第28話 レイアリナとエデンダルトの強さ
「ヒロカ、こっちに来いッ!」
「あ、ぐっ!?」
「ヒロカちゃんっ!!」
全員の意識がグラウンドドラゴンへと向いた隙に、悠斗はヒロカちゃんの腕を無理矢理引っ張り、自分の方へと抱き寄せた。
くそ、油断したっ!!
「この、それ以上ヒロカちゃんに——」
「GRYAAAAAAaaaaaaaaaa!!」
「ユーキ、伏せろッ!」
咄嗟に腕を伸ばし、悠斗からヒロカちゃんを取り返そうとした俺へ、飛び出してきたレイアリナが覆いかぶさった。
その数舜後。
岩々を薙ぎ払うように、巨大な尻尾がスイングされた。轟音のあと、いくつもの岩が崩れ砂煙が舞う。
「皆、岩の下敷きにならないように気を付けろ! 隊列を組む、ボクの後ろに入って!」
場が混乱する前に、勇者レイアリナがそのまま前線へと躍り出る。
さすがは歴戦の猛者、こんなときでも冷静極まりない。
「ギフト——《超硬化》」
「GRAAAAaa!?」
場違いなほど静かに、レイアリナさんはギフトを発動させた。
彼女のギフトは——《超硬化》。自身の肉体のあらゆる部位を物凄い硬さにできるという、単純明快なギフトである。
レイアリナさん曰く、このギフトを発現した当初は、指の第一関節がカチカチになる程度で、誰もが無能ギフト扱いしていたらしい。若い頃にギター練習して指先が固くなるみたいな、あんな程度だったのかな? 想像だけど。
だが彼女は、この無能とされたギフトを鍛え上げ、とんでもない硬度と効果範囲を実現し、かつかなりの時間効果持続を可能にし『勇者』の地位にまで上り詰めたのだ。
彼女はまさに、持って生まれた力がどんなものでも、鍛錬の積み重ねによりとんでもないところへ行けるということの生き証人と言えた。
「GRAAAAaaaa!!」
「レ、レイアリナさんっ!?」
超硬化のギフトを発動させたレイアリナさんへ、グラウンドドラゴンは巨大な顎を開き、噛みついた。
……が、飲み込まれてしまったかと思った瞬間、彼女は全身を超硬化させ、牙を防いでいたのだった。
「効かないぞ」
「GYAAaaaa!?」
「今度はこっちの番だ」
「GAAaaaaaa!!」
転じて、レイアリナさんは大きな背負い袋から愛用武器——斧を取り出し、地竜の口腔内へと振り下ろした。あれなら確実にダメージが入ったはず。
口から紫色の血を噴き出しながら、たまらずレイアリナを放すグラウンドドラゴン。もがき苦しむように血反吐を吐き散らす。
レイアリナさん、なんて防御力だ。高い防御力がそのまま攻撃力に転じていると言って過言じゃない。まさに攻防一体。この人一人で倒しちゃえるのでは?
「レイアリナ殿、助太刀しよう」
「助かる」
「すでに馬車は出立させた。存分にやれる」
と、今度はエデンダルトが前に出た。
ぬかりなく、負傷者を乗せた馬車は先に逃がしたようだ。
やはりこの二人、猛者中の猛者。修羅場慣れしている!
「ギフト——《聖闘気》」
彼もまた静かに、魔力を使いギフトを発現させる。
身の内から溢れた黄金色のオーラが、彼の身体と抜き放った剣の先までを包んでいく。その輝きは、ただでさえ高貴な彼をより一層崇高な存在へと昇華する。
「見たところ、この地竜は亜種だ。仕留められるときに仕留めないと、景色に紛れて逃がしてしまう。そうなったら、帰路の最中ずっと警戒していなくちゃならなくなる。ヤツらは執念深い」
「ふむ、ここで仕留めねばずっと不意打ちを狙われるということか。では、一気呵成に仕留めるのが得策か」
「その通り」
二人は素早く言葉を交わし、互いの狙いを一致させる。
一気に左右に散り、地竜との距離を詰めて連携攻撃を仕掛ける。両側からの斧と剣の激しい攻撃により、押され気味のグラウンドドラゴン。どこか怯えたようなニュアンスが、その動きから読み取れた。
いいぞ、そのまま押し切ってしまえ!
「鬱陶しい連中だなァァ! もっと暴れろよほらぁぁ!!」
「GRYAAAAaaaaaa!!」
「ぐ、苦し……っ!」
「ヒロカちゃんッ!!」
悠斗の濁声に反応したのか、地竜は目を血走らせて際限なく暴れはじめる。まるでさっきまで感じていた痛みや恐怖心が吹き飛んだかのようだ。まさか、今のが悠斗のギフトの力……? 魔物を自在に使役するテイム系の能力なのだろうか?
「いけ、いけぇぇ! 死んでも暴れ散らせッ!!」
「GRRAAAAaaaaaaaa!!」
地竜はヒロカちゃんを拘束した悠斗を守るかのように、巨体を蠢かせて行く手を阻んできた。
くそ、鬱陶しいヤツ! どうやってヒロカちゃんを助け出す!?
「悠斗ぉ、悠斗どこぉぉ……ひぃ!?」
と、そこで。
懊悩していた俺の背後に、さらなる闖入者が現れる。
ゆるふわヘアの女の子だった。
「さ、下がってろ!」
「なによアレ……なんなのよぉアレはああぁぁぁぁ! 最初のヤツじゃんアイツゥゥ!! あたしもうイヤなんだってばああぁぁぁぁ!! ヤダアアアアァァァァァァ!!」
グラウンドドラゴンを見て、一気に泣き出すゆるふわヘア女子。
う、耳を塞ぎたくなるほどの金切り声だな……!
「リサ、こっちに来るんだ! そうすれば怖いこともうざいことも、全部なくなるから!」
そこで、再び悠斗が叫ぶ。
今度は荒っぽくない、どちらかと言えば相手を思いやるような声。それを聞いた途端、ゆるふわ女子の涙声が——止まった。
「悠斗ぉ…………いく、ゆうとのとこ、いく」
彼の甘い声に誘われるように、ゆるふわ女子はゆらゆらと彼の下へと歩き出した。その目は虚ろで、感情が読み取れなかった。
「おい、待て! 行くな!!」
「じゃま」
「ぐあっ!?」
手を伸ばし彼女を引き留めようとするが、その身体から放たれた電撃によってふっ飛ばされる。痛ぅ、なんだってんだよいきなり……!
そうして彼女は、グラウンドドラゴンに行く手を守られながら悠斗の下へ歩き進んだ。レイアリナ、エデンダルトも止めることはできなかった。
「ハ、ハハ……ついにやったぞ! 俺は、人をも操り支配下に置ける人間になった! いや、これはもはや神の領域だなッ!! ハハハハ!!」
JK二人を両腕で羽交い絞めにし、高笑いする悠斗・アレックス・ジョーガサキ。
くそ、ヤツのギフトは、いったいなんなんだッ!?




