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第20話 俺は選ばれし者なんだ

※不快なキャラの一人称です。苦手な方は読み飛ばしてください※

「ねぇ悠斗ゆうとー、あたしもう歩けない」


 後ろから気だるげな、鬱陶しいほどに甘ったるい女の声。粘つくハチミツを一気飲みさせられたような気分になる。心底耳障りだ。

 怒鳴り散らしてやりたくなるが、深呼吸して冷静に返す。


「……リサ、もう少しだから自分の力で歩いてくれ。あそこの洞穴まで行ってみようって、そう決めたろ」

「やだ! もうイヤなのあたし、こんなとこッ!」

「リサ……いい加減にしてくれ。その話はもう終わったことだ。何度も話し合って、お前も納得してここに——」

「別にあたし最初っから納得してないし! ただみんなしてそーゆー空気だったから乗ってあげただけだしっ! もう家に帰してよっ!!」


 今度は耳を引き裂くような、ヒステリックな金切り声。はぁ……こいつは本当に救いようのないクソ馬鹿女だ。ベッドの上で男を喜ばせるぐらいしか能のないクソ無能。

 お前と同じようにこっちだって疲れているのに、そんなこともわからないのか、この猿ビッチは。

 まったく……不愉快でたまらない。


 なぜ女という生き物は、こんなにも非論理的で他責思考なのか。

 こんな下等生物が見た目の良さだけで大人にチヤホヤされ続け、あの幼稚な精神のまま社会に出て行くのだと思うと反吐が出る。


 ……まぁ、俺たちはもう日本社会に出ることはないが。

 ただだからこそ、この遠征を失敗で終わらせるわけにはいかない。


「リサ、聞いて。俺たちはもう子供じゃないんだ、少しは我慢しよう。俺だってこう見えてキツいんだよ。一緒に乗り越えよう、な?」


 できる限り穏やかに、リサの好きそうな声音で語り掛ける。優しく、慈しみを込めて、包み込むように。


「……今まで十分我慢したんだもん! てか悠斗、いつもはもっと優しいじゃん!? こっちに来てからなんか全然優しくない気がするんですけどっ!?」

「リサ…………はぁ」


 また俺の耳元で金切り声を上げ、突き飛ばしてくるリサ。こいつ……マジでうざいな。今すぐにでも殺して魔物のエサにしてやりたいところだが、コイツは超強力なギフトを持っている。

 できれば生かしたまま帰還し、従順な手駒としたいところなのだが……。


 それにしても、リサみたいなタイプの女は、なぜこうも自分勝手に都合の良いようにしか物事を認識できないのか。見ているだけで虫唾が走る。


 リサがクラスで一番ビジュアルが良く、学校の中での知名度もそれなりだったから、一度身体を味わってやっただけでこの彼女面。

 相手の感情も同意も確認せず、身勝手な独占欲を発揮してそれを押し付けてきた挙句に、自分の機嫌が悪くなったらヒステリックに八つ当たりだ。


「これだから馬鹿は嫌いだ……」


 誰にも聞こえない声で、独り言ちる。

 あの時、こいつじゃなくヒロカを選んでおくべきだったか。

 ヒロカはあまり目立つタイプじゃないが、顔は整っていてポニーテールの髪が美しく、密かに人気があった。

 しかもやけに身体の発育が良くて、いつもパンパンにシャツの胸元が張っていたから、いつかあれを俺の自由にしてやると考えていた。


 が、リサのヤツが今みたいにヒステリックを起こして『ヒロカを追放しないとギフトの魔法で暴れる』などと言い出し、二択を迫られた俺はヒロカを追放した。


 だが、それがミスだったか?

