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第27話 胡散臭さの正体

「い、いや、私は別に……。悠斗くんも、無事で……うん、よかったよ……」


 俺の背に隠れたまま、ヒロカちゃんは恐る恐る応じた。本当なら顔を合わせずに去りたいところだったのだろうに、彼女はこうして空気を読み、どんな相手でも不快にさせまいと応対するのだ。


 しかし、そんな優しいヒロカちゃんが、あの素敵スマイルを向けられてこの様子なのだ。……やっぱりこの男、あまり信用しない方がよさそうだな。


「さっきエデンダルトにも話したんだけど、ちょうどこの洞窟で魔石を見つけたから、引き返そうと思っていたところだったんだ。パーティーのみんなの体力も限界に近かったからね。ある意味、ヒロカたちが駆けつけてくれたのは、最高のタイミングだった」


 爽やかにハキハキと、こちらが聞いてもいないことを説明してくれるリーダーの彼。悠斗くん……だったか? もうエデンダルトのことも呼び捨てする仲になったらしい。


 ヒロカちゃんは相変わらず、俺の背に半身を隠したまま応じている。間に挟まれている俺はただの置物。


「ヒロカ、本気でお礼がしたい。でも今はこんな状況だ。良ければハグさせてくれ。な?」

「…………」


 海外の血がそうさせるのか、悠斗くんは素敵スマイルを浮かべながら『胸に飛び込んでおいで』といった感じで両手を広げた。ヒロカちゃんはもはや完全に俺の背後。ともすれば俺が彼に抱き締められてしまいそう。


「どうした、ヒロカ? ハハ、まさか数日ぶりだから、緊張しちゃってる? 大丈夫、俺はいつでもキミを受け止めるよ。アイウォンチューハグユー!」


 ヒロカちゃんの反応を、なぜか超ポジティブに受け取る彼。……いや、それさすがに馴れ馴れしくない? イマドキの高校生ってこんな感じなの? てかコイツさっきから、俺が視界に入ってないらしいな。ずっと無視されてます。


「ジョーガサキ殿。病人四名の馬車への搬入が完了した。比較的健康なキミたちには徒歩で同行をお願いすることになるが、いいだろうか?」

「ああ、エデンダルト。俺とリサ、ユメカは問題ないよ。よろしく頼む」

「苦労をかけてすまない」

「大丈夫さ。さっきも言ったけれどね、エデンダルト。キミが召喚儀式の際に城にいてくれてたらと思うよ。キミのように話の分かる人が相手だったなら、俺たちだってもっと周到に準備ができていたと思う」

「その件に関しても、本当に申し訳ない。僕はその際、外交派遣によって国外にいたものでね」


 目の前で繰り広げられる、西洋と東洋のイケメンの会話。顔面偏差値が高すぎる。そして俺は悠斗氏には一度も認識されなかった。


「なんにせよ我々ダイトラス王国は、国の資産であるキミたちを責任を持って保護し、本国へと連れ帰る。今回の召喚勇者による聖魔樹海遠征は、これにて終了だ」

「ああ、助かるよ。そろそろ限界が近かったからね。それじゃあ召喚勇者である俺らの遠征は、一応は成功、ということでいいのかな?」


 そこで俺は、強烈な違和感に襲われる。

 遠征が、成功? 半数以上の死傷者が出ているのに、か?

 というか、クラスメイトの大半を失って、今ここで気にするのが成功か失敗なのか?


「何を言っている。失敗に決まっているだろう」

「……は?」


 俺の違和感をよそに、はっきりと『失敗』と言ってのけてるエデンダルト。い、いやいや、そこまではっきり言う必要もないのでは?

 今はひとまず無事を喜ぼうって、そういう感じで帰路に着くんでいいじゃないですかね?


「キミたち召喚勇者の今後の身の振り方は、僕を含めたダイトラス王国議会によって決定されるだろう。それまでは国の定めた所定の施設で、判断を待ってもらうことになる」

「……は? いやさっき魔石渡したろ? どうしてだよ。俺が失敗って、おかしいだろ。苦労してこんなところまで来て、ちゃんと王様に言われた石ころも採ったんだぞ? 失敗ってどういうことだよ。説明しろよ」


 悠斗氏の顔から笑みが消え、徐々に詰問口調になっていく。


「説明するまでもないだろう。キミたち召喚勇者の重要任務は聖魔樹海の調査であると同時に、しかと存命し、できる限り国益に貢献し続けることに他ならない。貴重な人的資源の半分以上を失っている時点で、これは失敗なのだ」


 毅然とした態度で説明するエデンダルト。うん、この人ってば言い方に気を付けるって感覚ない人だったわ。


「いやだからふざけんなよマジで。『混沌層の魔石を持ち帰るだけでいい』って言われて来てんだよこっちは。そのためにきっかり色々計算してやってきたわけ。だから全然貢献しないカスにだってある程度我慢してたっつーのに……っ。なのに、はぁ? 失敗とか……マジふざけんなって!」


 エデンダルトに対し、矢継ぎ早にまくし立てる、リーダーの彼。雲行きが怪しくなってきたな……。


「ふざけてなどいない。僕は事実を受け止め、判断を下しているだけだ。案ずることはない。今回の遠征を失敗したとは言え、キミたちが国にとって引き続き貴重な人材であることに変わりはない。従ってできる限りの保証と権利を——」

「だからぁッ! 俺は失敗してないわけ! 死傷者出たとかってのも、要は俺がわざわざここまで人材を選別してやったってわけ! 国のリソースだって有限だろうから、勇者として特権的な生活をするに相応しい人間を、こ・の・オ・レ・がッ! 責任持って取捨選択してあげたってことなの、わかる?! どうしてそれで失敗って言われんだよッ!? あぁハラ立つなぁ!!」


 つかみかかる勢いで、目を血走らせ怒鳴る悠斗氏。


「……ひどすぎっ」


 後ろから、ヒロカちゃんの嗚咽が聞こえた。

 ……確かに、ひどすぎるな。要するにコイツは、召喚勇者パーティーのリーダーとして、自分が生き残るに相応しい人材を遠征を通じて選定してやったと言っているのだ。


 ていうかコイツ、自分でとんでもないこと言ってるってわかっていないのだろうか?


 人に人の優劣を決める権利などあるわけがない。上司だろうが社長だろうが国で一番偉いヤツだろうが、他者の価値を勝手な判断で決めつけて一方的に断罪することなど、あってはならないのだ。


「あーもうハイハイ、わかりましたわかりました。少しは見所あるかと思ったけど、結局ダメだわ。お前だよお前、エデンダルト」

「……ジョーガサキ殿、貴殿にお前呼ばわりされる筋合いはない。召喚勇者とは言え、あまりに無礼が過ぎると——」

「無礼はお前ェらだろッ! この俺に失敗とかほざいといて、ただで済むと思ってんじゃねェよッ!!」


 興奮状態となった悠斗氏が、髪の毛を逆立ててシャウトした。


「来いッ、《《地竜》》!! 暴れろッ!!」

「GGHRYAAAAAAaaaaaaaaaa!!」

「「「――――ッ!?」」」


 悠斗の叫びのあと、耳を引き裂くような咆哮。

 地鳴りがし、岩場の影から《《ソイツ》》は現れた。


 —―グラウンドドラゴン。


「俺のギフトの力で、全員間引いてやるよッ!!」


 俺たちは即座に、臨戦態勢へと突入した。



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