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第23話 作戦会議

 通常業務が終了したばかりのギルドにて、聖魔樹海特別調査団の作戦会議が行われていた。

 取り仕切っているのは、金髪碧眼の超絶イケメン、エデンダルト・ダイトラスである。大きなテーブルに聖魔樹海の地図を広げ、凛々しさと爽やかさをこれでもかと発散している。


 ……だけど俺と彼、実は同時に股間がヒュンとなったことがある仲なんだぜ? 俗にいうタマヒュン友達ってやつさ! これ外で言ったら不敬罪で死刑確実だと思います!!


「まず、召喚勇者パーティー離脱者二名への尋問から判明したことを整理しようと思う。まずパーティー本体は、聖魔樹海の【混沌層】にまで進んだことがわかった」


 聖魔樹海、混沌層。

 そもそも聖魔樹海は、今現在でも不明領域の多い前人未踏の地だ。今机に広げられている地図も、聖魔樹海の入口付近と言える【序層】のみが描かれた地図だった。

 今召喚勇者らがいるという混沌層は、序層を越えた先のエリアである。世界情勢的に見ると、今はその辺りの地形や環境の情報を持ち帰るだけでも調査は成功と言われていた。


 ただしその場合、混沌層にて『魔石』を採ってくることを課される。なぜならば、その土地の魔元素を溜め込み魔力化する性質のある魔石を調べることで、その地域の環境情報がある程度わかるためだ。当然、これには嘘を看破するためという理由もある。

 これらのことから、現地の魔石を持ち帰ることが調査成功の証とされているのだった。


「次にパーティーの状況を共有する。情報提供者である牢屋の二名と別れた時点で、生存者は七名だったそうだ。王国出立時点で二十二名だったことを考えると、半数以下となってしまっているのは痛恨の極みだな」


 エデンダルトは言いながら、苦虫を噛み潰したような表情になる。

 彼の立場からすれば国の大金を使って呼び寄せた者たちが半分以下になってしまったわけだから、そうなるのも無理はないのだろう。

 聞いた話では、召喚行為自体は現国王のダイトラス三世が独断で行ったことらしい。


 俺も上司の独断によって発生した問題の尻ぬぐい、よくさせられたっけなぁ……。


「リーダーの名前は悠斗ゆうと・アレックス・ジョーガサキだ。彼がパーティーを引っ張る中心人物であり皆のまとめ役だそうだ。会敵時なども率先して指揮を執っていたともある。ダイトラス王国発行の『紋章』もこの人物が所持している。ただギフトは……不明だそうだ。一度も人前でギフトを使用したことはなかったらしい。それでも戦闘時は持ち前の運動神経とセンスで、かなり活躍していたとのことだ」


 リーダーの悠斗……か。俺はそこで、違和感というか、妙な引っ掛かりを覚える。

 パーティーメンバーというのは言うまでもなく、共に命を預け合う仲間だ。しかも彼らはクラスメイト同士なわけで、そう考えれば普通はギフトの特性など、共有し合っているものではないだろうか?


 有能で便利な【ギフト持ち】は他国から引き抜きの可能性があるので、国家の判断で秘匿されるというのは聞いたことがある話だが……んー、気にしすぎか?


「他の主要メンバーでは、リサ・マイクマ。彼女はぜひ生きて連れ戻したい筆頭だ。彼女のギフトは《暴風乙女テンペストリリ》と呼称され、雲に干渉することで天候を支配できるほどの素養を秘めた、雷属性の魔法を扱える。この能力を国のコントロール下に置ければ、干ばつなどの問題をほぼ解決できる」


 一層力強く、エデンダルトが主張した。ダイトラス王国側として、すでに目ぼしいギフト持ちは選定済みというわけか。

 だがだとしたら、よりリーダーのギフトが不明なことが気にかかる。要は出発前、特訓の段階から秘匿していたことになるからだ。おそらく発現する以前から、秘密にするつもりでいたとしか思えない。


「次はユメカ・サイジョウ。彼女は武具干渉型のギフト持ちだ。レイピアを使い、ギフトによってその射程を超長距離にまで伸ばすことができ、それによる遠距離の刺突攻撃が可能だそうだ。我々が接近する際には、敵対の意思はないと伝え、迎撃されないよう注意しなければな」


