見るにどうやらゆるふわ女子を追いかけてきたらしい。


「危ないっ!」

「えっ」


 そこへ、またもグラウンドドラゴンの尻尾攻撃が降ってくる。俺は咄嗟に隣の彼女を抱きかかえ横っ飛びする。


「下がってろ。俺たちみたいな凡人がこの戦闘状況に介入するのは、かえって邪魔になる!」


 見ると、すでにグラウンドドラゴンはボロボロだった。

 身体中を負傷し血を吹き出し、千切れそうな四肢すらある。レイアリナ、エデンダルトの猛攻が凄すぎるのだ。

 にもかかわらず、地竜の目は血走ったままで、自らの死期を悟ることなく暴れ散らかしている。


 ……この魔物の異常な活力も、もしかしたら悠斗のギフトの影響なのだろうか?


「で、でも。リサを助けないと。あの子はずっと悠斗に騙されてるだけで」

「えっと……キミはあの子の友達?」

「……ウチはユメカ。リサの幼馴染で、召喚勇者パーティーにいた」

「そうか、キミがレイピア使いの」


 彼女の腰に下がっていたレイピアを見て、俺は得心がいく。事前のブリーフィングで聞いていた、武器の射程が伸びるギフト持ちの子だろう。


「エデンダルト、そろそろトドメだ!」

「ああ!」


 と、そこで戦局は佳境へと突入する。

 一糸乱れぬ動きで、再び左右からグラウンドドラゴンへと向かうレイアリナとエデンダルト。スキルを活かして岩場を蹴り、高い跳躍からの落下で重力加速を乗せ——重たく鋭い攻撃を、ほとんど同時に叩き込んだ。


「GRYAAAAaaaaaaaa!!」


 断末魔と表現できる、激しい咆哮。

 ヤツの両前脚が落ち、地が揺れる。

 あのダメージならば、グラウンドドラゴンは終わりだ!


 が、しかし。


「まだだぁッ! まだ動くんだよお前はァァ!!」

「GRR……GRYAAAAAAAA!!」

「「ッ!?」」


 またも悠斗の濁声にほだされるようにして、地竜はその巨体を蠢かした。

 前脚二本を落とし、トドメを刺したと思っていたレイアリナとエデンダルトだったが、地竜の最後のあがきにより、一瞬態勢を崩されてしまう。


「今だリサッ! ギフトを使えェェ!!」

「――《暴風乙女テンペストリリ》」

「リサちゃん、ダメ——」


 悠斗の叫びの後、リサが虚ろな目で言葉を唱える。

 止めようと発したヒロカちゃんの声が、空しく宙を彷徨った。


 カッ、ドゴロロォォォォンッッ!!!!


 次の刹那――《《落雷》》。 

 鼓膜を突き破るような衝撃音。

 正真正銘、ギフトによって雷《神鳴り》が発生したのだ。

 地竜の巨体が、一瞬で焼け焦げる熱。なんという一撃だろうか……!


「が、ハッ…………!」「ぐ、あ…………!」

「レイアリナ、エデンダルトッ!!」


 地竜だけではない、その身体に張り付き攻撃を加えていたレイアリナ、エデンダルトの両名にも、雷の莫大なエネルギーが猛威を振るっていた。


 俺はスキルで全身を強化し、即座に両名の元へ。それぞれの状態を急ぎ検分する。


「ユーキ……だ、大丈夫だ……痛みはあるが、致命傷では……ない」

「んなこと言ったって、二人とも火傷がひどいぞ!」

「だ、大丈夫……ボクも、少しは……回復魔法を、使える……から」

「僕らよりも、ヤツを……ジョーガサキを、止めろ……ッ!」

「…………っ!」


 二人から俺は、バトンを渡された形になる。

 だが、地竜を圧倒していた二人が沈められたのだ。残った俺にできることはあるのか? そもそもギフトも持たない凡人が、あんな化物ギフト持ちに敵うのか? 片方のギフトはまだその全容がつかめていない。無策で挑めば簡単にやられるのがオチだ。


「……ビビってんじゃねぇよ、《《腰抜け》》のチュートリアラー」


 自分を叱咤するように、冒険者指導員チュートリアラーの蔑称を自らつぶやく。大切な教え子を人質に取られてるのに、逡巡してる馬鹿教師なんて……クソの役にも立ちやしない。


 大切な教え子――ヒロカちゃんを、この手で必ず守り切る。

 それが今、俺が聖魔樹海ここにいる理由であり、仕事だ。


 俺ができる精一杯で、挑む。

 常に仕事は、それに尽きる。


 考えろ、今の俺の手札を。今俺ができる最大限を……!!


「あとはユメカと……どこぞのモブか。クハハ、ユメカ。俺はお前をずっと殺してやりたいと思ってたんだ。この俺を見下しやがって。女の分際で、俺に見透かしたような目を向けた罰を与えてやる」

「悠斗……! やっぱりアンタの本性はそっち系だったんだね! クソ男が……リサを放せッ!」


 モブ呼ばわりされた俺を差し置いて、悠斗とユメカの口論が繰り広げられる。


「ハハ、そうやって吠えていられるのも今のうちだ。幼馴染に焼き殺されるなんて、お前に相応しいドラマティックな最後じゃないか」

「悠斗ぉぉ……お前、絶対許さないッ!!」

「クハハ。さぁ、リサ。――やれ」

「……暴風テンペスト——」


 そこで俺は《暴風乙女テンペストリリ》への対策を思いつき、即座に実行へ移す。


「キミ! レイピアをできる限り空へ向けて伸ばせ!」

「えっ」

「ギフトだ、使えるんだろ!? 伸ばしたら俺が放り投げるッ! それが《《避雷針》》になるはずだ!!」

「あ!」


 俺の叫びに反応し、ユメカはギフトを発動。瞬く間にレイピアの刃が天高く伸びた。そしてすかさず横からつかみ取り、スキル全開の腕で宙へと放り投げた。


 瞬間――再びの落雷。

 カッ、ドゴォォォォンッッ!!


「クハハハハ! 俺だけが人類を統治するに相応しいんだ! 頂点に立つべき俺が、全ての人間の価値を選定してやるッ! 劣等で役立たずな連中は全員、塵になってしまえばいいッ!!」



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