 ……いや、俺が判断を間違うわけがない。『空気を読む』だなんて、あんなクソみたいなギフトじゃ、結局足手まといになるのは確実だ。


 ヒロカの身体を味わえなかったのは惜しいが、あの程度の女ならこっちの世界にもゴロゴロいる。聞くところによれば、まだ奴隷が存在している国もあるらしいし、この遠征を成功させて地位と名誉を得られれば、無償で遊び放題だろう。


 ……というかヒロカのヤツ、万が一にも生き残って聖魔樹海ここを出られたとするなら、奴隷に身をやつしているかもしれないな。

 そうしたら勇者特権で探し出して買ってやり、好きに弄んでやろう。ヒロカは話し声も耳心地が良かった。きっといい声で鳴くだろう。


「リサ、あそこまで歩けば休めるからさ。もうちょいがんばろ、ね?」

「ユメカ……うぅ、あたしのユメカぁ~」


 俺の次にリサへと歩み寄ったのは、クラスのナンバー2と言える女子、ユメカ・サイジョウだ。リサは半べそで彼女に抱きつき、それをユメカが受け止める。

 ユメカはキリっとした雰囲気をまとうアシメショートの似合うクール系美女だ。が、リサ以上に融通が利かない頑固者で、俺はあまり得意じゃない。ただリサとは幼馴染らしく、ヤツを手懐けるのだけは誰よりも上手いから()()した。


「ありがとう、ユメカ。キミがいてくれなかったらと思うとゾッとする」

「……悠斗、別に取り繕わなくていいから。イライラしてんのバレバレ」

「…………ッ」


 口角を上げて微笑みかけた俺に対して、ユメカは軽蔑するような目を向けてきた。これだ、この目だ。

 この俺を見下しやがって……クソ女が!


 俺は選ばれし人間なんだ。

 顔が良くスタイル抜群、現役男子高校生モデルとして活躍してる。おまけに頭も冴えてテストの成績も常に上位、さらにいつも人に囲まれ人望にも厚い——劣っているところなんて何一つ見当たらない。


 こんな俺に嫉妬を向けてくるヤツは無限にいるが、表立って敵意を向けてくるような馬鹿はほとんどいない。

 当然だ。どんな誰であろうと、世間一般の評価で言えば圧倒的に俺の方が上なのだから。そんな人間と敵対すれば自分が孤立するのは目に見えている。あえて孤立したがる人間などそうはいない。


 なのにこのユメカという女は……明確に俺へ敵意を向けておきながら、いつも平然としている。

 現時点でリサのお目付け役として以外の価値がないくせに、無駄に堂々としやがって……クソアマが!


 他の使えない連中が辿ったのと同じように、俺のスキルで魔物の餌食にしてやろうか?


「ふぅ…………」


 俺は二人から離れ、深呼吸して怒りを鎮める。このままでは怒りに飲まれて残りのメンバー全員を血祭にしてしまいそうだ。まぁ、はっきり言ってリサとユメカ以外は単なる有象無象だが。

 ヒロカより使えるギフトを持ってはいるが、どいつもこいつも一長一短、帯に短したすきに長し、といったところか。


「ここに来てあのショーゴの離脱が響いてくるとはな……」


 俺は前髪をかき上げながら、苦虫を噛み潰したような気分を思い出す。

 ヒロカを追放する際に、パーティーのパワー担当だったショーゴが離脱してしまった。アイツの持っていた《剛腕》のギフトは、巨体の魔物に対してかなり有効だったため、なんとも惜しいことをした。もう一人はどんなヤツだったかあまり覚えていない。


 ショーゴはおそらく、ヒロカを襲うつもりだったのだろう。アイツは単細胞の性欲猿だ、俺より先にヒロカを味わわれるのは癪に障ったが、その毒牙がリサとユメカに向かなくなれば俺のストレスも減ると考え、最後には離脱を認めたのだが……まぁいい。他に手はいくらでもある。


「ここにいる全員の命運は、俺にかかってるんだ……監督者としての責任を、果たさないとな」


 俺は必ず生還して、世界を統べるような人間になる。そう決められているんだ、運命は。

 だからまずは、このクラスから有能な者だけを取捨選択し、俺の配下として採用してやる。


 せいぜい、命懸けで踊ればいい。



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