 ふむ、コレって要するにアレだよね? 射程は13キロ程度だろうな(すっとぼけ)。


「他の四名は、水や土の魔法に優位性があるギフト持ちだそうだが、ほぼサポート的な立ち回りをしていたそうだ。リーダーの悠斗・アレックス・ジョーガサキが指示を出し、それに従って行動していたという。ただ全員、食料が少なく衰弱傾向にあるとのことだ。あまり時間は残されていないと思った方がいいだろう」


 その場にいた全員に、そこはかとない緊張感が漂った。


「牢屋の二人と本隊が別れてから、すでに二週間以上が経過している。状況は多少変化していることだろうが、今の内容を全員頭に入れた上で、事に当たってもらいたい」


 エデンダルトよく通る声で言った。


「前線指揮はレイアリナ殿、あなたに任せる。なにかあるか?」

「……強いて言えば、リーダーの男のギフトが不明、というのが気になるかな。皆に慕われ、推されてリーダーになったんだとしたら、自分の手の内を誰にも明かしていないというのは、なんだかイヤな感じがする」


 皆、俺と同じく違和感を持っていたらしい。

 レイアリナの言葉を聞き、隣のヒロカちゃんが頷いていた。


「ヒロカちゃん、心当たりが?」


 俺が話を振ると、ヒロカちゃんは重々しく語りだした。


「はい……。リーダーの悠斗くんは、いつもクラスの中心にいて、誰からも慕われていたし、学校の教師たちからも一目置かれるすごい人でした。現役でモデルもやってて、イケメンで、オシャレで、成績もいつも上位にいて。まさに非の打ちどころのない人って感じでした」


 ヒロカちゃんはどこか恐る恐る、といった様子で話している。

 ある意味、クラスの中心人物に疑いの目を向けるのだ、彼女の性格からして気後れしてしまうのだろう。


「ただ……ただ私は、いつも人の顔色を窺ってばかりいたせいなのか、彼がすごく冷たい目のときがある気がしてて。それが、他人を全員見下しているような目で……。でも私、嫌われたりするのが怖くて、あまり誰かに言ったりとかは、できなくて。私なんかが悠斗くんに意見したら、クラスで浮いちゃうと思ってたから……」


 自分の言葉で自分を傷つけ、俯き加減になっていくヒロカちゃん。

 俺は彼女に近付き、隣に立った。


「ヒロカちゃん、シーシャも言っていたけど、キミは普通の人より優しいだけだ。そうやって周囲に気を配って張り詰めて、それでも場を乱さないようにって振舞う。それを優しさと言わずなんて言うんだ」

「先生……」

「キミの生き方を、キミ自身は否定したいかもしれない。『周りの顔色を窺ってばかりで……』ってね。でも、まったく他者のことを考えないで身勝手に自分の気分や都合を押し通す人ばかりだったら、世の中はどうなる? ヒロカちゃんのような人がいてくれるから、人は安全・安心な平和を生きていけてるんだ。少なくとも俺はそう思ってるし、自分もそうなろうと努力して生きてるつもりだ」


 おっと、昔を思い出してつい熱くなってしまった。

 俺を前世の職場で助けてくれたのも、ヒロカちゃんのような人たちだった。自分のことや気持ちばかりを優先せず、積極的に助け合おうとしてくれる人たち。


 どうしてそんな人たちが、後ろめたい想いなど抱えなければならないのか。人を想える自分を肯定し、幸せになるべきだと俺は思う。


「……先生、ありがとうございます。感激しました! 私これからは、自分の生き方をちゃんと肯定してあげられるように頑張ります! 今まで、頭から否定してばっかりだったからダメだったんだって、今ようやくわかりました! 先生のおかげです!」

「い、いやいや。大したこと言ってないし、俺はただ自分の経験談から言いたいこと言っただけっていうか……」


 語りすぎたかな、と気づき、若干気恥ずかしくなる。

 誤魔化す意味も込めて、俺は後頭部をポリポリと掻いた。


「それでもいいんです! これからもたくさん、先生のお話を聞かせてくださいね!」

「あ、ああ。お安い御用だよ」


 俺の愚痴みたいな話を聞いて、ヒロカちゃんは笑顔を見せてくれた。ただ、その屈託のない笑顔が、おっさんとしては少しくすぐったかった。


 作戦会議はそんな調子で、つつがなく進んていった。



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